「動物愛護法はいらない」 動物虐待に憤る映画監督“過激”発言の真意とは

弁護士JP編集部

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「動物愛護法はいらない」  動物虐待に憤る映画監督“過激”発言の真意とは
日常生活の身近に動物虐待の”現場”はある(映画『動物愛護法』より)

人間の手によって虐待され、殺され、雑木林に打ち捨てられた猫をカメラがハッキリと捉える。「ひどいよ。」悲鳴にも近い声が画面から響く。

映画『動物愛護法』の一場面。空前のペットブームの裏で語られることのない動物虐待の現場、人間のどす黒い欲望に迫るドキュメンタリーである。

冒頭のような時折挟まれる動物の変わり果てた姿や虐待動画など目をそむけたくなる場面も少なくない。しかし、虐待愛好者が集うネット掲示板への書き込みを行った人物や、YouTubeの「生き餌」動画をアップする男性などへの緊張感ある突撃取材はスリリングで、深刻な内容にもかかわらず、「映画」的な面白さでも引き込まれるという不思議な感覚の作品でもある。

目を背けたくなるシーンも多い(映画『動物愛護法』より)

「関西人特有のサービス精神が出てしまうというか、娯楽性は意識しました」。監督を務めた北田直俊さんは語る。従来イメージするドキュメンタリー映画と異なる『動物愛護法』はどのような経緯でつくられたのか。

「怒り」にも近い感覚に突き動かされた

きっかけは2017年にさいたま市で発生した猫の大量拷問惨殺事件だ。

猫13匹を虐待し死傷させたとして、元税理士の男性が動物愛護法違反の罪に問われ、懲役1年10か月執行猶予4年(求刑懲役1年10か月)の有罪判決となる。

野良猫を捕まえ、生きたままバーナーで炙(あぶ)り、熱湯をかけ、歯を引きちぎるなどの虐待行為の上、その動画を匿名掲示板へとアップするという常人の感覚では理解しがたい犯行の数々。実刑が下されることはなかった。

虐待の一部始終の動画はネットの掲示板にアップされた(映画『動物愛護法』より)

この司法判断に対し、憤り、怒りにも近い感覚に突き動かされた北田さんは、動物虐待にまつわる日本の現状を記録映画として発表しようと思い立つ。カメラを抱え、各地の「現場」へと乗り込むスタイルでの映画製作が始まった。

映画だけでは生活できる身ではなく、別の仕事をしながらの撮影、編集。クラウドファンディングや文化庁の助成金も活用しながら制作費をねん出し、完成までに4年の月日がかかった。

「別に難しいメッセージを訴えようというわけではないんですね。僕自身この映画で動物虐待や動物愛護管理法について答えを出すつもりもないし、法制度の深い部分などは正直分かりません。ただ、いまだに日本では動物虐待に関する議論すらないと感じています。せめてこの映画がそのきっかけになればいいなと考えて撮影をはじめました」(北田さん)

動物虐待犯に共通する「悪意」の欠如

「黒ムツ」(動物虐待の動画などを投稿する人のネットスラング)、「生き餌動画」(ハムスターなどをどう猛な爬虫(はちゅう)類の餌として与える動画)など撮影を進めていく内に、今まで知ることのなかった動物虐待の実態を目の当たりにする。

体当たりで動物虐待の“当事者”へ迫る(映画『動物愛護法』より)

北田さん自身も、撮影した映像を編集する最中にもだいぶ気持ちが落ち込み、就寝中にも目がさめるなどの後遺症に悩まされた。当事者にも突撃取材するなど、動物虐待に関わる人々と接するにつれ、ある共通点に気がついたという。

「ひとことでいえば、『罪悪感がない』ということ。こちらがどんなに熱を持って訴えても、素で『何が悪いの?』という反応で、手ごたえのようなものを感じない。年齢や職業はバラバラなのに、『悪意の欠如』だけ共通している。専門家でもないのではっきりと言うのははばかられますが、ひょっとしてこの欠落は、性犯罪者や薬物中毒者などの『依存』、あるいは疾患にも近い何かではないかと思うようにもなりました」(北田さん)

「人」の血が通った法律・制度の整備を

元々は動物虐待犯に対する怒りから始まった映画製作。彼らをどのように追いつめるかを当初は考えていた。しかし、取材を続ける内に、本当の悪というのはそこではないかもしれない。法律や、取り締まる側の警察にも「欠陥」があるのではないかと思いはじめる。

「途中から作品のシフトを変えました。虐待犯を罰することのできない法律や、虐待犯の更生を促す施設の整備であったりとか、そっち方向の根本的問題を探らなくてはと」(北田さん)

映画の中でも、「動物虐待」についての定義を、管轄の警察や環境省の担当者に問う場面が出てくる。的を得た、はっきりとした回答は得られずじまいで部署間をたらい回しになるシーンが印象的だ。

「僕が役所の人間であれば、同じような反応をすると思いますし彼らを責めることはできません。ただ、極論は承知ですが、根底に動物は「物」だという見方が大前提の「動物愛護法」は無くすべきだと思います。

アキレスと亀のようなパラドックスといいますか、根底の考え方が変わらなければ、何回改訂しても同じではないかなって。数値目標などももちろん大事ですが、『人』の血が通った動物福祉法なりの法律・制度の整備などの議論がなされてほしいです」(北田さん)

議員会館での上映会前にコメントする北田直俊さん(右)(5月23日 衆議院第二議員会館/弁護士JP編集部)

作品の完成後は、さまざま会場で上映会が行われ、多くの反響を得ている。この5月(23日、24日)にも、動物愛護議連の議員にかけあった縁で、衆議院議員・牧義夫氏主催による衆議院第二議員会館での上映会も行われた。

「使命感だけ」(北田さん)に突き動かされて作品を発表しつづける男の戦いは続く。

映画『動物愛護法』公式サイト
※公式サイトより有料視聴可能(1500円)
※夏以降Amazonプライムビデオにて配信予定

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