「有明のり」出荷巡る訴訟で「行政処分の差し止め」却下 原告・漁業団体は公取委の“不当な手続き”も指摘

弁護士JP編集部

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「有明のり」出荷巡る訴訟で「行政処分の差し止め」却下 原告・漁業団体は公取委の“不当な手続き”も指摘
代理人の山本陽介弁護士(右)、平山賢太郎弁護士(中央)、堀隆聖弁護士(左)(5月9日霞が関/弁護士JP編集部)

有明のりの出荷を巡り、漁業団体が生産者を不当に拘束しているとして、公正取引委員会(公取委)が排除措置命令を出す方針を通知したことに対し、団体側が命令の差し止めを求めた裁判で9日、東京地裁は訴えを却下する判決を言い渡した。

公取委はこれまでに、熊本県漁業協同組合連合会と佐賀県有明海漁業協同組合が有明のりの生産者に対し「誓約書」を提出させ、製品であるのりを全て組合に出荷させる「全量出荷」を求めていることが、生産者の出荷取引を不当に拘束しているとして、排除措置命令を出すことを通知していた。

これに対し両団体側は、のりの生産者に対し「全量出荷」を強制しておらず、生産者が出荷をしなかった場合の罰則もなかったことから、拘束はなかったと主張している。

東京地裁「損害の証明不十分」と判断

判決後、両漁業団体側の代理人は都内で会見を開き、今回の判決やこれまでの経緯、そして今後について語った。

代理人の平山賢太郎弁護士は会見で、排除措置命令の差し止めが認められるためには、「公取委が出そうとしている命令が誤っているという原告側の主張に、理由があると言えること」「命令の内容が間違っているかはさておき、命令によって原告(両団体)に重大な損害が生じること」の2つの要件を満たす必要があると説明。

9日の判決で裁判所は、2つの要件のうち「命令によって両団体に重大な損害が生じる」という証明が足りていないと判断しており、そのことから「1つ目の要件について判断するまでもなない」として、差し止めを却下したという。

公取委の命令を巡っては、両団体側が仮の差し止め申し立ても行っていたが、これも1月上旬に東京地裁から同様の判断が下されており「今回の判決自体に目新しいところはなく、想定の範囲内」(平山弁護士)とのことだった。

代理人は公取委の不当手続きを指摘

会見で平山弁護士は本件の経緯や関連する訴訟について説明するとともに、公取委が排除措置命令を出すと通知するまでに、さまざまな問題が生じていたと指摘した。

2022年6月、公取委は両団体に対し、立ち入り検査を実施。そして同年8月〜9月ごろ、公取委の審査会は事情聴取の場で「弁護士をつければ金がかかる」「確約手続なら簡単に終わる」といった話をしていたといい、平山弁護士は「今時なかなかない異常な手続き、進行で幕を開けた」と振り返った。

以降も数々の不当手続きが行われていたといい、両団体側はこれらの手続きに対し今年1月に福岡地裁で違法性を確認する訴訟を提起するなど、異議を申し立てている。

会見で紹介された不当手続きには他にも、立ち入り検査の後に弁護士が団体に対して行った助言のメモを提出するよう報告命令が出されたというものや、事実関係に関する報告命令が出されたものの、回答に必要な資料を立ち入り検査時に公取委が留置(差し押さえ)しており、仮還付と呼ばれる一時的な返還を要求したものの拒否されたというケースがあげられた。

また、9日の判決に関わるところでは、のりの全量出荷の義務付け、強制がなかったことを説明するために、のりの取引に関連する契約書を裁判所に提出しようとしたところ、契約書の原本も公取委によって立ち入り検査時に差し押さえられており、こちらも同様に仮還付が拒絶されたまま、判決を迎えたという。

今後も裁判で取引関係の正当性説明へ

しかし、こうした公取委による手続きの違法性があったかどうかの判断は9日の判決では行われず、手続きに違法性があったとしても、そのことが措置命令によって両団体に生じる損害の大きさに影響するわけではないという判断がなされたという。

ただ、平山弁護士によると手続きが違法かどうかについては今後福岡地裁で行われる裁判を通じて、時間をかけて判断を仰いでいくとのことだ。

また、両団体側は判決を受け「本日の判決では漁協・漁連と生産者との取引関係が合法か違法かは判断されませんでした。今後も取引関係が正当なものであるということを、裁判所で引き続き説明していきたい」とコメント。代理人側も同様の考えであるとした。

会見の冒頭、平山弁護士が「この件については、いずれ排除措置命令が公取委から行われることが想定されています。その後は命令を取り消す訴訟を別に起こし、これについての審議が延々と続いていくことが想定されているので、末永くお付き合いいただきたい」と述べていたことからも、決着にはまだ時間を要しそうだ。

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