使用者4割が「愛着なし」の悲哀 “ビニール傘”の持続可能な活用法とは?

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

使用者4割が「愛着なし」の悲哀  “ビニール傘”の持続可能な活用法とは?
東京メトロに届いた傘の忘れ物(東京メトロお忘れ物総合取扱所)(写真提供:東京メトロ ※一部モザイク処理をかけています)

例年よりも早く梅雨が明け、全国で記録的な猛暑日が続いている。

暑い日に怖いのは突然のゲリラ豪雨だ。日差しによって熱された空気が上昇して積乱雲が生まれ、局地的な大雨を降らせる。傘を持っていない時に降られるとずぶ濡れは必至なので、コンビニなどでビニール傘を買った経験のある人は多いのではないだろうか。しかし、雨がやみ、立ち寄った店に傘を忘れてしまった場合、わざわざ取りに戻るという人は少数だろう。

安価で手軽な分、逆に大切に扱われることは少ないビニール傘。その実情は数値からも垣間見られる。

「傘に愛着がない」4割がビニール傘使用

国内で消費される傘は年間約1.2~1.3億本(推計)。そのうちの6割にあたる約8000万本がビニール傘といわれている。

誰もが1度はビニール傘を使ったことがあると言ってもいいだろう。しかしウェザーニュースの調査(2015年)によればビニール傘を使用している人の4割以上が「傘に愛着がない」という。また、長傘を使用している人でも「傘に愛着がない」と答えた人が4割近くいる。

ウェザーニュース「傘調査 2015」より

そもそもビニール傘のみならず「傘」全体が大切にされていない実情が、忘れ物の統計からも見えてくる。

昨年、東京都内だけでも、拾われた傘の数(拾得届)は約25万本におよぶ。そのうち、遺失届が提出された傘はわずか4587本だった。

電車やバスなどの公共交通機関にも、日々多くの傘が忘れ物として届けられる。東京メトロ広報課によると、昨年1年間にお忘れ物総合取扱所(東京メトロ飯田橋駅構内)に集まった傘は約6万本にのぼった。

公共交通機関は遺失物法上「特例施設占有者」と呼ばれ、落とし主が2週間以内に見つからない場合、傘・衣類等の安価な物を処分する権限を持っている。東京メトロでは、特に持ち主が現れにくいビニール傘は「2週間、大事にお預かりさせていただいた後でやむなく処分している。環境配慮の観点からもできるだけお引き取りいただきたい」 という。

忘れ物の代名詞とも言われる傘。紛失してもいいように、あえて愛着を”持たないように”しているのかもという、いらぬ邪推もしてしまう扱われ方である。

ビニール傘を盗んだとして50代の女性が逮捕されたケースも

また、コンビニの傘立てや、時には職場などで傘を盗まれた経験のある人も少なくない。雨が降るとSNS上では被害の声が投稿される。

実は安価なビニール傘であっても窃盗罪が適用され、盗んだ人は逮捕される可能性がある。

2021年11月には、静岡県内のスーパーの傘立てから他人のビニール傘(300円相当)を盗んだとして、50代の女性が逮捕されたケースもあった。

被害届が提出されたことから、同スーパーを巡回していた警察官が、防犯カメラに写っていた女性によく似た人物を発見し職務質問。女性が容疑を認めたことから逮捕に至ったという。

ビニール傘を盗まれて被害を訴える人は少なく、これは特殊な例といえるかもしれない。

しかし、もしも愛着のある傘が盗まれてしまったら、被害届を出すことで戻ってくる可能性があることは覚えておきたい。

傘の「シェアリング」も普及している

急場しのぎで使われ、盗まれても諦められ、忘れられ、捨てられる。理不尽ともいえる運命をたどるビニール傘。脱プラスチック時代に逆行し使い捨てられるビニール傘だが、これらを活用するサービス・商品もあらわれている。

急な降雨時に駅などで傘を借りることができるシェアリングサービス「アイカサ」は登録者20万人を突破した。

駅や商業施設にあるアイカサのスポット

近年は頻発するゲリラ豪雨が原因で、雨具の購入やタクシーに乗るなど想定外の出費が増えているとする調査もある。アイカサはそんな予期せぬ出費を抑えられるだけではなく、1回の利用につき(ビニール傘の購入に比べ)CO2約692gの削減に貢献できるという(※)。これはレジ袋約12枚分にあたる。

首都圏を中心に展開され、傘のスポット(設置場所)は現在約1000か所。スポットにはオリジナル傘やリサイクル素材のビニール傘が設置されている。荷物を減らしたい人や、愛着のある傘を持っていない人には便利なサービスといえるだろう。

ユニークな取り組みを行っているアパレルブランドにも注目したい。「PLASTICITY(プラスティシティ)」(株式会社モンドデザイン)は、駅や商業施設で廃棄処分されてしまうビニール傘をリサイクルした「かばん」や「財布」などを発表している。

「PLASTICITY(プラスティシティ)」公式ホームページより

水や汚れに強い傘の特質を生かし、実用性・デザイン性ともに高い商品を開発・販売している。また、購入者が不要なビニール傘を提供することで、商品購入時に使えるポイントと交換できる”リサイクルプログラム”も実施。同ブランドは、自らを「10年後になくなるべきブランド」と定義している。

地球温暖化が進むと局地的な豪雨が増えるとの研究結果もある。身近なビニール傘にもう少しだけ着目し、温暖化問題を考えるきっかけとするのも良いかもしれない。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア