離婚後の女性の「再婚禁止期間」が“廃止” 法改正のポイント「無戸籍の子」問題の解消とは【弁護士解説】

弁護士JP編集部

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離婚後の女性の「再婚禁止期間」が“廃止” 法改正のポイント「無戸籍の子」問題の解消とは【弁護士解説】
「嫡出推定」制度の改正は「無戸籍の子」問題の解消を目的にしている(genzoh / PIXTA)

4月1日、子が生まれた時期によって法律上の父親を推定する「嫡出推定」制度を変える改正民法が施行された。

改正前までは、離婚してから300日以内に出生した子は「前夫の子」として扱われるのが原則だった。改正により、離婚から300日以内の出産でも、女性が再婚していれば現夫の子と推定されるようになった。

また、嫡出推定制度の変更に伴い、これまで女性に対してのみ設けられていた100日の再婚禁止期間(前婚の解消または取り消しの日から起算)も廃止されることになった。

法改正の背景や目的について、離婚・家族問題に詳しい安達里美弁護士に話を聞いた。

法改正の目的は「無戸籍の子」問題の解決

今回の改正の目的はなんでしょうか。男性にはない再婚禁止期間が女性にのみ設けられていた、性差別的な制度を改善するという側面もあるのでしょうか。

安達弁護士:過去には、「親子であること」を確認するためのDNA鑑定などの手段がありませんでした。「性行為は結婚してからするものだ」という価値観に基づき、「結婚している=子ができる」「結婚していない=子はできない」という前提で子の父を法律が推定して、子の利益を守る必要があったのです。

そのため、女性にだけ再婚禁止期間が課されることは、仮に性差別だとしてもそれを上回る必要性があるという理由から認められてきました。

しかし、社会の価値観が変化したことにより、婚姻中の人でも離婚する前から配偶者以外の相手と性交渉を行うことも増えてきました。女性の場合には、婚姻中に夫以外の人との子ができることもあります。離婚手続きが長引いてしまった場合には、離婚する前や離婚から300日以内に出産するというケースも少なくありません。

このような場合に、出生した子が前夫の子と推定されることを避けるために出生届を提出せず、結果として子が無戸籍になる問題が生じるようになりました。

今回の法改正の主な目的は、この「無戸籍の子」問題を解決することです。

また、離婚後300日以内であっても再婚後に生まれた子は再婚後の夫の子と推定されることになったので、女性の再婚を制限する必要がなくなりました。むしろ再婚禁止期間がないほうが「無戸籍の子」問題を解消しやすくなるので、再婚禁止期間も廃止されることになったのです。

「子の戸籍」をめぐる新たなトラブルが生じる可能性は?

再婚禁止期間のために女性が実際に不利益を負った、という案件を扱ったことはありますか?

安達弁護士:特にありません。再婚できないことよりも、出生した子に前夫の嫡出推定が及ぶ不利益が最大の問題でした。

法改正後による、今の夫と出会ってから数か月以内など、生物学上はあり得ない場合でも「今の夫の子」と判断される可能性があるのでは?

安達弁護士:トラブルが生じる可能性はあると思います。

たとえば、男性側が「自分の子でないのは理解しているが、この人(結婚予定の女性)を愛しているから、そのお腹の子どもも一緒に愛し、責任をもって育てるぞ!」というつもりで再婚したが、その後にまた離婚するケースが考えられます。

そのケースの場合、血のつながっていない子ども相手が離婚後も法律上自分の子として扱われることに関し、「自分の子ではない」と主張したくなる人が出てきても不思議ではありません。

また、前夫から「戸籍上は現夫の子になっているが、実際には自分の子だ」と主張して、嫡出否認の訴えが起こる可能性もあります。

「嫡出否認」制度も変更

法改正により、父だけでなく母も嫡出否認の訴えが可能になりました。

安達弁護士:法改正前は、離婚協議中に子を出産した場合や離婚後300日以内に子を出産した場合、離婚前の夫の嫡出子と推定されていました。

母や子の側から嫡出否認の訴えを提起することができなかったため、夫(前夫)に提起を依頼する必要がありましたが、これは非常にハードルが高く、「無戸籍の子」問題の一因になっていました。

今回の法改正では、「無戸籍の子」問題を解消するために、子や母も嫡出否認の訴えを提起できるようになりました。

また、訴えが可能な期間も「1年以内」から「3年以内」に延長されました。1年では準備を整えて提訴にまで至るまでの期間としては短いこと、とくに女性側は妊娠・出産や育児と並行しながら提訴の準備をする必要があることが考慮されたためです。

最後に、今回の法改正について、全体的な所感を教えてください。

安達弁護士:「無戸籍の子」問題は非常に深刻です。法改正によってこの問題が一部解消できるようになったのは、非常に良いことだと思います。

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