マッチングアプリで独身とうそつく既婚者男の罪と罰。慰謝料請求した場合の相場は?

弁護士JP編集部

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マッチングアプリで独身とうそつく既婚者男の罪と罰。慰謝料請求した場合の相場は?

マッチングアプリをきっかけとして交際が始まり結婚に至るという話は、もはや珍しくない。

実際、マッチングアプリの市場規模は拡大している。マッチングサービス「タップル」を運営する株式会社タップルは、2021年のオンライン恋活・婚活マッチングサービス市場は、前年比23%の増加で768億円に膨らみ、5年後には、2021年比で1657億円に拡大すると予測している。

国内オンライン恋活・婚活マッチングサービス市場規模予測

しかし、マッチングアプリを通じた出会いが一般的になる中、さまざまなトラブルも起きている。

たとえば最近Twitterで、「マッチングアプリで出会った彼氏が既婚者だった」というツイートが話題になった。

「だまされた」と被害を訴える女性に対して、「許せない」「慰謝料請求するべき」といった同情の声が寄せられる一方、「既婚者と付き合っていたなら、逆に交際相手の妻から慰謝料を請求されるのでは?」といったコメントも寄せられ、物議を醸した。

マッチングアプリと呼ばれるアプリは多数存在するが、婚活アプリや出会い系アプリと呼ばれるサービスの多くは、利用資格として既婚者を対象としていない。

たとえば会員数1000万人と国内最大級のマッチングアプリPairs(ペアーズ)の利用規約を見ると、利用資格として「交際相手がいない方、独身の方(現在離婚している方も含む)のみ」と定めている。また、毎月1万人のカップルが誕生しているとPRするタップルも「高校生を除く、満18歳以上の独身の方」と利用規約にうたっている。

こうした利用規約に背いて、既婚者なのに「独身である」とうそをついて女性と関係を持つ男性は、法的に罪に問われないのだろうか。また、既婚男性にだまされて肉体関係を持ってしまった独身女性は泣き寝入りをするしかないのか、それとも、相手に対して慰謝料請求ができるのだろうか。

マッチングアプリをめぐるトラブルや法律関係について、男女トラブル問題に詳しい牧野孝二郎弁護士に聞いた。

本当は既婚者なのに「独身である」とうそをついてマッチングアプリに登録するといった行為は、何かしらの罪に問われるのでしょうか?

登録するだけで、刑事上の罪に問われることは考えにくいでしょう。ただ、利用規約上の違反にあたるわけなので、退会させられたり利用できなくなったりするということは予想できます。

また、ここまでやる利用者がいるかどうかはわかりませんが、登録者に対して独身証明の提出を求めているようなマッチングアプリにおいて、その独身証明書(例えば戸籍謄本)を改ざんしたようなケースでは、公文書偽造及び同行使等罪にあたる可能性があるといえるでしょう。

今回Twitterで話題になったようなケースにおいて、だまされた女性は泣き寝入りするしかないのでしょうか? あるいは、どのような法的対応をとることができるのでしょうか?

性的な関係がなくお付き合いをしたということにすぎなければ、なかなか法的な請求というのはむずかしいと言わざるを得ません。そして、たとえ性的な関係に至ったとしても、マッチングアプリもいくつか種類がありますので、結婚を前提としたマッチングアプリなのか、そうでないのかといったことで変わってきます。

結婚を前提としたマッチングアプリであれば、結婚相手を探しているわけですから、「相手が独身だから交際をしたし、性的関係を結んだ」ということが比較的立証しやすいと言えるでしょう。しかし、単純にお友だちを探したりするようなマッチングアプリであれば、「交際相手が独身だったと思っていたけれども実は既婚者だった」ということのみで損害賠償請求をどこまでできるのかというと難しい面もあるかもしれません。

ただ、泣き寝入りするしかないということではありません。

女性側として、「相手が既婚者と知っていたのであれば性的関係をもたなかった」ということであれば、だまされた女性としては性的自由を奪われたということになりますので、貞操権侵害に基づく慰謝料請求をしていけるでしょう。

「独身である」という虚偽の事実を告げて相手に誤信させて、性交渉に至らしめたということになりますので、だまされた女性にとっては自由意思を奪われたということです。相手が違法に自由を侵害したということになりますから、不法行為を構成するというのが裁判所の立場になるでしょう。

誤信と性交渉に至る因果関係をどこまではっきり言えるのかという点で一定のハードルがあるということ、また、性的関係に及んでしまった場合には、「相手が既婚者と知っていたのであれば性的関係をもたなかった」ということがどこまで言えるかという点がひとつのポイントになると言えます。

このようなケースではどれくらいの慰謝料が相場になるのでしょうか?

事情によってかなり幅があるでしょう。20~30万くらいのケースから、高ければ200~300万、あるいはさらに高額になるケースもあり得ます。

金額については、たとえばマッチングアプリの種類に応じて、悪質性の問題がでてきます。結婚を前提としたマッチングアプリで虚偽申告をしていたようなケースでは、女性としては真剣に結婚相手を探していたわけですから悪質性が高いといえ、慰謝料もその分高くなるといえるでしょう。

また、独身であると隠していた期間(性的自由をうばっていた期間)が長期にわたれば、その分、損害は拡大したといえ、慰謝料額は大きくなるといえます。

さらに高額になる例を挙げますと、妊娠をしたものの後に交際相手が既婚者であることが判明し、結果的に堕胎せざるを得なかったというような事情になってくると慰謝料の金額はより高額になるといえます。

だまされた女性側が、相手の配偶者から逆に何らかの法的措置をとられたり、慰謝料請求されたりするようなことはあり得るのでしょうか?

仮に女性側が既婚者であることを知っていたうえで性行為に至れば相手の配偶者から不貞行為に基づく慰謝料請求をされることもあるでしょうが、今回のケースのように独身であると偽られていたような場合には、だまされたほうとしては故意も過失もないということになりますから、理屈上、慰謝料請求は防げるでしょう。

ただ、相手の配偶者から「交際期間中、既婚者だと気づけたんじゃないのか?」と問われる可能性もあるでしょうし、慰謝料請求すること自体は相手の配偶者にはできてしまうので、そういうトラブルに巻き込まれてしまうという可能性はあるといえます。

だまされた女性側が貞操権侵害に基づく慰謝料請求をする場合には、相手の配偶者に不貞の事実が知られることもあり得ます。今回のようなケースでは、「どういう場合にだまされた女性側のリスクが大きくなりそうなのか」、「リスクは現実化しそうなのか」、「どれくらいの慰謝料額になりそうなのか」と総合的に見たうえで、どのような対応をとるべきか考えたほうがよいといえますので、法的対応を考える場合には弁護士に相談した方がよいといえるでしょう。

取材協力弁護士

牧野 孝二郎 弁護士

牧野 孝二郎 弁護士

所属: 優誠法律事務所

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