“凶暴”ペットの「逃走」相次ぐ 飼い主の「法的責任」はどこまで?

弁護士JP編集部

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“凶暴”ペットの「逃走」相次ぐ 飼い主の「法的責任」はどこまで?
ドーベルマンは家庭犬としては穏やかな性格が多いという(※写真はイメージです graja/PIXTA)

「どう猛」とされる動物が飼い主の元から逃走する事案が相次いだ。

千葉県の動物病院から大型犬「アメリカン・ピット・ブル・テリア」(以下、ピットブル)が逃走(4月6日)。岡山県では体長2メートルのヘビ「ボールパイソン」が飼い主の車で行方不明に(4月17日)、さらに千葉県で「ドーベルマン」4頭が飼い主の自宅からいなくなった(4月22日、翌5月11日には盗難事件に発展)。幸いなことにいずれもすぐに発見・保護され、人にも動物にも危害はなかった。

ピットブルもドーベルマンも飼い主には従順だが、比較的攻撃性が高い犬種といわれている。ボールパイソンも毒こそないが、大きな個体では全長2メートル、4~6キロにもなるヘビで、街中で見かけたら思わず立ちすくんでしまうだろう。

飼育を禁止されている「特定動物」とは

人の生命・身体又は財産に害を加えるおそれがある動物として政令で定めた動物は「特定動物」と呼ばれ、ペットとしての飼育を禁止されている。

特定動物は気性、毒の有無、国内外を問わず起きている事故の状況などを鑑み、動物の専門家が集まって審議し選定されているといい、イヌ科であればジャッカル、コヨーテ等の他、オオカミ犬と呼ばれる犬と狼の一代雑種、ヘビはオオアナコンダ、コブラ等が特定動物に指定されている。

逃走が報道されるなど、一見「どう猛」ともとらえられがちなピットブル、ドーベルマン、ボールパイソンは特定動物に指定されていない。その理由を環境省の動物愛護管理室室長補佐の田口本光氏は下記のように話す。

「ヘビは専門家でも事故の危険性に対する意見が分かれますが、犬はドーベルマンにしても、ピットブルにしても私が知っている子たちは温厚でとてもいい子です。確かに飼い方やしつけ次第では攻撃的になってしまう犬もいますが、それは飼い方に原因があると考えています」(田口氏)。

ペットへの”しつけ“が飼い主の責任(写真:Svetikova-V/PIXTA)

逃げ出してしまうような事例についても「動物のせいではなく、飼い主の責任が一番大きい」(田口氏)と飼い主への苦言を呈した。

犬との「信頼関係」を作る方法

犬の飼育指導を行う一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)の金井康枝氏も、「しつけは飼い主の責任。大きくなる犬種については、飼い主が犬の個性に合わせたしつけ方を工夫する必要性がある」と話す。「強い恐怖や不安を感じれば、どんな犬種でも自己防衛のために攻撃することがある」(金井氏)といい、事故防止には犬と飼い主の信頼関係を作ることが大切だと説明した。

信頼関係を作る方法として、毎日の散歩(その犬に合った運動量を満たすこと)、幼犬のうちから人や動物、車などに慣らす‟社会化”を行うことや、「スワレ」「マテ」などの言葉で飼い主の指示に従うようにしておくことを挙げた。

「愛犬が不安げにしたり、強く興味を示したりしたら、言葉をかけ安心させる」などの細かな対応も大事だという。信頼している飼い主が声をかけてくれることが、犬にとってストレスや不安感の軽減につながり、攻撃性も抑えられる。「飼い主の言葉で犬の行動をコントロールすることができれば、事故の予防につながります」(金井氏)。

飼い主との信頼関係があれば犬のストレスも軽減(写真:Anton Gvozdikov/PIXTA)

前出の田口氏は、「今後大きな事故が起きた場合などに特定動物の基準が変わることもありえる」とも話す。飼い主たちには、事故を起こさないという責任感を持ってペットと向き合う姿勢がますます重視されそうだ。

逃げたペットが他人をケガさせてしまったら?

ペットが逃げてしまった時、他人に噛みついてしまった場合など、飼い主が負うことになる法的責任について、自身もペットの保護猫と暮らす小泉将司弁護士に聞いた。

ペットが逃げて他人をケガさせてしまった場合、どのような罪に問われる可能性がありますか?

小泉弁護士: 飼い主は、過失(ペットが逃げたことについての不注意)の程度により、過失傷害罪(刑法209条)または重過失傷害罪(刑法211条1項後段)に問われる可能性があります。また、地域によっては条例違反による処罰がされる可能性もあります。

これとは別に、民事上の損害賠償責任(民法718条1項)も発生します。被害者は、加害動物の飼い主に対して、ケガの治療費、通院費用や、負傷に対する慰謝料、後遺障害が生じたときはその等級に応じた慰謝料を請求できます。通常は交通事故と同じような基準で算定されますので、賠償額が数百万円に達することもありえます。

同項ただし書きには、『動物の種類および性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときはこの限りではない』との記載がありますが、現実には『相当の注意』を払って管理をしていたと認定されるケースは稀です。

飼っている動物の種類によって責任が変わることはありますか?

小泉弁護士: 責任や罪の重さが変わることはありませんが、動物の種類によって飼い主に求められる注意義務の程度が変わることはあるでしょう。動物が危険であればあるほど、「相当の注意」を払っていた、もしくは「過失」がなかった、と認められるためのハードルは高いといえます。

人ではなく、他人のペットにケガを追わせてしまった場合も飼い主が罪に問われるのでしょうか?

小泉弁護士:刑事事件にはなりませんが、相手の飼い主から民事訴訟を起こされて損害賠償を請求される場合があります。この場合は、相手の動物の治療費はもちろん、万が一死亡してしまった場合には、飼い主の精神的苦痛に対する慰謝料が認められるケースもあります。

どう猛と言われるような種類のペットが逃げたことを隠匿した場合どうなりますか?

小泉弁護士: 特定動物でない動物については、報告や捕獲が条例で規定されている自治体は多くありません。

ただし、札幌市、茨城県、水戸市、佐賀県などは特定犬制度を導入しており、佐賀県では特定犬の逃走を隠匿した場合について5万円の罰金を科すことを定めています。また、茨城県では、特定犬と書かれた標識を入り口に表示し、檻の中で飼育することが義務付けられています。

茨城県が定める特定犬8種類(茨城県動物指導センター配布物より)

特定犬や特定動物に当たらない場合でも、どう猛な種類のペットを飼うときは、環境省令で定める特定動物の飼養又は保管の方法に関する基準(檻の中で飼養保管する、十分な逃走防止対策をとる、マイクロチップなどの個体識別措置を取るなど)を参考に日頃から安全管理に努めることが望ましいでしょう。

取材協力弁護士

小泉 将司 弁護士
小泉 将司 弁護士

学生時代、寮内に住み着いていた猫を、廃寮・転居時に連れ出し一緒に暮らし始めたのをきっかけに、猫保護団体(ボランティア)に所属し保護活動に従事。現在も自ら保護した猫とともに暮らしています。

所属: ベリーベスト法律事務所 京都オフィス

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