親の介助を子ども1人で…「ヤングケアラー」1クラスに2人の衝撃

弁護士JP編集部

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親の介助を子ども1人で…「ヤングケアラー」1クラスに2人の衝撃
家族に代わり日常的に買い物に出かけるヤングケアラーも ※写真はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

小学生、中学生、高校生の頃、遅刻しがちだったり、忘れ物が多かったり、季節に合わない服装をしている同級生はいなかっただろうか。彼らは、もしかすると「ヤングケアラー」だったかもしれない。

厚生労働省によると、ヤングケアラーとは「本来大人が担うと想定されているような家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」と定義されている。

2020年度に厚生労働省が行った全国調査では、調査に参加した中学校の46.6%、全日制高校の49.8%にヤングケアラーがいることがわかった。また中学2年生では、「家族の中にあなたがお世話をしている人はいますか」という質問に5.7%(17人に1人)が「いる」と回答。1クラス40人とすると、そのうち2人はヤングケアラーだという実態も明らかになった。

学業、進路、友人関係に影響

ヤングケアラーという言葉の広がりとともに近年増えているのが、「自分もヤングケアラーだった」という人たちによる情報発信だ。実体験として語られることが多いのは、学業や進路、友人関係への影響。家事や家族の世話に追われて自分の時間が取れず、満足に勉強できない、学校に通えない、友人と遊べなくなったといった実生活への影響は珍しくない。

ストレスや悩みを抱えきれず、事件に発展したケースもある。2021年8月、滋賀県大津市で17歳の兄が6歳の妹を死亡させた事件では、経済的な理由から県外で働く母親の代わりに、兄が妹の世話をしていた実情が判明。兄は学校に通わず、頼れる人もいない環境の中、たった一人で負担を背負い込んでいたという。

少年審判では、兄がヤングケアラーであったことが指摘され、児童相談所など公的機関による支援が不十分だった点も問題視された。

「家の手伝い」との線引きは?

5月11日に『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマ―新書)を上梓した澁谷智子教授(成蹊大学文学部現代社会学科)は、ヤングケアリングについて「なし崩し的に起こることが多い」と指摘する。たとえば突然の事故や病気で、それまで家事を担っていた大人が介助や見守りなしでは生活できなくなり、子どもがその役割を引き受けざるを得なくなるというのは、どこの家庭でも起こる可能性がある。

インタビューに応じる澁谷智子教授

「本来であれば大人がするような家事や家族の世話を、子どもがやらないと生活が回っていかない。そのような局面に追い込まれているのがヤングケアラーです」(澁谷教授)

彼らがこれまで見過ごされてきたのは、ヤングケアリングが「家族の助け合い」「子どものお手伝い」と見なされていたからだという。

「その子の年齢や能力を考慮した上で、ちょっと頑張ればできそうなことを任せるのが『お手伝い』です。それによって、達成感や人の役に立ったという気持ちを抱くことができる。しかしヤングケアリングでは、年齢や能力に配慮する余地がありません。必要に迫られて、年齢にしては重い責任を引き受けざるを得ない。その結果、子ども自身の生活に影響が出てしまうのです」(澁谷教授)

注目の背景に「少子高齢社会の危機感」

日本でヤングケアラーが認識されるきっかけとなったのは、2013年にある1人の当事者が行った情報発信だ。

「当事者の実体験が語られたことで、ヤングケアラーの置かれている状況やどんな思いを抱いているかなどが具体的に知られるようになりました。『ヤングケアラー』という言葉によって、それまでのように漠然とした『お手伝い』のイメージで捉えるのではなく、ケアを担う子どもたちの状況を、

  • 何歳くらいの子どもが1日に何時間、どういうケアをしているのか
  • どういう状況でケアが発生しているのか
  • 子どもの生活にはどんな影響が出ているのか

などのように、解像度を上げて知ろうとする視点ができたように思います」(澁谷教授)

その後、テレビや新聞では2014年頃からヤングケアラーに関する特集が組まれるようになり、厚生労働省は2018年より実態調査を開始。2021年には厚生労働省と文部科学省が連携し支援のためのプロジェクトチームを立ち上げるなど、ヤングケアラーに対する注目度は官民問わず急速に上がっている。この動きについて、澁谷教授は「日本では少子高齢化の行きつく先だという危機感が強くあったから」と分析する。

「高齢者、つまりケアが必要な人が増える一方、ケアを担う家族への支援はあまりにも不十分なままでした。共働きの家庭も増える中で、ケアと仕事の両立にあえいでいる大人たちはたくさんいます。彼らがヤングケアラーの存在に気づいたとき、自分たちと同じようなケアを子どもが担う厳しさを、リアルに受け止めたのではないでしょうか。メディアや行政など各分野の大人たちが、それぞれの立場でできることを真剣に考えて動いているのは、研究する立場からも強く感じています」(澁谷教授)

このような状況を踏まえ、行政では問題解決に向けてどのような取り組みが行われているのだろうか。さらに周囲の関わり方など、ヤングケアラー支援先進国であるイギリスから学ぶ具体策について澁谷教授に聞いた。【後編に続く】

■ 書誌情報
ヤングケアラーってなんだろう
著者:澁谷智子
発行:筑摩書房
価格:760円+税

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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