高齢者が骨折の手術後に死亡。責任の所在は?

高齢者が骨折の手術後に死亡。責任の所在は?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

高齢者が骨折をきっかけに命を落としてしまうことはよくあります。

この記事では、高齢者が骨折を理由に亡くなった際の責任の所在や、請求できる損害賠償の内容について解説します。高齢者の家族が骨折で亡くなった人は、ぜひ参考にしてください。

1. 高齢者が骨折しやすい理由・場面

高齢者には日常生活のなかでも、ふとしたことで骨折してしまう危険性があります。

(1)高齢者が骨折しやすい理由

高齢者が骨折しやすいのは、骨粗しょう症などによって骨の強度が低下していることが大きな理由です。さらに、加齢により筋力やバランス機能が低下し、転倒しやすくなっていることも理由として挙げられます。

高齢者が骨折してしまうと、他の年齢層に比べ、完治するまでに長い時間がかかってしまいます。また、完治すればよいほうで、高齢者の場合、骨折が死亡につながってしまうこともよくあります。

(2)どういった場面で骨折が起きやすいか

高齢者の多くは、誤って転倒した場合に骨折してしまいます。1人で歩行している際につまずいて転倒することがあるだけでなく、介護中の不注意で転倒し、骨折してしまうことも少なくありません。さらに、くしゃみをした場合や重いものを持った場合など、体に一時的な負荷を与えるタイミングでも骨折してしまうことも考えられるでしょう。

高齢者の場合、骨折する部位は主に背骨、手首、脚の付け根、腕の付け根などで、周辺の骨がまとめて折れてしまうこともあります。

2. 骨折後に死亡した場合の責任の所在

高齢者が骨折後に死亡してしまった場合には、医師や介護士の責任が問われます。骨折手術後の医療ミスや、骨折事故そのものに死亡原因はなかったのかが検証されます。

以下では、高齢者が骨折後に死亡したことによる実際の裁判事例を紹介します。

(1)骨折手術後、医療ミスが発生したケース

大腿骨頸部骨折手術を行った高齢の患者が、急性循環不全で死亡してしまった判例です。患者は非常に小柄であり、年齢や体重を考慮すれば、患者に投与された鎮痛剤と麻酔薬の量が過剰でした。

さらに、手術終了後、安静とはいえない環境の変化にさらす形で、レントゲン室に搬送されたことにも問題があったと認定され、結果的に、病院には慰謝料300万円と、本事案に関する弁護士費用50万円の賠償が命じられました。

しかし、遺族側の請求額は2552万円であり、支払いを命じられた慰謝料・賠償金額は相当に低いものでした。

これは、患者自身が手術のリスクを理解していたと思われることと、ミスが発生しなくても、患者の健康状態に関する危険性は変わらなかったであろうことが理由とされています。
※【事件番号】 福岡高等裁判所判決/平成17年(ネ)第236号

(2)介護事故による骨折から肺炎を起こしたケース

骨折から発症した肺炎によって高齢の患者が死亡してしまった判例です。患者がデイサービスのバスから降りる際、医療機関側の注意不足によって転倒したことが骨折の原因です。

右大腿骨頸部骨折の手術は成功しましたが、その後患者は寝たきり状態になり、肺炎を発症してしまい、事故から4か月が経過したあと、患者は亡くなりました。医療機関側の過失ならびに骨折と肺炎との因果関係が認められ、690万円の賠償が命じられました。

こちらも賠償金は一般的な死亡慰謝料より低い金額ですが、転倒の原因に患者の不注意もあったと考えられたことから、低い賠償金額の判決となりました。
※【事件番号】東京地方裁判所判決/平成13年(ワ)第21116号

3. 骨折後に死亡した場合の損害賠償請求

高齢者が骨折し手術後に死亡してしまった場合、損害賠償を請求することが可能です。

(1)請求できる慰謝料、損害賠償の種類

高齢者が骨折手術によって死亡した場合、事案の内容によって、以下の慰謝料を受け取れる場合があります。

  • 死亡慰謝料:対象者が骨折によって亡くなったことによる精神的苦痛に対する慰謝料
  • 入通院慰謝料:対象者が骨折によって入院・通院を強いられたことによる精神的苦痛に対する慰謝料
  • 後遺障害慰謝料:対象者が骨折を原因とした後遺障害を発症したことによる精神的苦痛に対する慰謝料

慰謝料の金額は、対象者の家庭内での立場や入通院の期間、障害のレベルなどによって変化しますので、どのくらい請求できるのかについては、弁護士に相談してみることをおすすめします。

(2)骨折と死亡、手術と死亡の因果関係が認められる必要がある

骨折が原因で死亡してしまい、死亡慰謝料を請求したい場合、「骨折あるいは骨折から派生した手術が、死亡と関連している」という直接的な因果関係を証明する必要があります。しかし、因果関係を証明することは、決して簡単ではありません。症状悪化の過程や死亡するまでの期間などは、不明確だからです。

そのため、因果関係が認定された場合でも、一般的な慰謝料よりも金額を低くしたり、対象者の過失を認めたりといった判決が多く出されています。また、裁判中に和解が成立することもあります。

骨折が原因で、高齢者が命を落としてしまうことは少なくありません。死亡慰謝料を請求する場合には、骨折と死亡の因果関係を証明する必要があります。因果関係の証明は非常に難しいため、裁判の争点などを考えなければなりません。

どのように進めていけばよいのかわからない場合でも、弁護士に相談をすることで的確なアドバイスがもらえますので、まずは一度弁護士へのご相談を検討してみてください。

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  • こちらに掲載されている情報は、2023年08月29日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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