”未知の凶器”までカバー 銃専門家が「画期的だ」と評価する銃刀法違反改正案に透ける警察の本気度

弁護士JP編集部

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”未知の凶器”までカバー 銃専門家が「画期的だ」と評価する銃刀法違反改正案に透ける警察の本気度
火薬不要で静音のため、”凶器”化したリスクは計り知れない(警察庁発表資料より)

銃刀法違反の改正案が閣議決定し、国会での早期の法案審議、可決・成立を目指している。 改正案では新たに拳銃等から他の鉄砲全てが「発射罪」の対象となるなど、”抜け穴”をふさぎ、厳罰化が鮮明だ。

自作銃についても、3Dプリンター用の設計図や自作方法の解説動画および、そのあおり動画も対象となる。銃所持に関連するリスク要因を包括的に取り締まる内容といえるが、そこに穴はないのか。

「過去に何度か行われた改正の中でも今回は画期的といえる内容でしょう」。銃専門家の津田哲也氏は今回の改正案をそう評価した。なにが画期的なのか。

「これまでは問題に対して後追いの対応ばかりだったんです。事件が起これば、その事件に使用された銃砲刀剣類だけを対象に規制を強化する、というパターンです。ところが今回の改正案では、まだ犯罪に使用された例のないものにまで対象が拡げられており、警察の本気度を感じます」(津田氏)

将来脅威となり得る「電磁石銃」とは

津田氏がその代表格として挙げたのが、「電磁石銃」の規制だ。電磁石銃はコイルガンともいわれ、仕組みとしては電磁石の力で弾丸もしくは投射物を打ち出す。現時点では殺傷能力は低いとされ、「少々物騒なおもちゃ」程度ともいわれるが、今後、人を殺傷する凶器へ進化する余地はある。

同タイプの銃はなにより、火薬を使わないため動作音が小さく、この先、殺傷能力を有するように技術力がアップしていけば、大きな脅威となり得る。津田氏が補足する。

「今回の法改正の要因となった山上(徹也)被告の銃自作がありますが、実はあの銃は火縄銃と変わらない構造で、作り方は難しくないんです。ただ、火薬が不安定で下手をしたら自爆の可能性もありました。一方、電磁石銃は火薬がいりませんから製造プロセスや使用時にそうしたリスクがなく、より作りやすい。野放しにしておくと今後に大きなリスクをはらんでいました」(津田氏)

銃所持をあおる行為の厳罰化は有効か

改正案には銃自作に関連する行為の厳罰化も盛り込まれている。その点はどう評価できるのか。罰則の対象として新設されたのは、「銃の所持などを公然とあおり、そそのかす行為」だ。具体的には、拳銃の販売を会員制交流サイト(SNS)上で告知したり、自作して銃を所持しようとそそのかしたりするなどの行為に対し、罰則が設けられた。

「抑止力という意味では効果はあるでしょう。しかし、海外にサーバーを設置するなどでやられてしまうと摘発は難しいでしょう。加えて銃の所持を公然とあおるといっても、そうでない情報発信とどこで線引きをするのか…。表現の自由という側面も無視はできないでしょうしね」と津田氏はこの点については、抜け穴があると評する。

変わりつつある凶悪犯罪に対する意識

警察庁発表の「日本の銃器情勢」(令和4年版)によれば、銃器発砲事件の発生状況は令和4年が9件(うち6件は暴力団等によるとみられる)で、それ以前の4年間でも令和2年の17件を筆頭に10件前後で推移。そのほとんどが暴力団等によるものとなっており、海外に比べれば圧倒的に少ない。そのせいか、銃に対する危機感はそこまで高い印象はない。それでも、安倍元首相の自作銃による射殺事件のインパクトがよほど大きかったのだろう。

Polimill株式会社(ポリミル、本社:東京都港区、代表取締役:横田えり、以下Polimill社)が実施した、「駅の改札口に金属探知機を設置すべきか?」というイシュー(課題)について、条件付きも含めると反対12.5%に対し、賛成が76.8%と大きく上回り、世間の凶悪犯罪に対する意識の高まりを感じさせる。

厳格に行われている日本の銃管理体制

では、これまで一般市民による銃器発砲事件を抑止し、日本の治安をキープしてきた銃管理はどのように行われているか。まず、所持について民間人は、散弾銃、ライフル銃などの猟銃が許可されている。もちろん、屠畜(とちく)用や建設作用など、正当な理由があることが絶対条件だ。条件をクリアしていれば、公安委員会の許可を受ければ基本、誰でも所持はできる。

ただし、自動発射式の銃、重心が極端に短い銃、つえや傘に偽装された銃などは、狩猟用にふさわしくないとして許可が下りない。犯罪につながる可能性があれば、その時点でシャットアウトするわけだ。しかも、銃は「一銃一許可」が原則で、銃一丁につき、一人しか所持許可は受けられない。

所持後の管理も厳格に行われ、警察が定期的に訪問チェックするほか、強固で重厚な銃保管庫に何重ものチェーンでくくり、容易に持ち出されないよう厳重に保管することも義務付けられている。保管の際はすぐに使えないよう銃から重要部品を外すことなども同様だ。さらに、銃の所持許可は「3回目の誕生日」までで、有効期限は約2年となっている。

銃トラブルの数を増やしている意外な組織

こうした警察による厳重な管理体制もあり、日本では銃の所持は必要最小限にとどまっている。その意味では皮肉にも、銃に関するトラブルは暴力団関係以外では警察関係が多くなっているという実状もある。

「個人的には日本において警官が銃を所持する必要はないと思っています。イギリスでは警官は銃不携帯で専門部隊しか銃を所持していませんからね。それに倣って、日本も銃を所持するのは専門の部隊だけでいいかと」と津田氏は銃犯罪対策として、警官であっても不要な銃の所持はできる限り減らすべきと提言する。

なお、警察官の武器所持については、警察法第67条に、「警察官は、その職務の遂行のため小型武器を所持することができる」と定められている。

社会に衝撃を与えた自作銃による元首相の銃撃事件。たった一人の一般人の犯行だったことを考えれば、いくらでも銃に関する情報収集ができるネット時代では、自作銃も大きな脅威だと考えざるを得ない。なんとなくでも周辺に怪しい動きを感じれば注意を払う。そうした意識が少しでも国民に浸透するならば、銃刀法違反改正の動きはそれだけで意義があるといえそうだ。


津田哲也(つだてつや)
取材・執筆活動のほか、テレビ・新聞等で銃器評論家として活躍中。週刊誌などの署名記事執筆、新聞などへのコメント、テレビでは報道・情報番組を中心にコメンテータとしての出演など多数。映画やドラマ、漫画などの監修も手掛ける。監修作品には『踊る大捜査線』(フジテレビ)、『BULLET BALLET』(塚本晋也監督)、『飢えたライオン』(緒方貴臣監督)『サイレーン』(山崎紗也夏)など。著書に『銃社会ニッポン』(テレビ朝日出版)、『汚名刑事』(小学館)、『脳を食む虫』(マイクロマガジン社/小学館)などがある。
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