会社員から僧侶へ“転職”!? 女子プロレスラーと“兼業”も… 「後継者不足」打開へ“仏門”の変化

榎園 哲哉

榎園 哲哉

会社員から僧侶へ“転職”!?  女子プロレスラーと“兼業”も… 「後継者不足」打開へ“仏門”の変化
阿弥陀如来と日々向き合い続ける雫有希さん(撮影:榎園哲哉)

心を救済する「宗教」。自殺者が毎年2万人を超えている(厚労省統計)現代にあって、必要とする人が増えてもおかしくないが、その実、厳しい局面を迎えている。

四苦(生老病死)からの救済を起こりとしたブッダ(釈尊)が説いた世界三大宗教のひとつ「仏教」でも信徒数の減少や、寺院の人材・後継者不足が深刻化している。

文化庁が刊行する「宗教年鑑」(令和元年版)によると、伝統仏教(13宗派)・仏教系諸宗派の全国の寺院数は約7万7000寺。信徒数は平成の30年間で約8700万人から約4700万人へと4割5分も減少した。

「無住寺院」1万5000寺以上の現実

こうした状況を打開しようと、僧侶への“転職”を後押しする取り組みが行われていることはご存じだろうか。

2023年7月に設立された一般社団法人「サンガ」(事務局・大阪市)では、全国各寺院(登録寺院は現在諸宗派約60寺)への就職支援を行っている。代表の眞田伸之氏によると、住職がいない「無住寺院」は全国で約1万5000寺以上にのぼる。

宗教法人法では、脱税などを目的とした不法な法人売買にもつながりかねないことから、「1年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いている」法人は、解散命令の対象となる(第81条)。そのため無住寺院の多くで、近隣の寺院の住職が管理を兼務している実態があるという。

兼務すると、檀家(だんか)や信者を引き継ぐことができ、住職の収入も増えるというが、眞田代表は「寺院の管理がおろそかになれば、それぞれの寺院で仏像などの文化財が盗難に遭うリスクも高まる」と指摘する。

こうした無住寺院を減らし、後継者不足を解消しようと眞田代表らは僧侶希望者と寺院をつなげる就職支援を始めた。

「僧侶になりたい」人への“転職”支援

「サンガ」を介して僧侶に“転職”した元会社員のAさんは、「幼いころから法事で見る僧侶に憧れ、僧侶になりたい、という気持ちがあった。一般的な会社に勤めることになった後も僧侶になりたい、という思いが消えず(サンガに)相談した」と語る。

Aさんは現在、得度(とくど)式(出家の儀式・手続き)を経て念願の僧侶になり、埼玉県内の真言宗寺院で法務などに日々努めている。

「サンガ」には、寺院側からも「(人材不足で)わらをもつかむ思いで登録したが、素晴らしい僧侶の方を迎えることができた」など感謝の言葉が寄せられているという。

Aさんのように希望時点では僧侶資格を持っていない人でも応募できる寺院もあり、眞田代表は「希望する宗旨宗派、勤務地、給与、業務内容などを丁寧に伺い寺院を紹介する。双方の間に入って納得、安心してもらえるよう努める」と支援の内容について話す。

さまざまな宗派の寺から人員の募集が出されている(「サンガ」の契約寺院ページより)

ちなみに、京都府内の浄土真宗寺院の募集案内を見てみると、雇用形態は正社員(法務員)、勤務時間は9時~18時、給与は月給35万円ほどだ。平均的な会社員と比べても決して安くはないが、眞田代表は「もうけられると思っている人は不向き」ときっぱり。

自ら研さんし、修行して仏の教えを説き、時に人の生き方にも助言する僧侶の仕事は、「人のために生きたい、人に寄り添いたい、という思いがないと続けていくことは難しい」(眞田代表)

「女子プロレスラー」との兼業“僧侶”も

僧侶として働く人には、前述のAさんのように得度して僧侶になった人のほかに、駒沢大学(東京都世田谷区)や龍谷大学(京都市)などの仏教系大学を卒業した人や、世襲で僧侶になる人も少なくない。

女子プロレスラーとしても活躍する雫有希(しずく・あき)さんは世襲で僧侶になった一人だ。母親が住職を務める浄土宗安国寺(埼玉県越谷市)で副住職に就いている。

迷いや疑問を感じるひまもなく、18歳のときに増上寺などで行われたおよそ1か月の研修を終え、得度し仏門に入った。

僧侶とプロレスラーを両立させる雫さん(撮影:榎園哲哉)

女子プロレスラーとの二足のわらじを履きながら、念仏(南無阿弥陀仏)を10回唱える「十念」などの日々の務め、週末を中心とした法事、寺院行事などに励む。さらに、若者らに少しでも仏教への関心を持ってもらえるようインスタグラム上で「日常勤行式」(※)のライブ配信も行っている。

※浄土宗信徒の日々の務め、十念を中心とした読経の式次第。

同性ということで女性から夫婦関係やセックスレスについての悩みなどを相談されることもあるという雫さん。

「家族やパートナー、お金や仕事など、人の悩みの根源を仏様の教えで解決できるのか、時代に合っていないのではないか」と、死後の「極楽西方浄土」をかなわせる祈りが現世の悩みを解決させ得るのか、自問自答することも少なくないというが、一方で仏教、信仰の持つ力も信じている。

「仏に向かい心が洗われたり、目に見えない力で物事がうまくいったりすることもある。信じることによって救われることもあると信じています」(雫さん)

若者にも魅力伝えたい「AI×仏教」

雫さんも研修を行った浄土宗大本山増上寺(東京都港区)では今年2月26日、若者らに仏教の魅力を伝え、仏教離れに歯止めをかけようと、「AI時代の信仰」と題して討議が交わされた(第47回浄土宗総合研究所シンポジウム)。

「AI時代の信仰」が語られたシンポジウム(撮影:榎園哲哉)

その中で京都大学「人と社会の未来研究院」研究員の亀山隆彦氏は、ブッダが説いた教えをAI(人工知能)に学習させ、パソコンなどの画面を通してブッダと“対話”できるという「ブッダボッド・プロジェクト」を発表。

同プロジェクト開発の背景には、「日本人の仏教離れ」があったとし、経典等とともにAIによってブッダと“再会”し関心を呼び戻せることも念頭に、亀山氏は「ブッダの存在を人工知能で再現することによって、さまざまな人が異なる場所で同時にブッダの教えを享受できるようになれば」と語った。

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