台湾“赤い封筒”「死者と結婚させられる」は都市伝説? 専門家が語る「冥婚文化」のリアルとは

弁護士JP編集部

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台湾“赤い封筒”「死者と結婚させられる」は都市伝説? 専門家が語る「冥婚文化」のリアルとは
封筒の中には亡くなった人の毛髪や遺品が入っているというが…(写真はイメージです)

「その“赤い封筒”を絶対に拾ってはいけない」

道端に落ちている赤色の封筒を撮影した写真が、こうしたコメントとともにたびたびSNSでバズることがある。

拾ってはいけない“理由”とされるのが、台湾に伝わる冥婚(めいこん:死者と生者の結婚)文化。SNSなどでは「封筒には未婚で亡くなった女性の毛髪や遺品が入っており、それを拾った男性は物陰に隠れていた女性の親族に捕まり“結婚”させられる」とささやかれている。しかし冥婚文化に詳しい北海道大学大学院・櫻井義秀教授(宗教・文化社会学)は、この通説について「典型的な都市伝説です」と否定する。

台湾の“赤い封筒”が「都市伝説」なワケ

冥婚は“台湾の特異な文化”として捉えられているむきがあるが、実は中国、韓国、そして日本といった東アジアの国々、さらにはアフリカにも「死者を結婚させる」という習俗がある(※)。櫻井教授はこれら地域の共通点として「亡くなった尊属親(自分より上の世代の親族)を祖先としてまつる『祖先崇拝』が盛んである」ことを指摘する。

※ 名称は国や地域によって異なるが、本記事では便宜上「冥婚」と統一する。

「祖先崇拝では、未婚で亡くなった人は子孫を残さなかったため『祖先』になることができません。生きている人たちにまつってもらえない霊は、それを恨んで災いをなすと信じられており、遺族たちは亡くなった人に『祖先』となる資格を与えるための特別な葬法や供養の方法を編み出したのです」

冥婚には、死者と生者を結婚させる例もあるが、他にも男女の死者を夫婦にして葬るもの、絵馬や人形を奉納することで架空の相手と結婚したことにするものなど、国や地域によってさまざまな形態がある。

「そもそも冥婚とは、結婚が人生の通過儀礼として当たり前であるという価値観のもと、未婚のまま亡くなった人は悔いを残しているだろうから、それを慰霊しようと行われるものです。

亡くなった人の毛髪や遺品を入れた封筒を、誰に踏みつけられるかも分からない道端に放置して、それを偶然拾った素性の知れない人と結婚させるなんて、“慰霊”とはほど遠いものではないでしょうか」(櫻井教授)

なお中国の一部地域には「かつて、村の中に入ってきた青年を捕まえて亡くなった娘と結婚させる風習があった」との言い伝えがあるが、櫻井教授は「これは、都市伝説ではない“伝説”です」と解説した。

「冥婚文化」本来はどういうもの?

日本における冥婚習俗は山形県、青森県、沖縄県にあり、山形県ではムサカリ(山形の方言で「結婚」の意味)絵馬を、青森県では花嫁人形を奉納して未婚で亡くなった人を供養し、結婚という通過儀礼を行ったこととする。沖縄県では夫婦同甕(同じ墓に入ること)という価値観を背景に、離婚後に亡くなった女性の骨甕を元の婚家に移動させる。

一方、台湾や中国、韓国では死者同士や、赤い封筒の“元ネタ”となった死者と生者の冥婚が主だが、その実態について櫻井教授は以下のように説明する。

「相手がいる以上、これらには宗族(父系同族集団)や相続制と密接な関わりがあり、冥婚後には実際に親族同士の付き合いを始めなければなりません。地域によっては、婚礼儀式をひと通り行ったり、結納金が発生したりするケースもあります。

こうした事情から、まったく知らない人を相手に選ぶのではなく、たとえば亡くなった女性の姉や妹が結婚していれば、その夫を“相手”として立てるなど、すでに付き合いのある親族の中で完結させるケースも多いようです」

SNSなどで「冥婚アイテム」としてささやかれる“台湾の赤い封筒”については、30年以上にわたり冥婚文化を研究する櫻井教授も最近になって知ったといい、当然ながら、実際に封筒を拾って死者と結婚させられたという話も聞いたことがないという。“都市伝説”として語りやすいキャッチーさが、SNSで“バズり”を生んでいるのかもしれない。

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