信教の自由は誰のもの? ~個人の自由を守るために法律・司法が介入すべき場面:序章~

信教の自由は誰のもの? ~個人の自由を守るために法律・司法が介入すべき場面:序章~

2022年7月8日に起きた安倍晋三元総理銃撃事件において、山上被疑者が特定の宗教団体によって家庭が不幸になったこと、その報復として、関係する政治家である安倍晋三氏を狙ったことを動機として語っていることが話題になっています。

ここで言う特定の宗教団体が、旧世界基督教統一神霊協会(統一教会)、現在の世界平和統一家庭連合であることは、今や報道としても所与の前提になっています。また、安倍晋三氏が、2021年9月12日、世界平和統一家庭連合の団体である天主平和連合(UPF)にて基調演説としてのビデオメッセージを提供しており、この映像が山上被疑者に影響を与えたことも、NHKなどにおいても報道されています。

実は、私はこのビデオメッセ―ジについては、今回の銃撃事件が起きる前から知っていました。というのも、全国霊感商法対策弁護士連絡会が、政治的権威によるお墨付きを与えないよう公開抗議文を出していたといったところまで、私の耳には入っていたからです。

全国霊感商法対策弁護士連絡会は、統一教会に関係した法律相談や訴訟を行ってきた組織であり、2021年にも数千万円単位の損害賠償を認める勝訴判決が東京地裁で出ています。

このように、一部の宗教団体については、法が介入することもあります。特にお金が絡む問題では、裁判所による判決によって強制的に回収する必要も出てきます。でも、法は一般社会のルールであり、宗教的な規律とは一致しないところもあるため、時にルールの押し付けになってしまう危険もあります。

このような観点から、政治と宗教の距離感が問題となっている今、司法と宗教の距離感について考察してみたいと思います。

1. 個人の信教の自由と宗教団体の関係 ~オウム真理教解散命令事件~

【日本国憲法第二十条】
①信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

【日本国憲法第八十九条】
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

憲法は、個人の信教の自由を保障しています。

個人というのが非常に重要なポイントで、宗教団体の自律を認めたりするのも、ある程度組織的な活動などが必要な所作などもあり、それが個々の信教を守るために必要だからです。逆に、宗教団体が特権を得たりするなど、力を持ちすぎることも警戒されています。

20条2項にもあるように、特定の宗教上の行為に参加しない、信じない自由もまた、信教の自由であり、何かの宗教が強制されることはあってはならないからです。

また、信教の自由に限らず、憲法上の権利の基本ですが、あくまで各個人が、それぞれ自由であるためには、他人の自由との衝突において一定の調整が必要だとも考えられています。誰かの自由だけが一方的に認められるわけではありません。

たとえば、地下鉄サリン事件などを起こしたことを受けてオウム真理教の宗教法人を解散させる命令が出た時、最高裁判所は合憲と判断しました。この時も、別の団体での活動や個人での信教自体は否定されていないことなど、団体の解散によって個人の信教がそのまま害されるわけではないことや、団体の教義ではなく世俗で行ったことを問題にしているにすぎないことが指摘されていました。

このように判例でも、第一に個人の自由のために宗教団体もあることが前提とされていて、他人の生命や身体といった重要な価値との関係では優先事項があるとされていることがうかがえます。

2. 裁判所は教義にまでは立ち入れない ~創価学会板まんだら事件~

板曼荼羅(いたまんだら)というのは、日蓮が弘安(こうあん)2年10月12日に建立した、創価学会の本尊とされるものです。この板まんだらの本物が見つかったので、安置する建物を建てるためにお金が集められました。しかし、後々に、これは本物の板まんだらではなかったことが発覚します。寄付した人たちは怒って、寄付したお金を返せと裁判を起こしました。

この時、裁判所は、これは裁判所が判断できる問題ではないと結論付けました。「だまされた」とする前提を判断するには、本物の板まんだらとはどんなものであるかという判断を裁判所がしなくてはならず、それは教義に立ち入るものであってやれないと考えたのです。

金銭を返してほしいという世俗的な問題であれば、解決すべきところもあるものの、法律側が信教の中の正誤まで判断しては、結局その団体に属する個々人の信教の自由までも害する危険があり、やってはならない。これが、裁判所の温度感と言えそうな事件です。

3. 序章を踏まえて次回に続く ~脱退の自由には金銭が必要である~

本稿では、まず信教の自由と宗教団体の関係や、介入のさじ加減に悩む裁判所の姿勢について、かなり基本的な部分を紹介しました。

オウムについては、特に裁判所側が積極的に判断する必要があったわけではないですし、板曼荼羅も、あくまで宗教団体内部の争いであり、当事者側に切迫感があるわけではありませんでした。

次回は、個人の信教の自由として重要な、信者をやめる自由、そしてやめるためには今後生活していく資源が必要であり、そのためには司法の介入が必要であるという、より切迫した場面での裁判所の判断や葛藤を解説していきたいと思います。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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