4630万円返還拒否男性の容疑「電子計算機使用詐欺罪」とは? 「Go To トラベル」悪用で実刑のケースも

弁護士JP編集部

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4630万円返還拒否男性の容疑「電子計算機使用詐欺罪」とは? 「Go To トラベル」悪用で実刑のケースも
サイトや店舗の特典サービスの「お得」を欲張りすぎると…(HiroS_photo/PIXTA)

山口県阿武町が誤って振り込んだ4630万円を不正に使ったとして、24歳の男性が「電子計算機使用詐欺罪」で逮捕された事件。

5月24日には、「法的に4299万円余を確保した」と阿武町が会見で明らかにするなど、日本中の注目を集めた騒動はようやく収束に向かいつつある。

この事件で男性の逮捕容疑は「電子計算機使用詐欺罪」であったが、どのような犯罪なのか。

「機械」や「システム」に対する詐欺行為とは?

労働・刑事事件の対応経験も多い林宏子弁護士は「人ではなく、機械やシステムに対する詐欺行為が電子計算機使用詐欺罪に該当する」と説明。以下のような具体例を挙げた。

①キセル乗車(有人改札ではなく自動改札機を通過した場合)
②改ざんしたETCカードを使って通行区間を偽り安い料金で高速道路を使用
③プリペイドカードを改ざんして、残高を増やして使用
④他人のクレジットカードを使ってインターネットで商品を購入
⑤インターネットを用いて転売目的でチケットを購入
⑥還付金詐欺(被害者をだましてATMから詐欺グループの口座にお金を振り込ませる)
⑦スミッシング詐欺(SMSを用いて詐欺サイトへ誘導し、商品を購入させる)
⑧不正アクセスにより仮想通貨を流出
⑨ポイントプレゼントキャンペーンを利用し、ポイント分の現金をだまし取る
⑩Go To トラベルクーポン詐取(宿泊するつもりがないのに宿泊予約を入れ、クーポンを国から交付させる)
⑪銀行従業員の着服(銀行システムを用いて自身の口座にお金を振り込む)
⑫店員がポイントを不正取得(コンビニ店員が、客が買い物をした際に自分のポイントカードにポイントを付与する)

阿武町の件で逮捕された男性についても、人はだましていないが、誤って振り込まれた金と知りながらオンライン決済サービスを利用したことから、機械やシステムをだましたとして電子計算機使用詐欺罪で逮捕された。

刑法二百四十六条の二「電子計算機使用詐欺罪」(e-Gov法令検索より。一部加工)

”ポイ活”で「電子計算機使用詐欺罪」問われる可能性も

近年、電子計算機使用詐欺罪は、サイトや店舗の特典サービスなどを悪用したものについてその適用が目立ってきているのも特徴だ。

今年1月には、大手フードデリバリーサービスで80回にわたって「初回限定割引」を受けた男が逮捕されている。男は安価なSIMカードを大量に購入しサービスへの新規登録を繰り返すという手口で割引クーポンをだまし取り、総額約20万円の注文のうち約13万円の支払いを免れていた。

一昨年10月に多数のホテルに虚偽の宿泊予約をし、国の観光支援事業「Go To トラベル」で配られるクーポン約73万円をだまし取った男も「電子計算機使用詐欺罪」で裁かれ、懲役1年6月の実刑判決が下された。

中にはおトクな“ポイ活”(※)が行き過ぎて逮捕されているケースもあった。

(※)買い物でポイントを貯めるほか、ポイントサイトを活用して企業のアンケートに答えたり、アプリ・サイトなどに新規会員登録をすることでポイントを集める活動。貯めたポイントは換金、あるいは現金と同様に使用できる場合が多い。

一昨年10月、アプリなどの認証代行業(※2)をしていた家族3人が「電子計算機使用詐欺罪」で逮捕された。事業に使う約40000枚にも及ぶSIMカードを利用して決済サービスへの会員登録を行い、新規登録者に付与されるポイント約2000万円分を詐取・現金化していた。

(※2)アプリなどの利用登録に必要な本人確認手続きを有償で代行する業者。特殊詐欺目的などでの利用も多く警察は取り締まりを強化している。

さらに、ポータルサイトに架空の名義を使って70000件に及ぶ会員登録をし、登録の特典として得られるポイント9000万円以上を入手していた親子が逮捕された事例などもある。

阿武町の男性の今後は?

電子計算機使用詐欺罪で有罪になれば10年以下の懲役だ。

林弁護士は「被害状況や反省の度合い、示談の有無によっては、起訴猶予という形で済むこともある」とした上で、「一般論になりますが、やはり数の多寡によって逮捕されるか否か、起訴されるか否かが変わってくると思いますし、起訴された場合の量刑にも影響すると思います」と説明する。

事件とともに罪名も有名にしてしまった阿武町の男性も、今後法の裁きを受けることになる。

林弁護士は「1円も返金されていなかった場合は、金額も大きく、複数回にわたって決済代行業者に振り込みを行っていることから悪質性も認められますので、実刑になっていた可能性が非常に高かった」としつつも、決済代行業者からとはいえ、大半のお金が町に返還された現状は「実質的に被害が弁済されている」(林弁護士)と執行猶予付きの判決が出る可能性にも言及した。

「しかし、男性からお金が返還されたわけではなく、まだ数百万円が未返還であることを重視して実刑判決が出る可能性もあると思います」(林弁護士)

振込金額を間違えた町職員の「人為的」ミスが発端となり、「電子計算機使用詐欺罪」で犯人が逮捕されるという何とも複雑な気持ちになる事件。司法の場で何が語られ、どのような判断が下されるのだろうか。

取材協力弁護士

林 宏子 弁護士

林 宏子 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所

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