職場を襲う「6月病」 上司が「言ってはいけない」3つのNGワード

弁護士JP編集部

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職場を襲う「6月病」 上司が「言ってはいけない」3つのNGワード
6月に心身の不調を感じる人は少なくない(bee / PIXTA)

気温や気圧がジェットコースターのように変化するこの季節、心身に不調を来す人は少なくない。近年、この時期に増えているのが「6月病」。周りを見回すと、「笑顔が減った」「口数が少なくなった」「後ろ姿がどんよりしている」など、6月病のサインを出している人がいるかもしれない。

もし職場の部下・後輩が6月病にかかった場合、上司・先輩が良かれと思って発したひと言が「パワハラ」と捉えられるリスクがある。4月1日から中小企業にも義務化された「パワハラ防止法」には罰則こそないものの、もし訴えられれば脅迫罪や侮辱罪など刑事上の責任や、民事上の損害賠償責任を問われる可能性もある。

6月病の主な症状や原因、部下・後輩に「言ってはいけない言葉」について、民間企業で営業や人事を経験した後、臨床心理士となった大塚紀廣さんに聞いた。

6月病とは?

「6月病」の主な症状を教えてください。

大塚さん:「6月病」は医学的な病名ではないものの、6月頃に現れる適応障害がそのように呼ばれることがあります。具体的には、気分、行動、身体に以下のような症状が発生します。

  • 気分の症状
    無気力、憂うつ、気分が重い、気分が沈む、悲しい、不安、イライラする、元気がない、集中力がない、好きなこともやりたくない、細かいことが気になる、悪いことをしたように感じて自分を責める
  • 行動の症状
    反応が遅い、頭が働かない、表情が暗い、涙もろい、落ち着かない、飲酒量が増える
  • 身体の症状
    体がだるい、疲れやすい、食欲がない、性欲がない、頭痛、肩こり、めまい、動悸、胃の不快感、便秘がち

なぜ6月病になってしまうのでしょうか。

大塚さん:5月病にも共通しますが、ゴールデンウィークはゆっくり休息できる一方、年度の変わり目で気を張っていた3〜4月の生活リズムが崩れる期間でもあります。一度崩れた生活リズムを戻すのにはそれなりのエネルギーが必要ですが、これがうまくはまらず停滞することで、心身ともに不調を感じるきっかけとなります。

また、6月は梅雨のシーズンです。大気の乱れが体調に影響を及ぼす「気象病」は、もはや現代病とも言えますが、それも相まって6月に不調を感じる人が多くなると考えられます。

職場において、部下・後輩の6月病を見抜く方法はありますか?

大塚さん:言語化や数値化が難しいところではありますが、以前と比べて笑顔が減った、だんまりすることが多くなった、後ろ姿がどんよりしているなど、雰囲気や違和感から異常をキャッチするしかありません。

特に、器用な人ほど気丈にふるまう傾向があります。仮にストレスチェック検査をしても、「こういう回答をしたら産業医と面談させられるな」など、“気丈モード”の仮面をかぶった状態で回答されれば、ますます見抜くのは難しくなるでしょう。

“器用な人”は見捨てるしかないのでしょうか。

大塚さん:異変に気づくのは簡単ではありませんが、本人がちょっと疲れていると思ったときにポロッと本心をこぼしてくれるような信頼関係を日頃から作ることは大切です。

もし可能であれば、直属の上司・先輩ではなく、たとえば隣の部署など“斜め上”の場所に気軽に頼れる人がいるといいと思います。それが難しくても、本人が殻に閉じこもらないようなライフラインを作っておくことは大事です。

上司・先輩が「言ってはいけない」3つのNGワード

上司・先輩がアドバイスのつもりで発したひと言が「パワハラ」と受け取られるリスクもあります。6月病の部下・後輩に対して、言ってはいけない言葉を教えてください。

大塚さん:代表的なものは、「なんで?」「やる気出そうぜ」「◯◯すれば治るよ」の3つです。

①なんで?

大塚さん:上司・先輩としては、不調の原因を突き止めて解決するために「なんで?」と聞いているのかもしれません。しかし本人からすれば、問い詰められているように感じ、余計に本心を話せなくなります。

そもそも不調の原因は、明確に特定できないことも珍しくありません。本人からすると、原因が自分の中で顕在化していないのに、上司・先輩から「なんでなんで」と言われれば、さらに追い詰められます。

リモートワークでオンライン上のやり取りをする企業も増えている今はなおさら、日頃から「逃げ道」を用意したコミュニケーションの心掛けが大切です。

②やる気出そうぜ

大塚さん:やる気を出したいけど体が付いてこないから困っているのです。上司・先輩は𠮟咤激励したつもりでも、本人からすれば「ただ無責任で思いやりのない言葉」で、モチベーション、自己評価、自己肯定感がどんどん下がってしまいます。

現代は価値観の移り変わりがとても速く、5年違うだけで育ってきた文化・土壌がまったく異なると言っても過言ではありません。まして、50代以上の「バブル世代」と20代前半の「Z世代」との間にはものすごいギャップがあるでしょう。

「自分の若い頃と現代は別物」とパラダイムシフトを起こしておかないと、部下・後輩に何を言っても刺さりません。まず、年長の上司・先輩は「部下・後輩の指導」や「世代を超えたコミュニケーション」は難しいと自覚することから始めるべきかもしれません。

③◯◯すれば治るよ

大塚さん:①②の話にも通じることですが、本人が自分の気持ちの整理やアウトプットができていないのにもかかわらず、「俺もあったんだけどさ~」など自分の過去の体験に基づいたアドバイスをしてしまうと「この人、分かってくれないな」という不信感につながります。まずは話をしっかり聞いて、一緒に考える姿勢を示してください。

心療内科では、相手の話すスピード、リズム、雰囲気になるべく歩調を合わせる話の聞き方をします。相手が沈黙しても、無理に言葉を出させようとせず、「安心してここで話していいんですよ」という気持ちで見守ります。そのうちに、ポロッと言葉が出てくることも珍しくありません。

企業においても、上司・先輩から話を掘ったり詰めたりするというよりは、「最近疲れるね〜」など部下・後輩の雰囲気や歩幅に合わせて話しているうちに、何か本音が出てくることがあるかもしれません。彼らにとっても、そういう姿勢で接する上司・先輩はうれしい存在ではないでしょうか。

6月病のような適応障害は、9月のシルバーウィークや年末年始の連休後にも増える傾向があります。適応障害の回復方法や治し方は、人により異なることを大前提に、「何でも話して大丈夫」と思ってもらえる関係性、環境作りを意識してみましょう。

■ 大塚紀廣(おおつかのりひろ)
1976年千葉県生まれ。大学卒業後、大手の人材サービス会社など3つの企業で営業職や人事職に就いた。40歳で退社し、大学院へ進学、臨床心理士に。現在は都内の心療内科やスタートアップ企業で、心理職としてカウンセリング業務等に従事している。

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