順天堂大医学部入試女性差別問題に判決 「不合理な差別」認められる

弁護士JP編集部

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順天堂大医学部入試女性差別問題に判決 「不合理な差別」認められる
判決後の会見に臨む「医学部入試における女性差別対策弁護団」(5月19日 霞が関/弁護士JP編集部)

順天堂大学医学部を受験した女性13人が「性別を理由に差別された」として賠償金を求めていた裁判で、5月19日東京地裁は、順大に対し約805万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

原告側は「不公正、不公平な入試を受験させられた」として1人あたり1年度200万円の慰謝料や受験料、受験にかかった宿泊費などの支払いを訴え、順大は「全寮生活となる医学部1年生の女子寮の収容人数に制限があった」と反論し請求の棄却を求め争っていた。

加本牧子裁判長は「性別という属性のみによって一律に不利益に扱う判定基準は、不合理な差別」と原告の訴えを認め、順大に対し一部の慰謝料や受験料、受験にかかった交通費などの支払いを命じた。しかし、慰謝料額は入試の判定基準が既に是正されたことなどを踏まえ、1人30万円が相当とした。

医学部受験における女性・年齢差別が明らかに

2018年に相次いで発覚した医学部受験における不正入試問題。本裁判で被告となった順大では、女子と浪人生が不利に扱われ、合格ラインに達していた受験生が不合格になった。

原告の13人は、他大学の医学部や他学部に進学した大学生、現役医師らの女性で、いずれも2011~18年度に順大を受験していた。代理人を務めたのは約70人の弁護士が名を連ねる「医学部入試における女性差別対策弁護団」だ。

順大は、入試の1次試験において学力試験の成績が一定以下の場合、女子や浪人生に対して現役男子よりも厳しい合格基準を設けていた。また、2次試験の小論文・面接においては、合格者を決める基準点が女子は男子より0.5点高く設定されていたことも明らかになった。

飛び出した仰天の言い訳

これらの不正が発覚した際、順大は「女子はコミュニケーション能力が高いが、20歳を過ぎると男女差がなくなるというデータがあり、補正することで男子学生を救う発想だった」とコメントしていた。

女子や浪人生が不利となる不適切な入試は少なくとも2008年度から実施されており、大学側は性別により合否判定に差異を設けることが「大学の裁量の範囲内」と考えていたという。

順大医学部は2013~18年度入試の平均合格率が男子9・2%に対し、女子5・5%と、医学部を置く全国81大学で最も格差が大きかったが、不正発覚後の2019年度入試の合格率では男女の比率が逆転した。

「慰謝料の低さ」は評価せず

角田由紀子弁護士(5月19日 霞が関/弁護士JP編集部)

判決後に記者会見で「医学部入試における女性差別対策弁護団」代表の角田由紀子弁護士は、「(判決について)評価できる点もできない点もあるが、慰謝料の低さは特筆すべきだ」と苦言を呈した。

神原みわ子弁護士は判決の評価できる点について、下記を挙げた。

  • 医師としての資質や学力の評価とは直接かかわりのない「性別」によって合否の判定を左右させたのは、憲法14条1項(※)などを踏まえても不合理な差別であると明確に認めた点
  • 女性らに不利な基準によって合否が左右されたか否かに関わらず、精神的な苦痛が生じたとして全員に慰謝料を認めた点
  • 被告が主張していた女子寮の許容人数の限界について、女性らに不利な判定基準を設けた理由にはならないと棄却した点
  • 女性らに不利な判定基準があることを公表せずに受験させた行為は、意思決定の自由を侵害した不法行為であることを認めた点

(※)すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

一方で評価できない点として、慰謝料額の低さを挙げ、「裁判所は、既に順大の入試が是正されていることを評価し慰謝料の金額を下げたとしているが、差別を是正するのは当たり前だ。是正はあくまで未来の受験生に向けたものであり、過去の受験によって精神的苦痛を被った原告らへの慰謝料を減らす理由にはならない」と批判した。

左から神原みわ子弁護士、角田弁護士、倉重都弁護士(5月19日 霞が関/弁護士JP編集部)

「初めから差別されるとわかっていれば…」

原告の一人で他大学の別学部に通うAさんは判決に対し、弁護団を通じコメントを発表した。

「不法行為が認められたことはよかったが、順大の入試対策に要した時間、授業料や受験料、それらのお金をまかなうためにアルバイトをした時間や労力は慰謝料の何十倍にもなる。初めから差別されるとわかっていれば受験校から除外していた。医師を志していた受験生が、医師への道を閉ざされたことを忘れないでほしい」。

山崎新弁護士、木山悠弁護士(5月19日 霞が関/弁護士JP編集部)

今後について弁護団は「原告らは他大学の医学部に進んだ方もいれば、医学部を諦めて他学部に進んだ方もいる。判決の受け止め方がそれぞれの事情で異なるのはご想像いただけると思う。控訴するかは13人全員と確認をとりながら決めていく」とした。

また、同弁護団は同じく2018年に不正入試が発覚した東京医科大学と聖マリアンナ医科大学も提訴しており、今回の判決がどのような影響を及ぼすのか注目されている。

山崎新弁護士は「『性別にもとづく直接差別である』という点は一連の訴訟で共通しており、他の大学でも違法性は認められるだろうと我々は信じている」と力強く宣言した。

その上で、「しかし、この明らかな直接差別において『差別されたことへの慰謝料』が正当に評価されないことについては、逆にどういう裁判であれば正当な評価がなされるのかという思いすらする」と憤り、今後の裁判では直接差別に対する慰謝料額に注目していきたいと語った。

東京医科大学への判決は9月9日に言い渡される(聖マリアンナ医科大学への判決日は未定)。

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