クビにされても「交渉も裁判もできない」…都立高の英語教師らが“会計年度任用職員”制度の違憲性訴える
都立高校でALT(外国語指導助手)として英語を教えてきたメアリー・ハンソン・ダガティさんは、9月3日午後に東京高裁で行われた会計年度任用職員の権利を巡る控訴審の第1回口頭弁論後に開かれた報告会で、通訳を介して「今日はショックだった」と語った。
この日は原告側が意見陳述を行ったが、その後裁判長が審理を打ち切る構えを見せ、いきなりの幕引きになりかけたためだ。原告側によると、即座に弁護団が異議を述べ、協議の末にようやく次回への続行が決まった。
原告は、ダガティさんとアンソニー・ドーランさんの2人が加入する労働組合。
組合は1年ごとの任期で自治体に雇われる「会計年度任用職員」の団結権や団体交渉権といった、憲法28条が保障する「労働基本権」が強く制限されているのは違憲だとして東京都らを訴えている。一審の東京地裁は1月29日、原告の請求を棄却する判決を行った。
原告の2人はいずれも都立高校で英語を教えるALTだったが、2020年の制度改正で「会計年度任用職員」に切り替えられ、団体交渉権を一方的に失った。
原告側は「2人は長年、自分のスキルを日本の子どもたちに捧げ、何千、何万という生徒を教えてきた」と指摘したうえで「雇い止めに遭っても、もはや交渉も裁判もできない」と主張している。
「会計年度任用職員」への切り替えで労組法の適用外に
問題の起点は、2020年4月に始まった会計年度任用職員制度にある。それまで多くの非正規公務員は「特別職非常勤職員」として、民間の労働者と同じく労働組合法(労組法)の適用を受け、団体交渉ができた。ところが制度改正で「会計年度任用職員」に切り替えられると、労組法が適用されなくなった。
2020年7月、2人が所属する全国一般東京ゼネラルユニオン(東ゼン労組)は、新型コロナ対応や雇用の安定を求めて団体交渉を申し入れた。
しかし東京都教育委員会は「会計年度任用職員に労組法の適用はない」として拒否。組合が東京都労働委員会に救済を申し立てたが、2022年7月に却下された。その数か月後、2人は次年度以降の雇い止めを通知される。組合はこれを“報復”と受け止めた。
組合側は2023年3月に提訴したものの、一審は請求棄却。控訴審に舞台を移し、この日の弁論を迎えた。
「趣旨の全然違う判決を引用」
争点は、労組法が適用されない会計年度任用職員に団交権を認めないことが、憲法28条に違反するかどうかにある。原告側代理人の指宿昭一弁護士は、一審判決の“3つの誤り”を指摘したと明かした。
1つ目は、公務員のストライキを禁じた「岩手県教組学テ事件」(最高裁昭和51年(1976年)5月21日判決)など、争議権をめぐる古い判例をそのまま持ち出した点だ。
指宿弁護士は「争議権の剥奪と、団体交渉ができないことはレベルが違う。趣旨の全然違う判決を引用し、非正規公務員が雇用も立場も不安定だという特殊性を全く顧みなかった」と批判した。
2つ目は「代償措置論」。公務員は労働基本権が制限される代わりに、人事委員会への救済申し立てなど別の手段が用意されているから合憲だ、という判例がある(最高裁昭和48年(1973年)4月25日判決(全農林警職法事件)など)。
だが指宿弁護士は、非正規である会計年度任用職員にはその救済手段が実際にはほとんど機能していないと主張する。「その代償措置すら実質的にないことを表しているのが本件だ。一審はそこを意図的に素通りした」(指宿弁護士)
3つ目は「期待権」の扱いだ。期待権とは、繰り返し雇われてきた人が次年度も雇われると見込む、法的に保護されうる期待をさす。
一審判決は、繰り返し任用されてきたとしても再び雇われることへの法的な期待までは認められないとし、これを前提に労働基本権の制限を違憲とはいえないと結論づけた。指宿弁護士はこの論理を批判する。「百歩、千歩譲って期待権がなかったとしても、だからこそ団体交渉をする必要がある。その意味を原判決は完全に看過している」と語った。
「首を切られても争えない」
弁護団が控訴審で重くみるのは、雇い止めに遭った際の“出口”が塞がれている点だ。弁護団の山本志都弁護士は「会計年度任用職員になる前なら、期待権を根拠に損害賠償で争う細い道が残っていた。だが今は、期待権が生じないよう、わざわざ“会計年度”という言葉で1年ごとだと最初から宣言している」と指摘する。
「首を切られたとき、切られた人はどうやって争うのか。団体交渉もできない上に、裁判で争うこともできない。これが異常でなくて何だろう」(山本弁護士)
労働委員会に救済を求める「不当労働行為救済制度」から公務員が外されている点も、控訴審で正面から違憲だと主張していくという。会計年度任用職員は全国で約62万人にのぼり、この日の裁判は原告2人だけの問題にとどまらない。原告側は、非正規で働く地方公務員は全国で119万人を超えると指摘している。
「せめて、私たちの言い分を聞いてほしい」
弁論後に開かれた報告会で、原告らは口々に、第1回で結審しなかったことへの安堵を示した。東ゼン労組のジェローム・ロスマン氏は「結審しないと聞いて安心した。最後の最後まで闘う」と語った。
ダガティさんは「この制度が続くほど、多くの人が不安定な契約を結ばされ、生活が壊されていく」と表情を曇らせた。ドーランさんは「せめて、私たちの言い分を聞いてほしい」と述べた。
次回期日は11月10日。弁護団は次回までに第2準備書面を提出し、被告側に反論させることで審理の続行を図る構えだという。
弁護団の加藤桂子弁護士は「非正規公務員という制度自体が社会の格差を生み出している。社会の状況が変わっていることを、裁判所がきちんと見て判断してくれるといい」と述べた。
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
この記事が良かったら、Googleで弁護士JPを優先表示にしませんか
関連記事
働き方の新着記事
働き方の新着記事一覧へ
「休めば職場が回らない」連日深夜残業で過労死した49歳夫…政府の裁量労働制“拡大”方針に遺族が「順番が逆」...
「印鑑だけ押しといて」証券会社で保険の「無資格販売」横行…労組へ通報→会社へ“筒抜け”で「冷遇」されたワケ
日銀で「送金システム不備」内部通報したら「庁舎立ち入り禁止」…50代女性職員が無遅刻無欠勤も「入行5か月」...
「彼女にガツンと言え」証券大手で新入社員に課された上司との“交換日記”…2時間説教で同期が倒れた“パワハラ...
売春「買う側」も処罰で“40万人”困窮か? 防止法改正で「恐喝」被害急増のおそれも【弁護士解説】