「日本版ライドシェア」がスタートしたが…本格導入に立ちはだかる「深刻すぎる問題」とは

弁護士JP編集部

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「日本版ライドシェア」がスタートしたが…本格導入に立ちはだかる「深刻すぎる問題」とは
日本国内のライドシェアはタクシー会社管理下での運行が基本だが(※写真はイメージです Komaer/PIXTA)

4月8日から東京都の一部で「日本版ライドシェア」がスタートした。地域・曜日・時間帯を区切り、「二種免許」をもたない一般ドライバーが、自家用車を使って有償で客を運ぶ。昨今のタクシー不足に対処するためのものであるが、今後、もし日本でライドシェアの本格導入を検討するならば、どのような問題・課題があるのだろうか。

日本版ライドシェアとは

日本版ライドシェアの特徴は、運行管理業務をタクシー会社が厳格に行うことにある。一般ドライバーがタクシー会社に雇用され、タクシー会社の管理下で運行を行う。

海外では、ライドシェアはUber等のアプリ運営業者が一般ドライバーと利用者をマッチングする形がとられている。

日本の場合、タクシー事業、つまり有償で客を自動車に乗せる事業を行うには、国土交通大臣の許可を受ける必要があり、かつ、厳しい規制が設けられている。

たとえば、タクシー業者は営業所ごとに運行管理者(有資格者)をおき、運転手の健康管理等を行わせることとなっている。また、車両の点検整備は毎日行うことが義務付けられている。さらに、タクシー運転手は「二種免許」を持っていなければならない。

日本版ライドシェアは、その例外として、道路運送法78条3号・同施行規則50条によって認められたものである。ライドシェアが部分的に解禁された背景としては、昨今のタクシー不足が挙げられる。

日本でライドシェアを本格導入する場合の課題

もし、日本で海外と同等のライドシェアを本格導入する場合、従来のタクシー事業に対する厳しい規制を大幅に緩和することになる。

ライドシェアの導入について賛否両論が争われているのは、この点に関してである。行政法に詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)は指摘する。

「ライドシェアの導入に賛成する立場は、規制をタクシー業界の既得権と結び付け、規制緩和をプラスととらえる傾向があります。これに対し、反対の立場は規制を安全確保のため必要不可欠なものととらえています。

たしかに、規制にはタクシー業界の既得権を守っているという側面もあるかもしれません。特に許可制は、新規参入に対する障壁として機能する面があります。また、運転手に二種免許の取得を義務付けることも、新規参入のハードルとみることも可能ではあります。

しかし、そのような見方は本質ではありません。規制のあり方を全体としてみれば、本質的な目的はあくまでも安全性の確保にあることが明らかです。」(荒川香遥弁護士)

運行管理や車両の点検整備のあり方を厳格に定め、かつ、タクシー運転手に自家用車よりもハードルの高い二種免許の取得を義務付けているのは、安全性のレベルを確保することに主眼を置いてのことだという。

「もちろん、タクシー不足の問題に対処しなければならないという政策的課題は無視できません。そのなかで、運行管理をタクシー会社に担わせるしくみを採用した日本版ライドシェアは、安全性を可能な限り確保するためのものといえます。」(荒川香遥弁護士)

アメリカでは安全確保が深刻な問題に

では、ライドシェアの本場ともいえるアメリカの状況はどうなっているか。2023年3月22日の衆議院国土交通委員会で、国土交通省の堀内自動車局長が、一谷勇一郎委員(日本維新の会)の質問に対する答弁の中で、日本のタクシーとアメリカの主要なライドシェア企業との事故発生状況の比較データ(2020年)を紹介している。

これによると、輸送回数は日本のタクシーが約5.6億回、アメリカの主要なライドシェア企業が約6.5億回となっているのに対し、交通事故死者数、身体的暴行による死者数、性的暴行件数はいずれもアメリカの主要なライドシェア企業が大幅に上回っている(図表参照)。

日本のタクシーとアメリカの主要なライドシェア企業との事故発生状況の比較
衆議院国土交通委員会(2023年3月22日)議事録参照)

これは、日本でアメリカと同様のライドシェアを解禁した場合、従来の規制の下での安全性の確保が困難になる可能性があることを示している。

「自家用有償旅客運送」とのバランスも課題

荒川弁護士は、ライドシェアの本格導入を検討するにあたっての課題として、過疎地等で実施されている「自家用有償旅客運送」とのバランス・整合性を考えなければならないと指摘する。

「自家用有償旅客運送は、道路運送法78条3号によって認められている制度です。つまり、日本版ライドシェアと同じ根拠条文の下で、例外的に認められているということです。

自家用有償旅客運送は、住民や観光客のための交通手段が乏しい過疎地に限って、厳しい要件の下で認められているものです。有償ではありますが、あくまでも市町村、NPO法人等が非営利事業として行っています。

まず、自家用有償旅客運送が認められる条件がきわめて厳しくなっています。国土交通省の登録が必要ですが、その前提として、その地域でバスやタクシー事業を行うことが困難だということについて、事業者等との合意が形成されていなければなりません。

また、安全性確保のためのルールは、タクシー事業に準じる厳しいものです。運行管理や整備管理の体制、ドライバーへの講習の義務付けといったものです。

日本版ライドシェアは、自家用有償旅客運送と同じ道路運送法78条3号を根拠として、例外的に認められているものです。したがって、自家用有償旅客運送の厳しい規律とのバランス・整合性を考えると、安全性確保のための規制を簡単に緩めることはできないと考えられます」(荒川香遥弁護士)

国民に「安全性のレベル低下」を許容する“覚悟”があるか

つまるところ、ライドシェア導入に際しての本質的な問題は、結局「安全性をどこまで確保するのか」ということに帰結する。

この点について、従来の日本の法制度は、タクシー事業を許可制の下におき、運行管理や車両の整備、ドライバーの資格等について厳格な規制を課すことにより、安全性を担保しようとするものだったといえる。そして、その例外は限られた場合に厳格な要件の下で認められてきた。

もしも今後、ライドシェアの本格導入を検討するならば、従来の規制のあり方をどこまで緩和するのかという問題を避けて通ることはできない。人の生命・身体が害されたら、事後的には取り返しがつかない。

裏返していえば、国民は、「安全性のレベルの低下をどこまで許容するか」という選択と、その選択に対する覚悟を迫られることになるといえる。

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