「離婚」調停もオンライン化へ。利便性向上でもSNSに離婚理由“拡散”のリスクとは?

弁護士JP編集部

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「離婚」調停もオンライン化へ。利便性向上でもSNSに離婚理由“拡散”のリスクとは?
夫婦関係調整調停(離婚)の申立書。申し立ての動機はさまざまだが…

WEB会議だけで離婚調停が成立する――。

民事裁判を全面的にIT化する民事訴訟法改正案が今国会で成立した。この改正案成立によって「離婚調停」のすべての手続きがオンライン上で可能になる。

一部の地方裁判所では、すでに民事裁判でWEB会議を導入しているところもあるが、利用は進行協議や争点整理の手続きに限られていた。しかし今後は段階的に利用範囲が拡大し、その他の手続きでも認められるようになる。

「離婚調停」では、電話会議やWEB会議を用いた調停であっても、意思確認だけは対面で行う必要があったが、改正案ではその決まりも取り払われた。

司法統計によれば離婚調停は年間およそ2万件成立している。離婚調停のオンライン化によって、どのようなメリットがあるのだろうか。

「オンライン」を利用した理由で一番多かったのは?

オンラインでの調停成立は、裁判所に出向く時間的な負担が減少するほか、感染症の流行時や、相手からDV被害を受けている場合などとくに有用と見込まれている。

その見込みの「裏付け」が、裁判所に先駆けてオンライン離婚調停を取り入れた民間ADR(※)「一般社団法人 家族のためのADR推進協会」の利用者を対象にしたアンケートから見えてきた。

(※)ADRとは「裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution)」の略語。裁判によることなく、専門家立ち会いのもと話し合いを行い法的なトラブルを解決する手続き。仲裁・調停・あっせんなど。裁判所と異なり土日祝なども対応しており、比較的スムーズに話し合いを進められるなどの利点がある。

「一般社団法人 家族のためのADR推進協会」実施アンケート調査の結果より

オンライン離婚調停を利用した理由で一番多かったのは「相手と同じ空間にいなくて済むから」で、「新型コロナ感染症対策」が2位になった。また遠方に住んでいる場合や、子どもを育てる親にとって時間調整がしやすいというメリットもうかがえる。

ADRでの調停に比べて、時間的な制約が多い裁判所での調停。オンライン化により裁判の長期化を減らすことができれば、関係者の負担軽減も期待できそうだ。

全体の7割が「不安・不便さは感じなかった」が…

前出アンケートの「オンライン離婚調停を利用してみて、不安・不便さや不満はあったか?」という問いでは「不安・不便さは感じなかった」という回答が全体の7割を占めている。一方で、「相手の感情を読み取りにくい」「言いたいことが言いづらい」「通信状態が悪い」というネガティブな側面を指摘する回答もあった。

これは「WEB会議の悩みに関する意識調査(ビズヒッツ調べ)」で明らかになったビジネス上でのWEB会議におけるネガティブな側面とも一致する。

WEB会議の悩みに関する意識調査(ビズヒッツ調べ)より

これらに加え、調停だからこそ生まれる懸念点として、弁護士以外の第三者の同席や、録音や録画、それによる情報漏えいの危険もある。また「IT弱者」と呼ばれるインターネット環境が整っていない人への対応も今後の課題だろう。

オンライン「離婚調停」の進め方

離婚調停を多く手掛ける遠藤知穂弁護士に、オンラインで完結する離婚調停を希望する場合の申請方法や、オンライン化の今後の課題などを聞いた。

オンラインでの離婚調停を望む場合、どのような申請の必要がありますか?

遠藤弁護士: 現在行われている一部のオンライン離婚調停は試行のため、まだ手続き方法は定まっていませんが、電話会議での調停と同じように裁判所に上申書を提出することになるかと思います。

電話会議の場合は、電話会議を求める理由(例えば、遠方であるとか、暴力を振るわれる恐れがあるとか)を記載した上申書を提出して、裁判所の判断を仰ぎます。

個人で調停手続きを行う場合と、弁護士に依頼する場合とでは申請方法や裁判所の判断に違いはありますか?

遠藤弁護士:電話会議の場合ですが、申請方法に違いはありません。しかし実務上、弁護士がついていない当事者本人の場合に電話会議が認められることは少ないように聞いています。逆に弁護士がついている場合、コロナの影響もあって、受け入れられる場合が増えているように感じています。

電話会議と比較したオンライン調停のメリットを教えてください。

遠藤弁護士:調停委員と顔を見ながら話せるというのは良いと思います。電話だと声だけなので、どうしてもどんな人かわからず信頼関係を作りにくいですし、様子が見えないので声が重なってコミュニケーションがとりにくいという問題もあります。対面には劣ると思いますが、オンラインで顔をリアルタイムで見ながらお話しできることで少し解消できると思います。

オンライン調停の課題と感じていることは何ですか?

遠藤弁護士: 非公開性が失われてしまうリスクが大きいということです。離婚調停は、扱う事柄が高度なプライバシー情報で、非公開であることが確保されているからこそ正直にお話しできるところがあります。裁判所で行う場合には、調停室に第三者が入り込むことはできませんし、ドアの前にずっと立っているというのも現実的ではありませんので、少なくともその場で第三者に聞かれることはありません。

プレスリリースの試行の様子を見ましたが、オンラインの場合には、カメラを回して部屋中を映して第三者がいないことを確認していました。これでは悪意をもって第三者を同席させようとする人に対して実効性があるとは思えません。また、録音や録画も容易になりますので、SNSにあげられてしまうリスクも格段に上がってしまいます。そうなると、話すべきことや話したいことを話せなくなってしまい、話し合いとしての意味が落ちてしまいますので、調停の意義自体が問われかねないと思います。

今後は段階的とはいえオンライン調停が増えていくと予想されますが、裁判所に出頭する形の調停はどのようになると思いますか?

遠藤弁護士:今後も裁判所に出頭する形の調停は残ると考えています。

弁護士は複数の調停を経験していることが多く、オンラインでも対面でも余り変わらないと感じると思います。一方で、当事者の方はその多くが調停を行うのは初めてですから、やはり対面とオンラインでは「感じ方」が異なると思います。また、ご年配の方などオンラインでの手続きには不安を感じられる方も多いでしょうし、インターネット環境が整っていないという方もいらっしゃいますので、「全件オンライン」というのは少なくとも当面は難しいでしょう。

取材協力弁護士

遠藤 知穂 弁護士

遠藤 知穂 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所

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