顔見知りによる性加害「NOと言えない」理由…被害者に働く「心理」の正体とは

弁護士JP編集部

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2022年06月15日 15:52

顔見知りによる性加害「NOと言えない」理由…被害者に働く「心理」の正体とは 性被害の告発を行った女性への「2次被害」も問題となっている(Ystudio/PIXTA)

「性暴力」の告発が日本の映画界などで相次いでいる。

2017年ハリウッドの映画プロデューサーの地位を利用した性暴力の告発から始まったいわゆる「#MeToo」運動だが、ここへ来て日本でもさらに本格的に広がっている。

これらの性被害の告発で特徴的なのは、加害者、被害者ともに「顔見知り」であるという点。一般的に加害者側がその地位・立場を利用して性暴力におよぶとされるもの。

被害者が声を上げやすい環境・世論が形成されつつある反面、ネット上の誹謗中傷をはじめとする「2次被害(セカンドレイプ)」の問題も後を絶たない。

「売名行為」「その気があったのに望みが実現しなかったから(告発した)」「(ホテルなどの)部屋に入る時点でおかしい」「なぜすぐ逃げなかった」…。さまざまな言葉に苦しみ2次被害を受ける被害者たち。

勇気をもって性被害の告発を行った女性に対して、偏見や誤解にもとづき、必要以上に攻撃的で心無い言動が投げつけられる。直接言葉にしなくとも、加害者と被害者が「顔見知り」ということだけで、同様の印象を心の中に持つ人も少なからずいるのではないだろうか。

しかし、被害者には「顔見知り」だからこそ、壮絶な状況が発生していることはあまり知られていない。

「強く」拒絶することが難しい理由

「そもそも性暴力被害は顔見知りの間柄というケースが多く、身体的暴力などが伴わないことが多いです」。こう語るのは、目白大学心理学部心理カウンセリング学科・齋藤梓准教授だ。

性暴力被害者などの精神的ケアにも携わってきた齋藤准教授は、顔見知りといっても、いくつかのパターンがあると続ける。

「ひとつは相手が自分より立場が上の場合。地位だけではなく、たとえば同級生同士であっても、『クラスの中での影響力の違い』なども力関係になります。また、初めて出会った人でも、言葉の中で(加害をする人は)自分を権威付けします。被害者をおとしめるような言動をするなどして、力関係を作り出していきます。一見すると対等な友人、恋人関係間でも、同様の現象が発生します」

上下関係が存在する場合は、加害者によって事前に他の「ハラスメント的」な行為があることも多い。「無理やり飲酒をさせる」、「密室に誘い込む」といった予兆的な行動だ。

しかし、相手が被害者より目上で、信頼する立場である以上、「目上の人を悪く思ってはいけない」「疑ってはいけない」「まさかそんなことが起きるわけがない」と思うのは、ごく一般的な心理状態だと齋藤准教授は話す。

第3者から見たら「なぜついていってしまったんだろう」と思う事態であっても、それは上下関係が存在する間柄ではごく自然なことだ。しかし、後になって、被害者が自分を責めたり、周りからも「合意があったのでは」と責められることになる。

一方、加害者側も、被害者側が「NO」と強く反応できないその状況に乗じて、加害を行うケースも多い。

「自分より立場が上、さらに同じ『コミュニティー』の人であれば、その『出来事』のあともその人も含めた周りの人と関係性が続きます。どうしても『強く』拒絶することは難しい。

自分のポジションを失うことにつながりかねず、そのコミュニティーにいられなくなり、人生を変えられるという恐れが発生するからです。やんわりと拒絶したり、何とか気を逸らすとか、そのような振る舞いすらできない状況も少なくありません」(齋藤准教授)

性被害者が声を上げるまでのハードルは想像以上に高い(NOV/PIXTA)

追い込まれた被害者の「生存本能」に近い反応とは

自らの身に起きている「危機」 をようやく認識し、相手をなだめ、反抗や逃走を試みる。

しかし、「『抵抗しない』ことが1番『生き物』として『生存確率』を上げる自然な行動と脳が判断します。それによって、よりひどいことをされるのを回避できると判断するのです」(齋藤准教授)

被害者の体が動かなくなるのは、「生存本能」に近い。ここまで追い込まれた被害者の壮絶な状況を、第3者が想像することは難しい。

「たとえば上司から仕事を依頼された時、自分の領分ではないけれど、断ると自分の将来に響く、上司の心証が悪くなると思うのは自然です。断り切れなくて、仕事を引き受けざるを得ず、残業をすることになる。しかし、構造はまったく同じにもかかわらず、「性暴力」となると、途端に『断れるはずだ』となります」(齋藤准教授)

臨床心理士として被害者支援も行ってきた齋藤准教授

社会・コミュニティー全体で性暴力を許さない強い意志を表明する

性被害を警察に届けるケースは被害全体の数パーセント、多くても10%ぐらいとも言われている。「同意があったのでは」と届け出不受理、不起訴になる場合も多く、起訴や有罪となると、さらに数パーセントに絞られる。

事件のPTSD(心的外傷後ストレス障害)回復へのカウンセリングにつながる人もごくわずかだ。そもそも、PTSDに対するカウンセリングを提供している専門職や施設も多くはなく、また、カウンセリングには費用が掛かる。

さらに多くの被害者は 、「自分の起きたことを誰かに相談しよう」 ということにも気がつかず、誰にも言えず、長い期間を過ごすという。

「幸運にも」スムーズに心理療法が受けられ、PTSDの症状が軽減されたとしても、そこから先の人生を取り戻すカウンセリングはまた別に続いていく。

性暴力被害者が事前に被害を防ぐのは極めて難しい。「加害者や傍観者にならないという大人への教育を広め、社会・コミュニティー全体で性暴力を許さない強い意志を表明する必要がある」と、法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」への参加経験もある齋藤准教授は訴える。

現在、性暴力の実態に即した刑法にすべく、法務省の法制審議会でも改正の議論が行われている最中だ。

「国が、『何が性暴力か』『何が同意か』を法律に明記することは重要だと考えています。その上で、『性暴力は許されないもの』という認識が広まり、共有されていくことを願います」(齋藤准教授)

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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