クリーニング「長期間放置」の思わぬリスク。高額請求でも 「客側」は文句が言えないワケ

弁護士JP編集部

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クリーニング「長期間放置」の思わぬリスク。高額請求でも 「客側」は文句が言えないワケ
仕上がり予定日から期間をあけずに取りに行ったほうがよい

気温の高い日が多かった4〜5月、コートやダウン、羽毛布団などをクリーニングに出した人も多いのではないだろうか。

梅雨入りした今、かさばる冬物衣類を受け取りに行くのは面倒かもしれない。しかし「次に使うとき取りに行けばいいや」と長期間預けっぱなしにしていると、勝手に処分されてしまったり、高額請求される可能性があることを知っているだろうか。

25年以上放置しているツワモノも…

クリーニング業界で、実は大きな問題となっているのが「長期間放置品」の扱い。全国クリーニング生活衛生同業組合連合会(以下、全ク連)によると、長期間放置品とは「仕上がり予定日を過ぎても、数カ月~1年程度以上引き取りのない品物」のこと。全ク連が2017年に全国の組合員427店を対象に行った実態調査では、87.4%の店に長期間放置品があることが明らかになった。

全国クリーニング生活衛生同業組合連合会「長期間放置品に関する調査レター」より

各店舗が保管する長期間放置品の数は、10〜19点の割合がもっとも大きく27.2%。100〜199点(7.8%)、200点以上(2.4%)と、大量の放置品を抱える店があることもわかった。

また、各店が保管する最古参の放置品については、3〜5年未満と回答した店がもっとも多く23.2%。驚くべきことに、25年以上放置されたものがあると回答した店も5.9%存在した。

放置すれば処分、高額請求の可能性も

前出の実態調査によれば、67.9%のクリーニング店で年間1〜9点の放置品が増え続けているという。ひと口に保管といっても、スペースの確保、変色やカビを防ぐための温度・湿度調整など、店側の負担は決して軽くない。別料金で保管サービスを提供している店もあり、無断の預けられっぱなしは、本来有料のサービスを「無償」で提供している状態ともいえる。

この現状を解消すべく、クリーニング店では「放置品処分」や「保管料請求」に関する契約を利用規約・約款で交わす取り組みをはじめている。全ク連でも、2017年度より会員へひな形を提供するなど、この取り組みを推奨している。

放置品の取り扱いに関する利用規約・約款について、いくつかのクリーニング店を例に確認する(いずれも各社ホームページより引用)。

  • 白洋舎
    2022年9月以降受付分はお渡し予定日より1ヶ月以上経過いたしますと、延滞保管料として1日当たり1点20円の料金をいただきます。
    お渡し予定日から3年を経過したお品物につきましては、お客さまによる品物の所有権放棄とみなし、当社にて処分いたします。
  • うさちゃんクリーニング(ロイヤルネットワーク)
    お渡し予定日より1年を経過してもお引取りがない品物につきましては、弊社にて廃棄する場合がありますので、予めご了承をお願いいたします。
  • ポニークリーニング
    お渡し予定日より30日を経過してもお引取りがない商品は倉庫保管となる場合があり、保管サービス等の特約のない限り1点につき1日20円の保管料・火災保険料をいただく場合がございます。尚、商品を店頭に返送するまで1週間程度かかります。
  • スワローチェーン
    お渡し予定日より60日を経過してもお引取りがない商品は倉庫保管となる場合があり、保管サービス等の特約のない限り1点につき1日100円の保管料・火災保険料をいただく場合がございます。尚、商品を店頭に返送するまで1週間程度かかります。

もし1年放置したとすれば、1点につき3万円以上を請求される可能性もあるということだ。

なお全ク連の実態調査では、預かって5年以上で処分する店が51.7%、3~5年程度が25.0%、2~3年程度が14.7%、1~2年程度が5.2%、1年程度が3.4%という結果だった。

「知らなかった」では済まない、利用規約・約款の法的効力

利用規約・約款に反して預けた衣類を長期間放置してしまった場合、どうなるのか。民事関連の法律実務経験も豊富な河田保弁護士は「(処分や保管料請求について)あらかじめ利用規約・約款に記載があれば、客側はそれに従って対応する義務が生じる」と言う。

「利用規約・約款は契約書のひとつの類型であり、署名や押印がなくても契約書と同じように法的効力が生じます」(河田弁護士)

各クリーニング店の利用規約・約款は、ホームページや、会員登録をした際に渡された書面などで確認できる。しかし、きちんと中身を読んだことがないという人も多いのではないだろうか。

「利用規約・約款には小さな文字がびっしりと並んでおり、いざ処分や保管料の請求をされた際に『知らなかった』と驚く方も少なくないかもしれません。

しかし2020年4月1日に改正民法(債権法)が施行され、店側があらかじめ『契約内容を利用規約・約款の通りとします』など明示していた場合には、客側が一つ一つの利用規約・約款の条項について具体的に認識していなかったとしても、法律上は双方で合意があったとみなされるようになりました。これには『利用規約に同意します』にチェックした場合も含まれるため注意が必要です」(河田弁護士)

つまり、法改正によって利用規約・約款の法的効力が強くなり、「目を通していなかった」という言い訳がしづらくなったということだ。

一方で河田弁護士は、「民法には『信義則(※1)』というルールがある」とも指摘する。

(※1)民法第1条第2項「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」

「当事者のどちらか一方に不当に損害が生じるような内容であったり、逆に一方が不当にもうかるような内容であったりする場合は、信義則上合意がなされなかったとみなされます。

極端な例ではありますが、クリーニング店がお渡し日から処分までを30日間としていた場合、期間が過ぎたからといって何十万円もするような高価なコートを勝手に処分してしまえば、客側に大きな損害が発生します。もし訴訟になれば『信義則上、店側の対応として30日間という日数は相当だったのか?』ということが争点となるでしょう。

ただし一般的には、衣類を2か月も3か月もほったらかしにしていれば、特別な事情がない限り『客側がきちんと対応していないのではないか』と評価されても仕方がありません。ましてや25年以上も放置していれば、明らかに客側が信義則に反して受け取りを拒絶していると捉えられても文句は言えないでしょう」(河田弁護士)

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