「2ちゃん時代から意識変化してない」 弁護士が「ネットの誹謗中傷と戦う」サービスを開発したワケ

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

2022年06月17日 16:20

「2ちゃん時代から意識変化してない」 弁護士が「ネットの誹謗中傷と戦う」サービスを開発したワケ 弁護士が立ち上げた新サービス「DIKE」トップページ(https://dike.tech/)

侮辱罪の厳罰化が盛り込まれた改正刑法が可決、成立した。

プロレスラー木村花さんがインターネット上で誹謗中傷を受けて命を絶った事件から丸2年。6月13日、花さんの母・響子さんは記者会見を開き、「これまでの侮辱罪では(誹謗中傷の)抑止力にならなかった。『やっと』という思いだ」と支援者への感謝と安堵を語った。改正刑法の施行は7月からの見通しだ。

また今年10月からは「改正プロバイダ責任制限法」も施行される。これにより誹謗中傷を行った加害者を特定する手続きなどに対し、被害者の負担が大幅に抑えられるという。

さらに、申し立ての手続きに必要な事務作業をスピーディーに進められるサービスも弁護士によって開発されている。これらの取り組みによって、今後、ネット上での誹謗中傷トラブルの素早い解決が期待されている。

弁護士が立ち上げた「誹謗中傷と戦う」新サービス

ネット上で誹謗中傷の被害を受けた人が、加害者(発信者)を特定するためには「発信者情報の開示請求」を行う必要がある。

手続きは複雑で、裁判を2度(対サイト運営者、対プロバイダ)経なければならず、被害者がひとりで開示請求を進めることは難しい。さらに発信者の特定までの期間は早くて9か月 。当然、弁護士に依頼した場合には費用などもかさむ。

しかし10月から運用がはじまる「改正プロバイダ責任制限法」によって、2度の裁判が一体化、開示までの期間の大幅な短縮も期待されている。

「改正法は発信者情報開示を裁判所主導で進めていくというコンセプトで、一気通貫で開示が受けられるようになると言われています。そのため形式的な申請書類を作りさえすれば、ある程度の知識は必要ですが、個人の方でも弁護士を雇わず申し立てを行えるようになると考えています」。

そう語るのは五十嵐将志弁護士だ。裁判所に提出する「情報開示命令」申し立ての書類作成を行うためのサービス「DIKE(ディケ)」をリリースしたという。

書類作成をできる限り自動化するこのサービスによって、ユーザー(被害者)自身による書類作成を支援するほか、弁護士に依頼する場合も弁護士の稼働を減らし、被害者の費用負担を減らすことが可能になると話す。

弁護士JPのインタビューに応じる五十嵐将志弁護士

「放った言葉には責任を持ってほしい」

普段はスタートアップ企業を法務の面から支えている五十嵐弁護士。誹謗中傷の被害に目をとめた理由は、「弁護士と依頼者の関係」への問題意識だ。

「弁護士と依頼者の関係が半世紀近く変わっていないのではと感じていました。自分の似顔絵作成すらネットで頼める時代に、仕事を休んで事務所に来てもらったり、値段交渉を行ったりしている。しかも、弁護士が何をしているかがわかりづらいので、依頼者は不満を持ちやすいし、弁護士も貢献を理解してもらえず苦しんでいる」(五十嵐弁護士)。

さらに「誹謗中傷」の問題では、前述の通り、情報開示までに依頼者の時間・費用の負担が大きく、弁護士も労力の割に稼げないという現状がある。五十嵐弁護士は、両者の感覚のズレが特に大きいこの分野を足がかりに「弁護士と依頼者の距離を縮めていきたい」と考えるに至った。

もちろん誹謗中傷を書き込む人に対する憤りもある。

「SNS上の発信は、書き込んでいる方にとっては独り言でも、言及されている方にとっては目の前で言われているのと変わらない。日本は匿名で発信している人がずば抜けて多いので書き込む側の心理的ハードルも低く、『2ちゃんねる』などの時代から意識が変化してないと感じています。

表現は自由。であるからこそ、放った言葉には責任を持ってほしい。自由であることは、責任がないということではありません」(五十嵐弁護士)。

問題解決へのタイムラグを大幅に短縮『見込み診断』とは?

DIKEリリース直後の反響は予想外に大きく「3日くらいはずっと携帯の通知が鳴っていた」が、一方で批判的な反応もあったという。「良くも悪くも、皆さんが真剣に考えているエリアにボールを投げたんだと実感しました」(五十嵐弁護士)。

主な批判は金額面と「濫訴(※むやみに訴訟をおこすこと)が増えるのでは」という懸念に関してだったという。

今回リリースした第1世代β版は弁護士による相談サービスのみとし、料金は2.2万円。改正法施行後にリリースされる正式版では書類作成も行い、金額は22万円の予定だ(2022年6月現在)。

「今は相談も書類作成もほぼ人力で行う想定であるためこの値段設定です。文書の作成は自動化の程度を徐々に高めていき、第2世代ではユーザーが自分で書類を作成することもできるようにしたいと思っています。

また、その過程で、問題の投稿が権利侵害に当たる可能性があるかなどを判断できるAIを開発したいと考えています。まずは発信者情報開示に挑むかどうか悩んでいるユーザーに対してAIによる『見込み診断』を提供します。その後、文書作成の段階でユーザーや弁護士が文書を作成する際の補助としても使えるようにするつもりです」(五十嵐弁護士)。

「DIKE」に作成を依頼できる書類

発信者の特定は時間がたてばその分だけ困難になるが、『見込み診断』を導入することで「被害に遭ってすぐに診断を受けることができるので、動き出すまでのタイムラグを大幅に短縮することができます」(五十嵐弁護士)。また、主張が認められる見込みが低い事件の場合、ユーザーが時間やお金を無駄にかけずに済むというメリットもある。

「悪意なき」濫訴はAIで防止可能に

濫訴についても、五十嵐弁護士は「申し立てが頻発するのではというご心配についてはもっともなご指摘だと考えています。誹謗中傷も許されない行為ですが、まるで根拠のない不当な訴えもまた許されるべきではありません。

悪意による濫訴を防ぐのは難しいものの、悪意なき濫訴についてはAIによる『見込み診断』やDIKEを使い、迅速に弁護士に相談が可能になることで防止できると考えています。たとえば『見込み診断』で権利侵害が認められる見込みが10%と出たら、ほとんどの人は思いとどまるのではないでしょうか」と語る。

ただし『見込み診断』を実現するAIの開発には、多くの判決などAIに読み込ませるビッグデータが必要になる。「データを提供してくださる原告の方や、サービス上で協力してくださる方を募り、サービスを走らせながらAIの基礎となるデータを集めていこうと考えています」(五十嵐弁護士)。

五十嵐弁護士の目標はDIKEを「クラウド会計ソフト」のようなサービスにすることだという。

「会計ソフトは税理士に頼むような作業が自分でもできるというサービスです。勘定科目についてなどユーザーも勉強が必要ですが、ある程度はソフトの側がサジェストを出すなどしてサポートしてくれ、それでもなお自分ではできないと思ったら税理士を紹介してもらい一緒に作業ができる。

クラウド会計ソフトは税理士業務の『オープンキッチン』なんです。まずは誹謗中傷の分野で、その弁護士版になれればと思っています」(五十嵐弁護士)。

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