くら寿司「ちいかわ」景品着服でコラボ中止… 従業員は「10年以下の拘禁刑」「多額賠償」の可能性も? 責任追及どこまで【弁護士解説】
大手寿司チェーン「くら寿司」は今月5日、人気キャラクター「ちいかわ」とのコラボキャンペーンの実施に関して従業員の不正行為が判明したとして、同キャンペーンを6日の営業より中止すると発表しました。
報道によれば、くら寿司株式会社(本社:大阪府堺市、以下「運営会社」)の調査で、従業員による不正行為(景品の不適切な持ち出しなど)が判明したとされています。
SNSでは「業務上横領もしくは窃盗からの横流しでしっかり犯罪」「コラボ中止による全店分の損害賠償でとんでもない額を請求されそう」などの声が上がっています。
従業員が景品を着服していた行為につき、刑法上どのような犯罪が成立するか、あるいは損害賠償がどの範囲で認められるかは、具体的な状況に応じて決まります。刑事・民事の両面から、本件における法的責任について解説します。(弁護士・阿部由羅)
キャンペーン景品の着服は「業務上横領罪」?「窃盗罪」?
従業員が無断でキャンペーンの景品を自分のものにする、家族にあげるために持って帰る、転売するといった着服行為は「業務上横領罪」または「窃盗罪」によって処罰される可能性があります。
業務上横領罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑」、窃盗罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」と、ほぼ同等ですが、対象となる行為はそれぞれ異なります。
本件のようなキャンペーン景品の着服については、どちらの犯罪が成立するのでしょうか。
「業務上横領罪」は、業務上自己の占有する他人の物を横領する行為について成立します(刑法253条)。
キャンペーン景品の着服について業務上横領罪が成立するためには、行為者がその景品を「占有」していることが必要です。
「占有」とは、対象物を事実上支配していることをいいます。また業務上横領罪の「占有」は、他人からの委託に基づくことが必要と解されています。
本件のように、店舗の従業員がキャンペーン景品を着服したケースでは、その従業員が運営会社や店舗管理者からの委託を受けて景品を管理していたかどうかがポイントです。
たとえば、景品を着服した従業員が店舗全体を管理する立場(店長など)にあった場合や、店長から景品の管理を任されていた場合には、業務上横領罪が成立すると考えられます。
一方、「窃盗罪」は、他人の財物を窃取(せっしゅ)する行為について成立します(刑法235条)。
「窃取」とは、占有者の意思に反して財物の占有を自分または第三者へ移すことをいいます。
もし、キャンペーン景品を着服した従業員が、その景品の管理を運営会社や店舗管理者から任されていなかったら、景品は店舗管理者などが占有していることになります。したがって、従業員はその占有を勝手に自分または第三者へ移しているので、窃盗罪が成立すると考えられます。
着服した従業員は会社から損害賠償を請求される?
店舗の従業員による景品の着服が判明したことを受けて、「くら寿司」の運営会社は「ちいかわ」とのコラボキャンペーンを全面的に中止しました。
店舗の従業員がキャンペーン景品を着服する行為は、運営会社に対して違法に損害を与える「不法行為」に当たります。
また、従業員と運営会社の間に雇用などの契約関係がある場合は、契約によって約束した義務を果たさない「債務不履行」にも該当すると考えられます。
不法行為・債務不履行のいずれについても、従業員は運営会社に生じた損害を賠償しなければなりません(民法709条、415条1項)。
つまり今回のケースでも、景品を着服した従業員は、着服行為によって運営会社に生じた損害について、損害賠償責任を負う可能性があります。
ただし、どこまでの損害について賠償責任が認められるかは、以下で解説するように、問題となる行為と損害との因果関係などを踏まえて個別に判断されます。
多大な損害が発生したと考えられるが…
従業員の景品着服によって、「くら寿司」の運営会社には、以下のような損害が生じた可能性があります。
- 着服された景品の価額
- キャンペーンの中止に伴う対応に要する費用
- キャンペーンの中止に伴う逸失利益(予定通り行っていたら得られたはずの利益)など
着服された景品の価額自体は数百円〜数千円程度にとどまると思われますが、キャンペーンの中止に伴って発生する費用や逸失利益はきわめて高額であると考えられます。
このような高額の損害についてまで、景品を着服した従業員が損害賠償責任を負うのでしょうか。
法律上、不法行為や債務不履行に基づく損害賠償責任は、一定の範囲内に制限されています。不法行為の場合は当該行為と相当因果関係のある損害、債務不履行の場合は通常生ずべき損害や予見可能な特別損害に限られます。
したがって、景品の着服に起因して運営会社に生じた損害のすべてにつき、着服をした従業員が賠償責任を負うとは限りません。各損害につき、従業員の損害賠償責任が認められるかどうかを個別に検討する必要があります。
たとえば、着服された景品の価額については、従業員の損害賠償責任が認められやすいでしょう。
これに対し、キャンペーンの中止に伴って発生する費用や逸失利益については、従業員の損害賠償責任が認められるためのハードルが上がります。
特に「キャンペーンの全面中止」という判断は、かなり大胆な対応であり「そこまでしなくてもよかったのではないか」という見方もあり得ると思われます。
厳格なコンプライアンスが求められる昨今の情勢も考慮しつつ、運営会社の判断がやむを得なかったのか、損害をより少なく抑える別の方法はなかったのかといった検討も必要になるでしょう。
従業員が損害賠償を支払えない場合はどうなる?
会社側が多額な損害を請求しようとしても、実際に従業員がそれを支払えるだけのお金(資力)を持っているとは限りません。
特にアルバイト従業員などの場合、キャンペーン中止によって会社に多額の損害が生じたとしても、その全額を直ちに回収することは難しいケースも考えられます。
キャンペーン景品を着服した従業員が十分な資力を有しない場合、「くら寿司」の運営会社としては、「支払える範囲内の金額で和解をする」「賠償金を分割払いさせる」といった対応が考えられます。
どのような解決になるかは、当事者同士の和解交渉などによって決まります。
なお、債務を支払うことができない人を救済するため、法律によって「自己破産」という手続きが設けられています。
しかし、業務上横領や窃盗による損害賠償は「非免責債権」に当たり、自己破産による免責は認められない可能性が高いと思われます(破産法253条1項2号)。
■阿部由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
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