元カノへの“メール1通”を理由に警察に「猟銃2丁」取り上げられ…誰もが突然「ストーカー扱い」され得る“規制法”の問題点とは【弁護士解説】
茨城県に住む猟銃所持者の男性Aさんが、今年2月、元交際相手の女性とのやり取りをきっかけに、茨城県警からストーカー規制法に基づく「口頭警告」を受け、翌日には愛用の猟銃2丁を「仮領置」された。仮領置とは、警察機関が私人の所持する物を提出するよう命じ、一時的に預かる処分をさす。Aさんに対する事前の告知はなく、弁明の機会も一切与えられなかった。
Aさんは、ストーカー行為など身に覚えがないため、弁護士に相談した。そして、弁護士のサポートを得て、仮領置を違法であるとし、5月3日、茨城県に対し、行政上の不服申し立ての手段である「審査請求」を行った。すると、同月13日に茨城県公安委員会は、Aさんへの猟銃所持許可を取り消さない判断をし、猟銃はAさんのもとに返還された。
Aさんはこの一件について「冤罪はこのようにして作られるのだな、というのを体感した」と語る。また、Aさんから相談を受け審査請求代理人を務めた松村大介弁護士は、「口頭警告」が、銃の所持許可という別の制度と結びつくことで、深刻な人権侵害を生む可能性があると指摘している。
「ある日突然、ストーカーにされた」猟銃“没収”の顛末
Aさんは、趣味の狩猟を楽しむために猟銃を所持しており、模範的な猟銃所持者として、その適格性は第三者機関からも認められ、2025年には茨城県猟友会の「安全狩猟射撃指導員」を務めていた。
事の発端は、Aさんが元交際相手の女性Bさんに送った一通のメッセージだった。今年2月、猟犬の散歩を兼ねて二人の思い出の場所だった河川敷を訪れたAさんは、懐かしさからBさんにメールを送信し、その旨を伝えた。さらにその帰り道、駅前の駐車場で偶然、Bさんの車を見かけたことも送った。
その日の夜、Aさんは突然、茨城県警の警察官2名の訪問を受けた。「Bさんの件なんですけれども」と言われ、警察署に任意同行を求められ、ついていったところ、署でストーカー規制法に基づく「口頭警告」を受けたという。
Aさん:「警察署に移動して、警告を言い渡され、『警察からのお願いなので、“これ以上のこと”をしないでほしい、そうすれば何も起こらないから』という説明を受けて、自宅に戻りました」
しかし、Aさんの認識とは裏腹に、事態は深刻な方向へ進んでいく。警察からの措置は、言葉通りの「お願い」ではなかった。翌日の昼頃、警察署から電話がかかってきた。「昨日の件について話がある。鉄砲のこともあるので自宅に伺う」と言われた。その夜に来訪した署員はAさんの猟銃2丁を仮領置すると告げ、そのまま持ち帰ったという。
Aさんは2018年に銃の所持許可を取得して以来約7年間、法令を遵守し、一度も問題を起こしたことはなかった。そんなAさんにとって、突然「ストーカー」扱いされ、それを理由に猟銃まで取り上げられたことは青天の霹靂(へきれき)だった。
元交際相手は警告を「望んでいなかった」
さらに不可解なのは、警告のきっかけとなった元交際相手のBさん自身が、Aさんへの警告を望んでいなかったという事実である。
Aさんが後にBさん本人や共通の知人から聞いたところによると、Bさんはストーカー被害を訴えるために警察に行ったわけではなかったという。
Aさん:「そもそもBさんは警察にストーカーの相談などしていなかったのです。駅前の駐車場にBさんの車があったのを見た、という私のメッセージを見て、どうしてわかったのだろう? と疑いの気持ちが湧き、友人に相談したところ、『警察に聞いてみたら?』と言われ、警察に行ったそうです」
AさんがBさんなどから聞いた話によると、相談を受けた警察官は、Aさん宅へ行きストーカー規制法の警告を行うと主張した。Bさんは「そこまでしなくてよい」と再三訴えたが、警察官は「警察としては『そうですか』で済ませる訳にはいかない」として、Aさんへの警告の手続きを進めたという。
警察はなぜここまで強硬な対応をとったのか。Aさんと松村弁護士は、当時、近隣の水戸市で起きたネイリスト殺害事件など、ストーカー事件が相次いでいたことが影響し、警察が過剰に敏感になっていたのではないかと推測している。
ストーカー規制法の「警告」制度の「構造的な欠陥」
松村弁護士は、本件の問題の根源には、ストーカー規制法における「警告」制度の構造的な欠陥があると指摘する。
松村弁護士:「今回の件は、相手方のBさんがやめてほしいと言ったにもかかわらず、警察がどんどん見切り発車で『警告』の手続きを進めてしまいました。
警察官が職権で『警告』できる制度のもとでは、こうした不当な取り扱いが生じる危険性があります」
ストーカー規制法の「警告」は本来、法制度上、それ自体が直ちに相手方の権利を制限する効果をもつ「行政処分」ではなく、相手方の任意協力を求める「行政指導」と位置づけられている。つまり、警告が行われた場合、その相手方が警告に従わなかったからといって、何らかの不利益を受けるしくみにはなっていない。
松村弁護士は、本件のように、ストーカー規制法の「警告」が、銃の所持許可や取り扱いを定める銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)の「仮領置」の根拠として流用されることで、事実上、極めて重大な不利益を生じさせる結果となっていると説明する。
ストーカー規制法の「警告」が銃の「仮領置」につながるしくみ
そもそも、なぜストーカー規制法上の「警告」が、銃の「仮領置」につながるのか。
銃刀法では、銃の所持許可を与えてはならない「欠格事由」が定められている。その一つに「他人の生命、身体若しくは財産若しくは公共の安全を害し、または自殺をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」(5条1項18号)という規定がある。
そして、銃の所持許可を持つ人がこの欠格事由に該当すると「疑うに足りる相当な理由があるとき」は、許可の取り消しに先立って、警察が銃を「仮に領置することができる」と定められている(11条8項)。
つまり、本件では、ストーカー規制法に基づく「警告」が行われたことをさして、銃刀法上の「他人の生命を害するおそれ」があると「疑うに足りる相当な理由」と解釈され、猟銃の仮領置という行政処分につながっている。
松村弁護士:「現行のストーカー規制法では、警告を発する前提として、『恋愛目的』か『怨恨(えんこん)目的』の有無を警察が判断することになっています。
しかし、現行法の要件は緩く、何かもめ事があったら『恋愛目的』か『怨恨目的』のどちらかが認定されてしまうおそれがあります。『言ったもの勝ち』になってしまいかねません。
加えて、銃刀法はそのような『警告』を根拠として、猟銃を仮領置できるしくみになっています。現場の警察官の方も、ストーカー規制法の警告が行われることにより、正当に所持しているはずの猟銃が取り上げられるという重大な結果を招くとは思ってもいない可能性が高いです。これでは、安易に対象者の人権を侵害する危険性が大きいものといわざるを得ません」
また、松村弁護士は、銃が返還されても、Aさんがストーカー規制法上の警告対象者であるという記録は警察に残り続けるという問題もあると指摘する。
誰もが当事者になりうる「人ごとではない」問題
Aさんは、猟銃所持者という特殊な立場だった。しかし、松村弁護士は、本件の根底にある問題は、誰の身にも起こりうるものだと憂慮を示す。
そして、些細な男女間のトラブルや人間関係のもつれが、警察の過剰な介入や誤った判断によって「ストーカー事案」として扱われ、一度レッテルを貼られてしまうと、法的な救済手段が乏しいまま社会的な不利益を被り続けるという危険性があると訴える。
現に、松村弁護士のもとには、Aさんと同様の身に覚えのないストーカーの疑いで警告を発せられ、職場で孤立させられるなど、苦境に立たされた人々からの相談が複数寄せられているという。
松村弁護士:「ストーカー被害者の迅速な救済が重要であることは言うまでもありません。
しかし、その一方で、現状のままでは『言ったもの勝ち』になりかねないという問題があり、結果的に重大な人権侵害につながるおそれがあることを、多くの人に知ってほしいのです」
取材協力弁護士
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