東京・渋谷で「ハプニングバー」摘発 「客」として居合わせた場合の正しい対応は?

中原 慶一

中原 慶一

東京・渋谷で「ハプニングバー」摘発  「客」として居合わせた場合の正しい対応は?
事件の舞台となった「眠れる森の美女」は摘発を受け閉店した(5月18日 渋谷/弁護士JP編集部)

「警察だ! 動かないで!」

ワイシャツにパンツ姿の80人ほどの男女がローション入りの水鉄砲をかけ合っていたその瞬間、私服捜査員30人以上がなだれ込んできたという。

東京・渋谷のハプニングバー「スリーピングビューティー 眠れる森の美女」が5月8日に摘発を受け、経営者や従業員、客の男女ら合わせて10人が公然わいせつと同ほう助の疑いで逮捕された事件。

店は渋谷の道玄坂のホテル街に位置し、地上2階地下1階の瀟洒な建物。「日本最大級のハプニングバー」をうたっていた。

15年ほど前から営業を開始し、年間3億円以上の売り上げがあったという。夕刊紙記者は話す。

「ハプニングバーは風営法上の規定はなく、『深夜酒類提供飲食店』、つまり普通のバーとして届け出がされています。経営者の言い分としては、酔っぱらった挙げ句、客同士でセックス行為などの〝ハプニング〟が起こるのは客の勝手という訳です。新宿歌舞伎町や上野などにもこの手の店はありましたが、時折、摘発が入ります」

安心して遊べる「優良店」として有名だったが…

「眠れる森」の入会金は男性7000円、女性2000円、男性の場合、19時から翌朝までいた場合、1万7000円(女性は無料)もの高額の費用がかかる〝高級店〟だったという。

「しかし入会時の厳重な身分確認や、スマホをロッカーに預かるシステムなど、安心して遊べる仕組みで、好事家の間では『優良店』として有名でした。2階にあった二つのプレイルームがマジックミラー越しにのぞけるようになっていたことが摘発の決め手となったと報じられていますが、ハプニングバーでのぞきができるプレイルームを完備しているところは多い。同店は最近、あまりに派手にやっていたから、見せしめのためにパクられたんだと思います」(同夕刊紙記者)

ともあれ、プレイルームでコトに及んでいた男女は「公然わいせつ罪」、そして従業員らは、「公然わいせつほう助」で逮捕された。犯罪や刑事事件の対応も多い杉山大介弁護士が解説する。

「まず、『公然』わいせつなので、公然であることが最大のポイントです。公然とは、不特定多数に知られる状態でわいせつ行為に及ぶことを指します。そして、乱交パーティーなども参加者以外には知られなくとも、不特定多数であるとして公然わいせつとして処罰されています。警察としては、そのような風紀を乱す行為自体を許さないと考えているということです」

客として「公然わいせつ」に問われるケース

報道によれば、参加していた他の客は、顔写真を撮られ、住所、氏名、身分証の提示などを求められた上で、店を出ることを許されたという。もし、こうした際どい場所にあなたが客として居合わせた場合、「公然わいせつ」に問われてしまうのか。考えられるケースについて杉山弁護士に聞いてみた。

  • 未成年と知りながら、「ガールズバー」などで接待を受けていた場合
    →ガールズバーなどでのレベルの接待は、特にわいせつな行為ではないので、公然わいせつの問題にはならないです。ただし、風営法などの別の問題はあり得ます。
  • いわゆる「本番エステ」「本番ピンサロ」などの違法風俗店で、本番にいそしんでいる最中だった場合
    →これも、不特定多数ではないので、公然とはならないです。
  • (最近はほとんどないが)いわゆるストリップ劇場の舞台上で本番行為をする「生板ショー」に、客の代表として舞台にあがっていた場合
    →不特定多数に本番行為というわいせつな行為を見せるわけですから、公然わいせつとなります。
  • 今回ほどの大規模なお店でなく、小規模のハプニングバーやカップル喫茶で、フリーの男女が意気投合し、他のお客が見ている中で、性行為をしていた場合
    →これも規模によりますが、やはり両手で数えられない人数となってくると、不特定多数と言いやすくなってくる印象です。
  • 深夜の公園で屋外セックスしているカップルをのぞき見し、草むらで隠れて自慰行為をしていた場合
    →不特定多数に見られうる場所でわいせつな行為をしていたら、実際には1人にしか見られていなくても公然わいせつの犯罪行為にはなります。自慰行為もその可能性があります。その場所が本当に公然の要件を満たすのかは議論の余地がありますが、少なくとも捜査対象にはなるでしょう。

「摘発」のタイミングに「お客」として遭遇したら?

では、実際こうしたタイミングで現行犯逮捕されてしまう可能性はあるのか。

「各事実関係に応じて変わるのですが、逮捕とは証拠隠滅(口裏合わせ含む)や逃亡を防ぐために行います。公然わいせつは、そもそも重い犯罪ではなく、基本的には自己完結していることが多いため、逮捕する理由がないです。今回は、組織的に巨額の売り上げを出すビジネス化していたから逮捕に至ったと言えます。

一部の客まで逮捕された理由は、記事からはわかりませんが、多くの客が逮捕されていないことからもわかるように、当然に逮捕するものではないです。ただし、摘発された場合は、起訴まで行くのを基本に考えた方がいいですね」(杉山弁護士)

前出の夕刊紙記者が付け加える。

「たとえば違法風俗でプレイ中に警察が乗り込んできて逮捕はされなかったとしても、身元を確認されたりして、精神的ショックは大きいです」

杉山弁護士は、最後にこうまとめた。

「弁護士としては、そもそも犯罪とされるようなイベントには行くべきではないとしか言いようがないですね。現場から逃げ出したりするような行動があれば、本来なかった逮捕の理由も出てくる。『摘発されたらおとなしくしておきなさい』というのがひとまずできるアドバイスです」

君子危うきに近寄らず、だ。

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