遺言とは|必要なケースや無効にならい書き方
- 遺産相続
遺言は、相続人同士の争いを防止する争族対策としてよく利用される手段のひとつです。誰でも簡単に利用できる反面、法定の要件を満たしていなければ無効になるリスクもあるため、遺言が必要なケースや無効にならない書き方などをしっかりと理解しておくことが大切です。
本コラムでは、遺言の概要・必要性、法的効力、限界などをわかりやすく解説します。
1. 遺言とは?
遺言とはどのようなものなのでしょうか。以下では、遺言に関する基本事項を説明します。
(1)遺言にはどのような意味がある?
①遺言はなぜ残すべきか
遺言というと、富裕層の方が利用する相続対策の手段だと考える方もいますが、実際には一般家庭の方が遺言を作成した方がよいケースが多いです。
遺言書がなければ、自分が亡くなった後の遺産は、相続人による遺産分割協議により分割されます。相続人同士の仲が良かったとしても、遺産の分けかたをめぐって対立が生じ不仲になることもあります。また、相続人のなかに行方不明者や認知症の方がいると、そのままでは相続手続きを進めることができません。
しかし、遺言があれば相続人による遺産分割協議は不要になり、遺言にしたがった遺産相続を実現できるため、相続争いを回避する手段として非常に有効なものとなります。
②遺言が必要なケースとは
特に遺言が必要になるケースとしては、以下のケースが挙げられます。
- 相続人同士で遺産相続をめぐるトラブルが予想されるケース
- 相続人の中に高齢で認知症の人がいるケース
- 相続人の中に行方不明で連絡が取れない人がいるケース
- 相続財産の大部分が不動産であるケース
- 法定相続分とは異なる割合での遺産相続を希望するケース
- 相続人以外の第三者に遺産を承継させたいケース
これらのケースに該当する場合には、遺言書が必要になりますので、遺言書の作成を検討することをおすすめします。
(2)遺言の種類
遺言書にはいくつかの種類があるため、状況に応じて適切な種類の遺言を選択する必要があります。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文、氏名、日付を自分自身で手書きで作成する方式の遺言です。
自筆証書遺言は、自宅において自分だけで気軽に作成でき、費用もかからないというメリットがありますが、形式の不備により無効になるや亡くなった後に誰にも発見してもらえないなどのデメリットがあります。
②公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場の公証人に依頼して作成する方式の遺言です。
公正証書遺言は、公証役場で保管してくれますので、遺言書が発見されないというリスクは低く、専門家である公証人が作成するため無効になるリスクもほとんどありません。しかし、作成にあたっては費用がかかり、2人の証人を用意しなければならないなど負担が大きいと感じるかもしれません。
③秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、公証人と証人が関与して作成する遺言書ですが、遺言内容を秘密にしておくことができる方式の遺言です。
秘密証書遺言は、方式や内容について公証人のチェックを受けないことから無効になるリスクがあり、遺言書の保管も遺言者自身で行わなければならないなどのデメリットが大きいため、実務ではほとんど利用されていません。
④特別方式遺言(危急時遺言、隔絶地遺言)
上記のような普通方式の遺言以外にも「危急時遺言」および「隔絶地遺言」という特別な方式の遺言も存在します。
危急時遺言とは、遺言者に死亡の危急が迫り遺言書の作成が困難な場合に、口頭で遺言を残し、証人が遺言者に代わって書面化する方式の遺言です。
隔絶地遺言とは、遺言者が一般社会との交通が断絶され、普通方式による遺言ができない場合に認められる方式の遺言です。
2. 法的効力がおよぶ遺言にするには
相続争いを防止するためには、遺留分に配慮した内容で遺言書を作成する必要があります。
(1)遺留分とは
遺留分とは、一定範囲の相続人に認められた最低限の遺産の取り分をいいます。
遺留分が認められている相続人は、兄弟姉妹以外の相続人になります。
(2)「遺留分」を侵害する遺言は争いのもとになる
遺留分を侵害する内容の遺言書であっても法的には有効になるため、たとえば「すべての遺産を長男に相続させる」旨の遺言を作成することも可能です。
しかし、このような遺言だと長男以外の相続人の遺留分を侵害してしまうので、長男以外の相続人から長男に対して遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。これでは、相続争いを防止するために遺言書を作成したにもかかわらず、相続争いを招くきっかけを与えてしまい本末転倒といえます。
そのため、遺言書を作成する際には、相続人に保障されている遺留分にも配慮した内容にすることが大切です。
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3. 遺言書でできないこと
遺言書に記載すればどのような内容でも法的効力が生じるわけではありません。遺言に記載することで法的効力が生じる事項を「遺言事項」といい、遺言事項に該当するものは法律上限定されているため注意が必要です。
以下では、遺言書で法的効力が認められる事項と認められない事項について説明します。
(1)法的効力が認められる場合
法的効力が認められる遺言事項としては、以下のようなものが挙げられます。
①相続に関する遺言事項
相続に関する遺言事項には、以下のようなものがあります。
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定
- 遺産分割の禁止
- 遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示
- 遺留分侵害額請求方法の定め
- 負担付遺贈の受遺者が放棄した場合についての指示
- 負担付遺贈の目的の価額減少の場合についての指示
- 推定相続人の廃除および廃除の取消し
- 特別受益の持ち戻しの免除
②相続以外の財産の処分に関する遺言事項
相続以外の財産の処分に関する遺言事項には、以下のものがあります。
- 遺贈
- 一般社団法人設立のための寄付行為
- 信託の設定
③身分に関する遺言事項
身分に関する遺言事項には、以下のものがあります。
- 遺言認知
- 未成年後見人の指定
- 未成年後見監督人の指定
- 財産管理のみの未成年後見人の指定
④遺言執行に関する遺言事項
遺言執行に関する遺言事項には、遺言実行者の指定および指定の委託があります。
⑤その他の遺言事項
その他の遺言事項には、以下のものがあります。
- 祭祀承継者の指定
- 生命保険の死亡保険金の受取人の指定、変更
(2)法的効力が認められない場合
遺言に記載したとしても法的効力が認められない事項には、以下のものがあります。
①養子縁組・婚姻・離婚に関する事項
遺言で養子縁組、婚姻、離婚に関する意思表示をしたとしても、意思表示どおりの効果は発生しません。
②債務の分割に関する事項
被相続人の債務は、相続人が法定相続分に応じて承継します。プラスの財産については、遺産分割方法の指定ができますが、マイナスの財産である債務は、債権者を保護する観点から遺言で指定しても効力は生じません。
③遺体の処理に関する事項
遺言で臓器提供や埋葬方法の希望を記載する人も少なくありませんが、そのような記載をしても法的効力は生じません。
- こちらに掲載されている情報は、2024年08月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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