義務教育を受けさせない親は法律違反になる?
日本では、就学年齢に達した子どもは義務教育を受けることになります。しかし、中には自分の子どもに義務教育を受けさせない親もいるようです。義務教育期間中に子どもを学校に通わせないことを親が決められるのでしょうか。
本コラムでは、義務教育の基本的意味や、子どもに義務教育を受けさせないことによる罪について解説します。
1. 義務教育を受けさせない親は法律違反?
そもそも義務教育制度とは、就学年齢に達した子どもに対して、学校教育法で認められた普通教育(一般的かつ基礎的な知識を教える教育)を受けさせることを国民に義務づける制度のことです。日本では通常、6歳から15歳、小学校の6年間と中学校の3年間(計9年間)が義務教育期間とされています。
(1)正当な事由なく義務教育を受けさせなければ就学義務違反になる
義務教育に該当する小学校や中学校については、学校教育法17条2項により、子どもを就学させることが保護者の義務とされています。したがって、子どもの病気などやむをえない事情がある場合を除き、正当な事由なく保護者が子どもに義務教育を受けさせないのは法律違反(就学義務違反)です。
家庭の経済的事情で就学が困難という場合は、自治体が必要な支援をするようにと定められています(学校教育法19条)。つまり、日本国籍を持つすべての子どもは、家庭の事情や親の意思とは関係なしに義務教育を受ける権利(教育権)を持っているということです。保護者や社会はその権利を尊重し、本人に特別な事情がない限りは、子どもに義務教育の機会を提供しなければいけません。
(2)教育委員会からの督促がくる可能性も
子どもが就学義務違反の状態にあると判断された場合、教育委員会は保護者に対して就学の督促を行うことがあります。そして、その督促に従わない場合、保護者は学校教育法144条に基づいて、10万円以下の罰金を科される恐れがあります。
不当な理由で子どもに義務教育を受けさせないことは、「教育ネグレクト」という虐待の一種です。もしも教育ネグレクト以外にも子どもに虐待行為をしていた場合、保護者はその行為に関しても罪に問われる恐れがあります。
2. 不登校の子どもの親も罪に問われるのか
社会問題として取り上げられることが増えてきたのが、子どもの不登校問題です。義務教育期間中の子どもが不登校になった場合、その親は就学義務違反として罪に問われるのでしょうか。
(1)子どもにとって義務教育は「義務」ではなく「権利」
ポイントとなるのは、義務教育の「義務」とは、子どもではなく保護者側に課せられたものであることです。義務教育において保護者側に課せられる「義務」とは、マイルドに言えば、「子どもが普通教育を受ける権利を尊重し、その機会提供をすること」を意味します。
つまり、子ども目線で見た場合、義務教育とは、「自分が希望するなら受けられる教育」を意味するのであって、無理やりにでも受けなければいけないものではありません。子ども本人が就学を望んでいるのに、その意思や権利を保護者が不当に阻んだ場合に就学義務違反が成立するということです。
(2)正当な事由があれば不登校は問題ない
上記のことから、正当な事由で子どもが不登校をしているのであれば、保護者が就学義務違反に問われることはありません。ここで言う正当な事由とは、典型的には病気や発育不全などが挙げられますが、「その他のやむをえない事情」も含まれるので、正当な事由に限定はありません(学校教育法18条)。
たとえば、「学校に行くと体調を崩してしまう」「帰国子女で日本語が話せないので、日本語を勉強してから学校に通わせたい」などの事情も、正当な事由になると考えられます。いずれにせよ重要なのは、不登校が子ども本人の意思や事情に寄り添ったものであることです。正当な事由があるならば、保護者が子どもに普通教育を受けさせる義務は猶予または免除されます。
(3)インターナショナルスクールの通学は、義務教育を果たしたことにならない
注意したいのが、インターナショナルスクールの法的な位置づけです。インターナショナルスクールは学校教育法で定められた義務教育機関(小学校、中学校、特別支援学校など)ではないため、通学しても、日本の法律上、義務教育を果たしたことにはなりません。
この事実を見逃すと、「義務教育を修了していないから高校に入学できない」など、子どもの進学に支障が出る恐れがあります。「帰国子女で日本語ができないからインターナショナルスクールに通っていた」などの「やむをえない事由」がある場合はこうした問題をクリアできる可能性はありますが、そうでない場合は注意しましょう。
(参考:「小・中学校等への就学について」(文部科学省))
3. 義務教育を受けさせない親がいたらどうしたらいい?
親戚や近所の親、または離婚した元配偶者などが、正当な事由なくその子どもに義務教育を受けさせていないことを知った場合、どうしたらいいでしょうか。以下では、そうした際の相談先を紹介します。
(1)学校
その保護者に説得しても効果がない場合や、自分自身で説得するのが不安な場合は、まずはその子どもが通う学校に連絡を取りましょう。その家庭の住所が分かれば、自治体のホームページなどから通学区域(学区)を調べ、その子どもが通うべき学校を特定できます。
学校に連絡することにより、自分が知らないだけで、その保護者には子どもを学校に通わせない正当な事由があることが分かるかもしれません。そうでなくても、学校は教育委員会などの教育機関と密接な関係にあるため、適切な対策を講じてもらえることが期待できます。
(2)教育センターや児童相談所
各都道府県には教育相談センターや児童相談所があります。これらの施設は教育や子育てに関する相談に対応し、必要に応じて専門家を紹介するなど具体的な支援を提供しているので、相談するのもひとつの方法です。
児童相談所に連絡したい場合は、「189」に電話をかければつながります。「189」は全国共通の電話番号ですが、発信元から近い児童相談所へ自動的につながります。そこで問題家庭について相談してみましょう。
児童相談所には匿名でも相談できるので、保護者側とトラブルになる危険を避けられます。また、調査の結果、虐待の事実がなかったとしても、通告者側が責任を問われることはありません。通告を受けた児童相談所は事実関係を調査し、必要な処置をとってくれます。
もし、学校や教育センター、教育相談所への相談で十分な対応が得られなかった場合は、弁護士などの法律専門家に相談することも考慮してみてください。法的な観点からのアドバイスを受けることで、その子どもが抱える問題への対処法を見つけやすくなります。
義務教育を受けることは、すべての子どもに保障された権利であり、保護者をはじめとする大人にはその権利を守る義務があります。よその家庭だとしても、保護者から教育ネグレクトを受けている子どもを発見したら、児童相談所に相談するなどして助けになってあげてください。
- こちらに掲載されている情報は、2023年10月27日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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