金融庁も動いた「仕組債問題」と「説明義務違反」  ~“投資家”弁護士からの一言~

金融庁も動いた「仕組債問題」と「説明義務違反」 ~“投資家”弁護士からの一言~

8月24日、日経新聞が「高リスク「仕組み債」重点検査へ 金融庁・監視委 苦情報告相次ぐ 9000万円の投資「評価ゼロ」も」という見出しの記事を出しました。

昨今、「仕組債(しくみさい)」を巡ったトラブルが増えており、『証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)』でも多くの相談が生じているため、全体的に金融庁が監督調査に乗り出したとのことです。

私も実は金融商品を用いた投資は行っています。ただ、仕組債を買ったことはありません。投資家として投資をする気が起きません。

今回は、さらに社会的な問題にもなって行く可能性がある仕組債について、投資家目線と弁護士目線の双方からコメントしてみようと思います。

1. 私なりの投資リテラシー ~投資家の目線~

まず投資一般への考え方を述べておこうと思います。投資は、さまざまな手段があり、最終的には自己判断して行かなければいけない孤独な世界でもあります。そのため、自分なりのルールと哲学が必要です。

私は、「自分が仕組みをわかるものにしか触れない」ようにしています。自分がもうかる事象、損する事象としてどういうものがありえて、どういう場合にそれが生じるかを考えられる投資なら、その行動指針は明確です。「もうかる事象」が発生したら、もうかったのでおしまい。「損する事象」が発生したらそれは失敗だったとしておしまいと決められます。

そして、自分の想定にないことが生じたらヤバい時です。そもそも投資判断の前提が変わってきてしまうため、基本的にはいったん関わらない方が良いです。

また、私は「“プロ”が商品を紹介する」ということを、特に信用する理由にもしません。プロであるということは、金融商品を売る側も当然利益を目的にしたビジネスでやっているところ、購入者の利益と売り手の利益が比例しているとは限らず、購入者はもうからなくても、売り手は手数料でもうかる場合もあるからです。

私はこのように考えてやっていますし、それくらいでないと“結果”を引き受けられない、“損が生じた時”に耐えられないとも思っています。

2. 仕組債とはなんぞや? ~投資家 杉山大介の目線~

それでは、今回問題となっている「仕組債」とはどんなものでしょうか? 実は私もよくわかりません。定義としては、仕組債とは「デリバティブ」が組み込まれた債券の総称であり、株価や為替相場の動きに連動して償還の時期、償還方法、償還額等が確定される点に特徴があると言われます。

要するに、いろいろな条件で返還されるお金の金額が変わってくるよう、さまざまな仕組みが総合的に組み込まれた商品ということになります。その組み込まれた条件は、商品ごとにそれぞれで、仕組債だとこうなると決まっているわけではありません。

耳ざわりの良い言葉で言えば、「プロがもうかるように組み合わせを選んで作ってくれた商品」ということになるのですが、自分からすれば上記のようにどういう時に、もうかるか、もうからないか、がわからないと、手を出す気が起きません。

商品ごとに、どういう要素が組み込まれているかを理解する必要があるので、自己判断をしていけるようにしようとすると、下手な個別の事業や企業・不動産に対して投資するよりも頭を使います。

仕組債は、全然お手軽な商品ではないのです。

3. 適合性原則、人を見て物を売れ ~弁護士 杉山大介の目線~

とはいえ、金融商品の購入者の大半は、私のような考えはしていません。そのため、法律はいくつかちゃんとわかって投資できるようなルールを設けています。その基本ルールとなっているのが金融商品取引法40条1号の「適合性原則」です。

第40条 金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。
一 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがあること。

相手の知識や経験が不足していたら、そこを踏まえて説明し、商品を選ばなければいけないとしています。そして、このルールは、守っていないと金融庁から金融商品取引法(金商法)52条にある行政処分を受けるのが本来です。

ただ、最高裁(最判平成17年7月14日民集59巻6号1323頁)は、適合性原則から著しく逸脱した勧誘行為があった場合は、購入者からの損害賠償も認められるともしており、このルールに従って失ったお金を取り戻せる道が開かれています。

また、一般抽象的なリスク説明では足りず、商品の特性と顧客の特性を踏まえて具体的な説明が必要といった一般論も提示されています。

このルールが、別の法律で強化されています。

4. 説明義務違反、法律がより具体化した義務内容と強化した救済効果

そもそも、説明義務違反による損害賠償請求は、あらゆる契約において、信義則を根拠に生じる可能性があります。その上で、金融商品を販売する場合は、より明示的に満たさなければいけない義務が規定されています。

金融サービスの提供に関する法律(旧:金融商品販売法)は、4条において元本がなくなる場合や、取引の仕組みの重要部分、権利行使できる期間や解約できる期間について、明示的な説明義務を課しています。

また、4条2項で、上記適合性原則も組み込まれています。同法5条において、不確実な事項を断定したり、確実であると勘違いさせることも禁止しています。

そして、これらの金融サービスの提供に関する法律違反をすると、6条で重要事項に説明がなかったら直ちに責任が認められたり、7条で元本欠損額を損害額として推定できたりします。

5. 「投資家」弁護士 杉山大介からの一言

このように、「法律上はわかってない人にはわからせよ」というのが基本ルールになります。

ただし、何が重要でどこまで説明が必要かという部分については、各商品類型ごとの裁判例の蓄積を見る必要があり、仕組みの隅々まで説明義務があるとはされていないです。そもそも、投資はもうけるためにやるものであって、失敗してから法律で喧々諤々とやるべきものではありません。こんな話題が出てくること自体、邪道なのです。

だいたい、問題になる金融商品の営業マンは、会社員として言われるがままに商品を売っているだけであり、自分でもその商品の「価値」や「リスク」についてちゃんと理解していないのではないかと、営業を受けた時に感じることもあります。

投資の正道から私が皆さまに伝える言葉は、以下のようになります。

自分がわからない投資に関わるな
他人に勧めるならまず自分がわかれ

こんな当たり前を意識するだけでも、トラブルは減ると思います。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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