「48日連勤」上司は見て見ぬふり… 適応障害を発症した女性が「慰謝料100万円」勝ち取った“当然のワケ”

林 孝匡

林 孝匡

「48日連勤」上司は見て見ぬふり… 適応障害を発症した女性が「慰謝料100万円」勝ち取った“当然のワケ”
Xさんは48日連続の勤務を終えた後、不眠や首が圧迫されるという症状に悩まされるように…(shimi / PIXTA)

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

今回お届けするのは、48日連続の勤務を強いられて適応障害になってしまった女性社員の事件です。

裁判所
「慰謝料100万円を払え」(東京地裁 R5.6.29)

以下、詳しく解説します。

※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

▼ 会社
テレビ番組の企画制作を受託する会社

▼ Xさん(女性)
・正社員
・49歳(適応障害発症時)

事件の概要

▼ 48日連続勤務
ーー なぜこんな長期の連続勤務をすることになったんですか?

Xさん
「テレビ局から受注した番組の制作を担当することになったからです。私が売り込んで獲得してきた仕事です。その後、総務部の仕事もしながら、この番組の制作もすることになりました。担当は私だけでした

キツイですね・・・。しかも結構タイトなスケジュールでした。そして48日連続勤務を終えて、約2か月後・・・

▼ 適応障害を発症
Xさんは不眠となり、首が圧迫されるという症状に見舞われました。病院に行くと、適応障害と診断されました。医師の見解は「放送の現場から事務への納得いかない異動をさせられ、その後、周囲や上司からのプレッシャーが強くストレスが身体化した」というものです。その後、3年くらい通院しました。

▼ 提訴
Xさんは「48日連続勤務を強いられた」として慰謝料を請求する訴訟を提起しました(その他、残業代等も請求し認められています。争点が多岐にわたり判決文が62ページもあるため、主に連続勤務にしぼって解説します)。

ジャッジ

弁護士JP編集部

裁判所
「48日連続勤務は違法」
「Xさんに慰謝料100万円払え」

▼ 48日連続勤務について
裁判所
「Xさんは48日連続勤務を行っており(平成30年2月4日〜3月23日)、法定時間外労働と法定休日労働を合計すると、平成30年2月と3月はそれぞれ100時間を超えており、会社が従業員に対して、このような勤務を余儀なくさせることは違法というよりほかない」

▼ 上司はそれを知っていた
裁判所
「Xさんの上司は、少なくとも3月14日の時点においては、Xさんが1か月以上連続勤務をしていたことを知り得たといえる。Xさんから『連続勤務している』旨の報告を受け、『その後も連続勤務する』旨のスケジュール報告を受けていたからである」

裁判所
「しかし! 会社は何らの軽減措置もとらず48日連続勤務を余儀なくさせている。3月14日の時点において、会社としては、Xさんの補助をさせる者を配置するか、テレビ局と協議して納期を伸ばすという方法でXさんの負担を軽減すべきであった。にもかかわらず何の軽減措置もとらず、労働時間を適正に把握し管理する義務があるのに怠っているので不法行為が成立する」

▼ 慰謝料100万円
裁判所
「48日連続勤務が適応障害発症の基盤となったこと、治療内容、治療期間、治療頻度を考慮し、慰謝料は100万円とする」

ちなみに、適応障害の発症については労災も認定されています。

▼ 違法発言? vol.1
ほかにもこんな争いが。

ーー どんなことを言われたんですか?

Xさん
「取締役から『AとBから月1ヒアリングをしてもらっていると思うが、指導しても前進が見られないとの報告がある。今日の役員会で、本人の口から聞くことになった。自分でしゃべらないって決めているから、しゃべらないんじゃないか? 社会人から・・・欠落していない? 勤め人なんだからさ、ある程度自分と会社の中に折り合いをつけて生きていかなきゃいけないんだよ』と言われました」

ーー 裁判所さん、いかがですか?

裁判所
「セーフです。違法な点は見受けられない。上記の発言は、職場で他の社員とコミュニケーションをとらない原告に対し、コミュニケーションをとるよう指導しているものであり、業務上必要な指導を逸脱した発言とはいえない」

うーん。「社会人から欠落」発言、今回はセーフになりましたが、状況によってはアウトになる可能性もあると思うのでご注意ください。

▼ 違法発言? vol.2
Xさん
「あと、団体交渉のときにこの取締役が『年齢的なものと、総務というのは社内の細かな仕事を一人一人の社員と相対して行うこともあるので、そういう意味で、業務センター、ほかに女性社員が2人いますけど、ボク個人的にはこういう細かい仕事は女性についてもらったほうがありがたいというのが正直なところ』と言ってきました。

ーー 裁判所さん、いかがですか?

裁判所
「セーフです。不法行為が成立するとはいえない。たしかに、細かい仕事を女性に担当させるのが相当である旨の意見を表明しており、根拠なく性別による業務分担を肯定する社会的相当性を欠く発言であるが、個人的見解である旨断った上で表明した意見であり、Xさんの権利又は利益を侵害するものではない」

この発言もアブナイです。今回はセーフになりましたが、裁判官が違えばアウト判定になった可能性があります。ご注意ください。

「男なんだから」「女なんだから」という固定観念に基づいた発言は避けた方が無難です。あと、「あくまで私の個人的見解ですが」とディフェンスしてもアウトになるケースもあると思います。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

取材協力弁護士

林 孝匡 弁護士
林 孝匡 弁護士

【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。 HP:https://hayashi-jurist.jp X:https://twitter.com/hayashitakamas1

所属: PLeX法律事務所

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