2021年「不祥事」ランキング1位は? 10大“ワースト”ニュースを法律視点で振り返る

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

2021年「不祥事」ランキング1位は? 10大“ワースト”ニュースを法律視点で振り返る
五輪のモニュメントと新国立競技場(撮影:弁護士JP編集部)

「金」(選出:日本漢字能力検定協会)という文字に象徴されるというこの1年、さまざまな出来事が世間の注目を浴びました。選出理由にもなった東京オリンピック・パラリンピックの「金メダル獲得」など明るいニュースの影には、前年に引き続きとりわけ話題になることの多かった新型コロナ関連の暗いニュースがついて回った印象です。

年の瀬も迫った先日、全国の男女1000人(20~60代)へのアンケートをもとにした「2021年の不祥事ランキング」(調査:広報会議)が発表されました。ランキングを見ると、これらがたった1年のうちに起きたのかと改めて驚くかもしれません。

来年は明るい話題が多くなるよう願い、1位から10位までの不祥事を、杉山大介弁護士とともに法律的な視点で振り返ります。

杉山大介弁護士「器物損壊だって思いました」

1位:名古屋市長、金メダルを噛み批判が殺到

8月4日、東京オリンピックで金メダルを獲得したソフトボール日本代表・後藤希友投手が名古屋市長・河村たかし氏を表敬訪問。河村氏が突然金メダルにがぶりと噛みく姿が報道され、「気持ち悪い」「汚い」など批判が殺到した。

杉山弁護士:器物損壊だって思いましたね。大学の法学部で器物損壊とは、物の効用を害する行為であるとしてわかりやすく説明するために、お皿を壊したりするだけでなく、トイレに突っ込んだりともう使えなくなることも器物損壊だって説明することがあるんです。物に他人の唾液をつけるというのも同じような意味を持ちえますし、学生を沸かせるのが上手い教授なら、刑法各論の講義で用いたんじゃないですかね。

2位:森喜朗氏の女性蔑視発言

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長だった森喜朗氏が2月3日、JOC臨時評議委員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間が掛かる」と発言。当初は辞任を否定したものの、国内外からの批判が止まらず、結果的に会長を退くこととなった。

杉山弁護士:時代錯誤だなあと思うと同時に、業界的には他人事ではないなあとも思いました。性別に基づく差別を受けない権利は憲法でも規定があり、労働法など他分野にもそれを実効ならしめる法律が取り入れられていたりと、法律的には男女差別などあってはならないはずなのですが、一方で法律家も政治家と同様、おじさんカルチャーが未だに根強い世界でもあるんです。私自身、飲み会などの場で、そういう発言はどうなんだろうとふと思った経験があります。自分たちの周囲での当たり前が世間とずれていないか、特殊な環境にいる人間ほど、注意が必要と感じます。

3位:NAMIMONOGATARI2021、マスクなしの開催で批判殺到

愛知県に緊急事態宣言が発令されていた8月29日、常滑市でノーマスク、酒類提供など感染対策が不十分な状態で音楽フェスが開催され大炎上した。大村秀章知事は同イベントに対し、県内の施設は二度と使用させないことを表明。経済産業省は最大3000万円の補助金交付の取消を決定した。

杉山弁護士:法律家という視点から言うと、コロナの名の下におこなわれる根拠がどこにあるのか良くわからない規制の数々には問題も感じてはいましたが、流石にマスク無しなだけでなく飲酒も全開というのは、そらひんしゅくは買うでしょうなと思いました。ヒップホップカルチャーは反動を原動力として育ってきたところもあるわけですけど、だったら趣旨を明示してコロナ対策などとうたうべきではないですし。一方で、補助金の打ち切りといった点については、あくまで行政とどういう法律関係にあったという点から検討されるべきであって、国にとってけしからんからやむを得ないと直結させるのには注意を要するべきと思います。

4位:緊急事態宣言下に議員が深夜にクラブ通い

1~2月ごろ、複数の与党議員による深夜のクラブ通いが相次いで発覚し、それぞれ議員辞職や離党に追い込まれた。奇しくもこの時期は、新型コロナ対策関連法に刑事罰を盛り込む改正案が話題になっていた。

杉山弁護士:緊急事態宣言下での行動に刑事罰を設けようと叫んでいた時期にというのが、なんともと思いましたね。そもそも、罰則というのは刑事罰を事後的に科すものであり、執行するものがいないと抑止力も生じません。安易に刑事罰を叫ぶ政治家は、それを執行すべく、コロナリスクの中で取り調べなどに携わる人間達の活動などを想像し理解していたのか、甚だ疑問でした。後処理でしかない刑事罰を万能薬のように考える癖は、やめて欲しいと思いますね。

5位:みずほ銀行、システム障害で一時ATMが使用できず

システム障害を原因に、多数のATMが停止する、キャッシュカードや通帳が機械に取り込まれる、窓口での取引ができなくなるといった大規模なトラブルが、2月から9月にかけて8回も発生。金融庁より業務改善命令が下った。

杉山弁護士:定期的に生じているので、特別なニュースだとは感じなくなっています。私がこの件で関心を持ったのは、ニュースと社会的影響の大きさの割に、株価への影響がほぼ皆無だったところですね。システムトラブルといった企業の問題に対して、マーケットが牽制力を働かせないのであれば、結局公機関のハードパワーが必要になります。金融庁が動いたのも妥当だと思いますね。

6位:東京2020開閉会式・演出チームの辞任・解任問題

小山田圭吾氏の音楽制作チームへの参加が発表されるや、過去のいじめ問題が大炎上しオリンピック開会式4日前に辞任。次いでショーディレクターだった小林賢太郎氏が芸人時代にコントでユダヤ人大量虐殺をネタにしていたことが大炎上し、本番前日に解任された。

杉山弁護士:過去の1つの過ちであっても、被害を受けた人にとっては一生消えないものである、ということなんだと思いますよ。私も刑事事件や少年事件に多く携わる者として、やり直せる社会を願う者ですが、一方的に被害を受けた人が、何ら謝罪もせずにむしろ露悪話として自己への加害を語る姿を見たらどう思うか、そこを理解するのは大前提でしょうね。

7位:テレビ朝日五輪スタッフが緊急事態宣言下に会食

オリンピックが閉幕した8月8日の深夜から未明にかけて、テレビ朝日のスタッフら10人がカラオケ店で飲酒を伴う打ち上げを開催。うち1人の女性スタッフがビルから転落し緊急搬送された。当時同社では、宴会を禁止する社内ルールが設けられていたという。

杉山弁護士:気になったのは会食よりも、女性社員のビルから転落という点ですよね。どうしてもニュースは表層的な事実がまず出てくるため、背景にどういう問題があるのかとか一呼吸置いて考えることが多いのですが、本件では転落に至る流れがさっぱりわかりませんでした。続報もないですし、疑問点が解決せずに終わった、何だか気持ち悪さの残るニュースだと思っています。

8位:LINEの中国委託先企業への個人情報管理問題

3月17日、LINEが業務委託していた中国の関連会社が日本国内の個人情報にアクセス可能だったことが明らかに。個人情報には利用者の氏名、電話番号、IDなどが含まれていた。LINEは「業務に必要な範囲のアクセス権だった」としているが、利用者への説明が不十分だったとして公表に至った。

杉山弁護士:民間企業でありながら、社会インフラを担い、やろうと思えば公権力のように動けてしまうIT企業のコンプライアンスは、今後も大きな課題であり続けると思いますね。広い市場を自ら創設し、そこに人を招いて利益を得るわけですから、一定の管理責任を負うべきなわけです。このような企業に、国といった公側がどの程度介入すべきか、介入した方が個々の自由が確保されるのかというテーマは、米と欧州でも姿勢が分かれているところで、規制法の作り方にもかかわってくるため興味深いトピックです。

9位:総務省、東北新社やNTTなどから接待問題

総務省が東北新社やNTTグループから接待を受けていた問題で、6月4日、国家公務員倫理規程に抵触するものが78件あったと公表された。最も高額な接待費は1人あたり約6万円で、内訳は飲食代約3万1000円、手土産の野球チケット代が約2万9000円だったという。

杉山弁護士:8位の話とも重なりますが、インフラにかかわる部分について民間任せだと全体の利益が損なわれるがゆえに、公的機関による介入管理を行っているのであって、個の利益を追求する民間と全体の利益を追求する官との緊張関係がシステムとしての機能をもたらすはずなのに、これでは緊張もへったくれもないなと思いますね。刑法上は、職務行為との対価関係がないと収賄にはならないため、刑法の問題にするための立証は容易ではなく、あくまで公務員倫理の問題になることが多いですが、自身の持ってる権限の強さに対して無自覚なら問題ですし、自覚的なら悪質だと思います。

10位:三菱電機で不正検査30年以上、労務でも問題抱え

6月29日、同社長崎製作所の鉄道向け空調設備の出荷検査で、30年以上にも渡り不正が行われてきたことが発覚した。本件では当時の社長・杉山武史氏が辞任したものの、同社ではここ数年、品質不正や労務問題が頻発しており、企業風土そのものを疑問視する声が相次いでいる。

杉山弁護士:「過ちて改めざる、これを過ちという」というのは孔子の言葉ですが、品質不正の発覚がここ数年続いていることが、大きな問題だと考えます。問題が発覚しても直ちに体制を整え、再発防止ができるならば、将来に関しては企業の信用を保てるのですが、繰り返すとなるとそもそもそういう体制が作れないことになり、企業の根幹に対する評価が問題となってくるからです。問題を一時、特定の誰かの問題に留め、組織としての価値を保つのが、危機管理では重要ですね。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア