いじめの加害者を“出席停止”にできないのはなぜ?

いじめの加害者を“出席停止”にできないのはなぜ?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

「いじめ被害者が不登校になるくらいなら、加害者側を出席停止にした方がいいのではないか」

そのような意見を持っている方も多いのではないでしょうか。しかし、加害者を出席停止にするのは難しい現実があります。

本コラムでは、いじめ加害者を出席停止にすることの可否と、いじめ問題に対し学校側がすべきことについて解説します。

1. いじめ加害者の出席停止措置は推進する必要があるとされている

文部科学省は、「学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント」という資料の中で、いじめ加害者に対して特別な措置を講じる必要性について触れています。

具体的には、いじめ加害者に対して他の児童生徒とは別の場所で個別指導した方がいい場合もあること、そしていじめの程度が特に深刻なケースでは、いじめ被害者を守るために出席停止措置を講じることも必要であるという内容です。また、いじめ行為が暴行や恐喝などの犯罪行為に該当する場合には、警察と連携することも推奨しています。

上記のことから、少なくとも文部科学省の見解としては、いじめ加害者に対して出席停止や警察への通報も含む断固とした対応をすることを、必要な措置として認めているのは確かです。

このような文部科学省の指示の背景には、近年いじめ問題が深刻化する中で、被害児童の保護を最優先に考えるべきだという認識が強くなっていることがあります。加害者だけでなく児童生徒全体に対して、いじめが決して許されない非人道的な行為であることを教えるためにも、いじめ問題への毅然(きぜん)とした対応は重要です。

出典:文部科学省「学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント

2. いじめ加害者の出席停止措置はとりにくいのが現状

上記のように文部科学省は、いじめ加害者に対して出席停止を含む厳しい措置を講じる必要性を認めています。とはいえ、実際の学校現場ではそうした厳しい対応はとりにくいのが現状です。

(1)出席停止とは

そもそも学校教育法における「出席停止」とは、懲戒処分とは異なり、学校の秩序を保ち、他の児童生徒の教育環境を守るためにとられる措置です。言い換えると、いじめ行為をした罰則として、問答無用で加害者に出席停止処分を科すことは学校側にも許されていません。これは、たとえいじめ加害者といえども、教育を受ける権利は保障されるべきだと考えられるからです。

このことから、出席停止にも要件が定められています。具体的には、以下の2点です。

  • 「性行不良」であること
  • 「他の児童生徒にとって教育の妨げがある」と認められること
出典:文部科学省「出席停止制度の適切な運用について

(2)出席停止処分の段取り

したがって、いじめ加害者に対して出席停止処分をするには、以下の段取りを踏んで慎重に行う必要があります。

  1. 加害者のいじめ行為が立証される
  2. いじめ行為が「他の児童生徒にとって教育の妨げになる」と認められる
  3. 学校が最大限に指導の努力をしても、いじめ加害者に改善が認められない
  4. 加害者側の保護者の意見を事前に聞く
  5. 出席停止の理由や期間を記した文書を交付し、教育委員会に届け出をする

まず、出席停止という重大な処分を下すからには、その児童生徒が間違いなくいじめ行為をしていたという証拠が必要です。しかし、いじめ行為は基本的に隠れて行われるため、その証拠をそろえるのは簡単ではありません。

加えて、「他の児童生徒にとって教育の妨げになる」と判断されるには、いじめの状況が相当に深刻であることが求められます。「指導をしても改善が見られない」という判断をするにも、相応の労力と経過期間が必要です。加害者側の親と話し合ったり、どれくらい出席停止期間を設ければいいのか判断したりするのも簡単ではありません。

また、出席停止しただけで放っておくのでは、加害者の更生や学校への復帰がままならないので、それに対するフォローも必要です。

このような事情から、学校側としてはいじめ加害者に対して出席停止措置をとるのは難しい現状があり、結果として「被害者が不登校になって加害者は普通に学校へ通う」という理不尽な状況が生じやすくなっています。

3. いじめ問題についてどう対応すべき?

出席停止措置が難しいからといって、いじめ加害者に対して学校側が何もできないわけではありません。いじめの発生が疑われるとき、学校側としては、いじめの事実関係を早期に把握し、被害者の保護に努めることが重要です。出席停止はあくまで、被害者やその他の児童生徒の教育機会を守るために実施される一手段にすぎません。

そこで、出席停止にこだわらず、加害児童を別室登校にして個別指導するなど、柔軟な対応を検討する必要があります。もちろん、被害者・加害者双方の保護者やスクールカウンセラー、必要とあれば教育委員会や警察など、地域とも連携しながら、被害児童に対する心のケアや加害児童の継続的な指導・フォローアップに努めることも大切です。

また、被害児童の保護者には、積極的に学校との対話を求め、子どもが安心して学べる環境を要求する権利が当然あります。いじめ被害の証拠をそろえたり、子どもがどれだけいじめを苦痛に感じているのか正確に伝えたりすることで、出席停止も含めた具体的な対策を学校は講じやすくなります。

こうした努力をしても学校側の対応に不満がある場合は、教育委員会に相談したり、いじめ問題に強い弁護士に相談したりすることもひとつの手段です。

場合によっては、いじめ加害者に対しては損害賠償請求など法的な手段に訴えることもできます。そのような法的手段を含めた多角的な対応を検討する場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。

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