遺留分侵害請求とは|流れや時効・計算方法についてわかりやすく解説
- 遺産相続
不公平な遺言により遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求により侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。ただし、遺留分侵害額請求には、1年という非常に短い期間が定められていますので、手続きの流れをしっかりと理解した上で、期限内に権利行使をするようにしましょう。
本コラムでは、遺留分侵害額請求の流れと時効についてわかりやすく解説します。
1. 遺留分侵害額請求とはどのような制度か
遺留分侵害額請求とはどのような制度なのでしょうか。以下で詳しくみていきましょう。
(1)【前提】遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹を除く相続人に対して保障されている最低限度の遺産の取得割合をいいます。
遺言書により不公平な相続分の指定が行われたとしても、相続人には遺留分が保障されているので、最低限の取り分は確保できます。
(2)遺留分侵害額請求とは|侵害された遺留分を取り戻すこと
遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された相続人が遺留分を侵害している受遺者または受贈者に対して、侵害された遺留分に相当する金銭を請求することをいいます。
たとえば、被相続人が「長男にすべての遺産を相続させる」旨の遺言を残していた場合、他の相続人はそのままでは一切遺産を相続できません。
そこで、遺留分を侵害された相続人は、長男に対して、遺留分侵害額請求権を行使することで、遺留分に相当する金銭の支払いを受けることが可能になります。
遺留分侵害額請求は、以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていましたが、令和元年7月1日の民法改正により遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求に名称が変更されました。
遺留分が侵害された場合、遺留分減殺請求だと現物返還が基本でしたが、遺留分侵害額請求では金銭の支払いを請求できるようになったのも大きな変更点です。これにより、遺産の共有により権利関係が複雑になる事態を回避できるようになりました。
(3)遺留分侵害額請求の対象となる財産
遺留分の基礎となる財産には、以下のようなものが含まれます。
- 被相続人が相続開始時に有していた財産(現金、預貯金、不動産、有価証券、自動車など)
- 相続人に対する相続開始前10年以内になされた生前贈与
- 相続人以外の人に対する相続開始前1年以内になされた生前贈与
遺留分侵害額請求の算定の対象になる財産には、被相続人の相続財産だけでなく、生前贈与も含まれるのがポイントです。相続人に対する生前贈与とそれ以外に対する生前贈与で、対象となる生前贈与の期間が異なるので注意が必要です。
なお、遺留分権利者に損害を与えることを知りながら行われた生前贈与は、期間の制限なくすべて対象財産に含まれます。
(4)遺留分侵害額の算定方法
遺留分侵害額は、以下のような計算式により算定されます。
上記の計算により出た数字が0(ゼロ)より多ければその数値が遺留分侵害額となり、0を下回るマイナスであれば遺留分侵害がないことになります。
また、上記の遺留分侵害額の計算式内にある「遺留分額」は以下の計算式で算出できます。
2. 遺留分侵害額請求の時効と除斥期間
遺留分侵害額請求には、時効と除斥期間という期間制限が設けられているので注意が必要です。
(1)遺留分侵害額請求の時効
遺留分侵害額請求には、具体的な状況に応じて1年の時効と5年の時効が適用されます。
①1年の消滅時効
遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する遺贈・贈与があったことを知ったときから1年以内に行使しなければなりません。相続の開始と遺留分の侵害の両方を知ったときが時効の起算点となるので、被相続人が死亡したことを知ったとしても、遺言の内容を把握していない段階では、時効期間はスタートしません。
1年という消滅時効の期間は、非常に短いため、遺留分の侵害を知ったときは、早めに行動することが大切です。
②5年の消滅時効
遺留分侵害額請求権を行使すると、遺留分権利者は、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻す権利を取得します。これは、遺留分侵害額請求権とは別の金銭債権になりますので、一般的な債権の消滅時効にも注意しなければなりません。
一般的な債権の消滅時効期間は、権利を行使できることを知ったときから5年とされています。遺留分侵害額請求権の行使により、権利を行使することを知るため、その時点から5年で時効となります。
1年の期限内に遺留分侵害額請求権を行使したとしても、そのまま放置していると5年の時効にかかってしまうので注意しましょう。
(2)遺留分侵害額請求の除斥期間
遺留分侵害額請求権は、相続開始のときから10年という除斥期間もあります。
除斥期間とは、一定期間の経過により当然に権利が消滅するという制度で、当事者の時効援用が必要な消滅時効とは異なる制度です。
遺留分を侵害する遺言の存在を知らなかったとしても、相続開始から10年経過で遺留分侵害額請求権は消滅してしまいます。
3. 遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求は、以下のような流れで行います。
(1)内容証明郵便を送る
遺留分侵害額請求の方法には、特に決まりがあるわけではありませんが、内容証明郵便を利用して遺留分の支払いを求める書面を送付するのが一般的です。
内容証明郵便は、誰が・どのような内容の文書を送付したのかを証明できる形式の郵便です。内容証明郵便を利用することで、時効期間内に権利行使をしたという証拠を残せるので、時効との関係で有効な手段となります。
ただし、内容証明郵便だけでは「いつ相手に届いたのか」を証明できないので、必ず配達証明を付けるようにしてください。
(2)相続人当事者たちで話し合う
内容証明郵便が届いたら、遺留分権利者と遺留分侵害者との間で話し合いを行います。
遺留分侵害者は、簡単には遺留分の支払いには応じてくれないので、遺留分の計算根拠となった資料などを提示しながら説得していくようにしましょう。
話し合いの結果、お互いに合意に至ったときは、口約束だけで終わらせるのではなく、必ず合意書を作成するようにしましょう。
(3)遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
当事者同士の話し合いで解決できないときは、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。遺留分に関する争いについては、「調停前置主義」が採用されているので、いきなり訴訟を提起することはできず、原則として調停を先に行わなければなりません。
遺留分侵害額の請求調停の申し立てに必要になる書類は、以下のとおりです。
- 申立書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
- 遺産に関する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しなど)
なお、申し立てに必要になる費用は、収入印紙1200円分と連絡用の郵便切手代です。郵便切手代については、申し立てをする家庭裁判所や各裁判所のWEBサイトを確認してください。
(4)遺留分侵害額請求訴訟を提起
調停でも話し合いがまとまらないときは、最終的に遺留分侵害額請求訴訟を提起する必要があります。
訴訟になると、遺留分権利者の側で遺留分が侵害されていることおよびその金額を証拠により立証していかなければなりません。法的観点からの主張・立証が必要になるなど非常に複雑な手続きなので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。
なお、訴訟提起に必要になる書類は、以下のとおりです。
- 訴状
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
- 遺産に関する証拠(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しなど)
訴訟提起に必要になる費用は、請求額によって異なります。たとえば、遺留分として300万円を請求する場合、収入印紙2万円と郵便切手が必要になります。
- こちらに掲載されている情報は、2024年08月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
お一人で悩まず、まずはご相談ください
遺産相続に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?