『イチケイのカラス』入間みちおを見守る会のためのウソのようでホントな話1

『イチケイのカラス』入間みちおを見守る会のためのウソのようでホントな話1

刑事裁判をテーマにしたドラマが月9でヒットし、映画まで作られる。ドラマの内容は、現実の裁判と現時点で離れてはいるわけですが、現実にも少し反映されてほしい理想も込められており、刑事司法に関わるものとしてはうれしい気持ちを抱いて見守っていました。

映画公開にあわせて2023年1月14日にはスペシャルドラマも描かれたので、今回も弁護士目線で少しマニアックに掘り下げつつ、最後には竹野内豊氏を応援するドラマフリークとして、過去の名作ドラマとのつながりにも言及してみようと思います。

第一稿では、傍聴ルールについて掘り下げます。

1. ハチマキが禁止されている傍聴席

ドラマでも熊本ヤンキーの皆さまが傍聴席を埋めており、にぎやかにしていました。「そんな裁判で傍聴席から発言してるなんてドラマのフィクションでしょ」と思われた方。実はこれ、かつては珍しくない光景であり、対応するルールも作られています。傍聴のルールについて、細かく確認したことがある人は法曹でも多くないかもしれません。

裁判所傍聴規則(昭和二十七年九月一日最高裁判所規則第二十一号)というのが根拠条文です。

第一条 裁判長又は一人の裁判官(以下「裁判長」という。)は、法廷における秩序を維持するため必要があると認めるときは、傍聴につき次に掲げる処置をとることができる。
一 傍聴席に相応する数の傍聴券を発行し、その所持者に限り傍聴を許すこと。
二 裁判所職員に傍聴人の被服又は所持品を検査させ、危険物その他法廷において所持するのを相当でないと思料する物の持込みを禁じさせること。
三 前号の処置に従わない者、児童、相当な衣服を着用しない者及び法廷において裁判所又は裁判官の職務の執行を妨げ又は不当の行状をすることを疑うに足りる顕著な事情が認められる者の入廷を禁ずること。
第二条 傍聴人は、入廷又は退廷に際し、裁判長の命令及び裁判長の命を受けた裁判所職員の指示に従わなければならない。
第三条 傍聴人は、法廷において、次に掲げる事項を守らなければならない。
一 静粛を旨とし、けん騒にわたる行為をしないこと。
二 不体裁な行状をしないこと。
三 みだりに自席を離れないこと。
四 裁判長の命ずること及び裁判長の命を受けた裁判所職員の指示することに従うこと。

「その他法廷において所持するのを相当でないと思料する物」の持ち込みを禁じさせ、「相当な衣服を着用しない者」の入廷を禁ずることができるみたいです。ここらの内容は、もう少し具体的なルールが設けられており、「危険物、旗、のぼり、横断幕、プラカード、拡声機などの持込み」や「はちまき、たすき、ゼッケン、腕章、ヘルメットその他これに類する物の着用」が明示的に裁判所によって禁止されています。「はちまきをつけて、何がいけないのか気になりません?」って入間さんならニヤニヤしながら質問しそうですね。

答えは歴史にあります。昭和の時代、安保闘争や安田講堂事件とかについては、聞いたことがあると思います。そういう学生運動や組合活動が盛んであった頃、逮捕され起訴された事件では、ここに書いてあるような格好で仲間が傍聴席を埋めており、抗議の声などもあげていました。そのため、そういう人たちを排除するために、明示的にハチマキの着用が禁止された裁判所ルールが作られました。

今では全くそういう光景を見なくなりましたが、こんな理由で、ハチマキは法廷を騒がす活動家の象徴であるかのようにあつかわれ、現在でも法廷から排除されているのです。

2. お馴染みのスケッチも禁止されていた ~レペタ訴訟~

他にも、「静粛を旨とし、けん騒にわたる行為をしないこと」という記載があります。こちらはもう少し有名で、法学部出身者なら学んでいるのですが、この静粛さを害するという理由で(ペンの音でしょうか?)、メモをとる行為が禁止されていました。傍聴席で、入間みちおを見守る会の人たちがスケッチをしているシーンもイチケイのカラスの一つの定番ですが、昔は裁判所のルール違反だったのです。

このメモに関するルールが変わるきっかけになったのは、ローレンス・レペタさんという一人の外国人がきっかけでした。

一人の外国人と言っても、素人というわけではなく、法律家です。弁護士になる前、ベトナム戦争の関係で海兵隊員として日本に滞在し日本が好きになったレペタさんは、ワシントン大学のロースクールを卒業して弁護士として仕事を開始する際、日本を働き場所に選びました。われわれ日本の弁護士が、アメリカやアジアのオフィスでキャリアを始めるのと同じことをしたということです。そして、実務家から日本の法律や法文化の研究者になり、日本の裁判も傍聴していたところ、メモを禁止されるという出来事が起きたのです。

レペタさんは、裁判の内容を公開しているのだから、その情報を正確に外で話すのにメモをとる作業も必須なはずなのにおかしいと思い、日本の弁護士と相談して国を訴える裁判を起こしました。

裁判を始めたのは1985年、1審・2審と国家賠償請求としては敗訴したものの、1989年、最高裁が表現の自由や裁判の公開原則との関係でこの問題提起を重く受け止め、裁判所全体でメモをとる行為を解禁するルール変更を行いました。

こうして、ニュースでもおなじみの裁判所でのスケッチが行われるようにもなり、ひいてはイチケイのカラスのお馴染みのシーンにもつながっているのです。

3. 法に従った型破りは、絵空事ではない

「ハチマキもメモ書きも、裁判所さまがルールだとおっしゃるなら従うしかない」と考えれば、そこでおしまいです。実際、レペタさんもその場では、退廷させられぬようメモをやめています。でも、こうして4年間もかけて戦うことにより、裁判所のルール自体を変えることができました。

私がイチケイのカラスの入間みちお裁判官を、ただフィクションとして切り捨てたくないのは、法律上可能なことをやり続ける人がいれば、現実の方も変われるかもしれず、絵空事ではないという思いがあるからです。

今回のスペシャルドラマでは、他にも登場人物のモデルとなっている裁判官のホントと絡んだ、小日向文世演じる駒沢部長の名場面がありました。次回は、そこをメインに掘り下げます。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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