いじめ防止対策推進法は学校を救えている? ~評価が伴うルールを活用する難しさ~
  • 2022年08月10日
  • 学校・教育

いじめ防止対策推進法は学校を救えている? ~評価が伴うルールを活用する難しさ~

私はドラマを多く見てきているのですが、特に衝撃を受けた作品のひとつが、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』という脚本家・野島伸司氏の作品です。「いじめ」がテーマでした。「いじめ」の問題と無縁の人は少ないです。国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターによれば、「仲間はずれ、無視、陰口」した経験、された経験についてどちらも9割の人が「ある」と答えたそうです(『いじめ追跡調査2013-2015』)。そして、自身の学校時代が終わったとしても、将来子どもができることで、再びいじめの問題に触れる機会が生じます。

そんないじめ問題に対して、法律の専門家はどう関与できるのか。この点について、現在のいじめ問題における基本法となる、「いじめ防止対策推進法」の内容を確認してみようと思います。

1. これっていじめ? ~法律上定義されたいじめは広い~

第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

これが、いじめ防止対策推進法で定義された「いじめ」です。法律臭い言葉で言っていますが、要するに、他の生徒が何らかの形で苦痛を与えることを「いじめ」と定義しているのです。

このように広く「いじめ」を定義したのは、問題を見逃さないためだと思います。ただ、何らかの形で苦痛を与えるのがいじめなら、究極的には、誰かが主観的に「嫌」だと感じていれば「いじめ」に該当してしまいそうです。

たとえば、誰かの問題ある行為を真面目な生徒が注意し、少し非難したことで、別の生徒が苦痛を覚えた時も、定義に従えば「いじめ」になってしまいそうと言うと、違和感が理解しやすいと思います。

つまり、法律上「いじめ」にあたったからといって、その「いじめ」の幅が広すぎることから、それだけではどうすべきかについて何も答えが出てこないことになります。

2. いじめがあったらどうする? ~対応方法の幅も広い~

いじめ防止対策推進法は22条で、いじめ防止のための組織を置くように言っており、いじめ防止対策委員会といったものが、教職員やカウンセラーによって構成され、各学校に設置されています。

また、同法は23条から26条で、さまざまないじめに対する手段を設けています。ちょっとした助言から、別教室での授業、学校教育法11条に基づいた体罰には至らない処罰、そして出席停止命令まで。でも、これらを自由にやって良いわけではありません。

「いじめ」には幅がある以上、その「いじめ」の程度に合わせて行わなければ、学校が不当にいじめっ子とされた子どもの権利を制限したとして、「違法」になる危険もあります。実際、出席停止命令を、「いじめ」を理由に出している例は皆無であったところ、2020年にようやく1件事例が出てきたぐらいです。もっとも、重い処分をする以上、それ相応の手続き保障と段階的な対応が必要なのは当然であり、学校教育法35条を受けた教育委員会規則でも、いじめたとされる児童やその保護者にも話を聞くようになっています。

ここで、供述が被害者・加害者で食い違った時には、裁判官と異なる事実認定をしていくのは容易じゃありません。そのため、教育に携わる法律については素人の先生たちが、この制度を活用していくのが難しい現実はあります。

3. 重大事態とは? ~そしてやはり幅のある手段~

いじめ防止対策推進法28条は、重大事態に関する規定です。

第二十八条 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。

一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。

二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。

2 学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。

『生命、心身又は財産に重大な被害』とは、具体的には自殺しようとしたり、大けがをしたり、大金を失ったり、精神疾患を発症したりを指します。「相当の期間学校を欠席」というのは、1か月ぐらいを指すと理解されているようです。ただし、それぞれ疑いがあると認める時なので、そこに至りそうな時点でも、重大事態として動くことはできます。

一方で、重大事態の調査結果は、被害児童と保護者に、「必要な情報を適切に提供する」ことになっており、これも「何でもかんでも教えて良い」という意味ではありません。あくまで認定された重大事態に合わせて、適切な程度を選ばないと、プライバシー権を侵害し、個人情報保護法に反することにもなります。

4. すべての場面で法的評価が必要ないじめ防止対策推進法

そろそろ、いじめ防止対策推進法の言っていることが見えて来たのではないでしょうか。

要するに乱暴な言い方をすれば、「学校の生徒間のトラブルについて、時には組織を使いつつ、適切な程度で対処してください」というのが、法の言っていることです。法律家からすると、この『適切な程度』というのを、さまざまな法の場面で検討することになるため、決して違和感のあるルールではないです。

問題の程度に合わせた選択肢は提示されており、ただの自由裁量よりは道筋ができています。しかし、現場の教員、決して法律のプロでもない人が扱うには、やはり評価の幅と手段の幅が広く、どう対応するかについて難しいものでもあると思います。そういう意味では、常に法律世界の人間が近くにいやすくなる「スクールロイヤー」の拡大は、いじめ対策という観点からも望ましいのかもしれません。

ともあれ今回は、まず大前提となる、「いじめ」について、法律が開いた道筋とその限界を理解していただく一稿となれば幸いです。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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  • こちらに掲載されている情報は、2022年08月09日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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