「同じ仕事なのに」ボーナスが正社員の1/2未満…勤続22年・非正規女性への“待遇格差”は「違法」 会社に193万円の支払いを命じた判決の理由
「同じような仕事をしているのに、正社員の方が給料が高い...」
そのような不満を持っていた契約社員のAさんが、勤務先のX社を訴えた。
Aさんは、「基本給の額やボーナスの額が正社員Bさんに比べて低い上、契約社員である私には家族手当は支給されず、住宅手当の金額も低いのは理不尽だ」と不満を持っていた。そこで、会社を提訴したところ、裁判所は、会社に対して約193万円の支払いを命じた。
以下、実際の裁判例をもとに事件を解説する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
X社は、放送番組の製作や編集を行う会社である。在籍している無期雇用の従業員は、2種類に分けられる。正社員と契約社員だ。
Aさんは「契約社員」として30代前半に採用され、入社約22年目だった。一般的事務作業を行っており、携わる業務は、伝票起票、銀行業務、事務所金庫の管理など比較的軽易な作業に限定されていた。同意をしない限り転勤を命じられることはないという契約で、転勤したことはない。
なお、Aさんは採用当時から子1人を扶養していた。
Aさんは普段から「正社員とほぼ同じ仕事をしているのに、なぜ正社員と待遇が違うのか?」と不満を持っていた。「基本給の額やボーナスの額が正社員に比べて低い上、正社員に支給されている家族手当は支給されず、住宅手当の金額も低く、理不尽だ」という不満である。
■ 待遇の差
契約社員であるAさんと正社員の待遇の差は、下記のとおりであった。なお、裁判所が認定した「正社員」の数値は、Aさんの待遇と比較するための「比較対象社員」とされたBさん(20代前半に採用され、入社約25年目)のものである。
- 基本給の額:Aさんは正社員の79.7%〜82%
- ボーナスの額:Aさんは正社員の37%〜43.3%
- 家族手当の支給:Aさんはなし、正社員は配偶者1万3000円・子ども1人あたり7000円)
- 住宅手当(扶養親族がいる場合):Aさんは1万円、正社員は2万円
AさんはX社を提訴し、「不合理な取り扱いである」と主張して損害賠償を請求をした。
裁判所の判断
裁判所の判断は、以下のとおりだ。
- 基本給の差異:適法
- ボーナスの差異:違法
- 家族手当の差異:違法
- 住宅手当の差異:違法
そして、裁判所は会社に対して、約193万円の損害の支払いを命じた。以下、裁判所の判断内容を解説する。
■ 大枠の考え方
裁判所は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の条文の解釈に依拠して判断を行った。
この法律は、非正規社員である「短期労働者」(いわゆるパートタイマー)と「有期雇用労働者」(いわゆる)の待遇に、不合理な差を設けてはならないと定めている。ややこしい条文だが、ごく簡潔に要約すれば以下の通りである。
第一に、非正規社員の待遇について、正社員との間に働き方(業務内容、責任の程度、転勤の有無等)の違いに応じた差を設ける場合、不合理なものであってはならない(法8条)。
第二に、業務内容、転勤の有無等について正社員とまったく同じであれば、待遇に差を設けてはならない(法9条)。
厳密にいえばAさんは「無期労働契約」の契約社員なので、この法律のストレートな対象ではない。しかし、裁判所は、これらの規定の趣旨はAさんのような社員にもあてはまるとし、「正社員との相違が不合理であって、その程度が社会通念上許容されない場合は違法」という判断基準を示した。
■ 基本給
Aさんの基本給が正社員の基本給の79.7%〜82%となっている点については、裁判所は「違法ではない」と判断した。理由の概要は以下のとおりだ。
- 正社員は配属部署や業務内容に限定がなく、一定の責任を有する立場に就く可能性があり、転勤もある。
- これに対し、契約社員であるAさんは、職務内容が伝票起票、銀行業務など比較的軽易な事務作業に限定され、所属長等の一定の権限や責任のある立場に就くことはなく、転勤もない。
- このような職務の内容の相違は、賃金に関する条件において事業主が考慮すべき事情であり、将来的な幹部への登用を含め正社員の能力開発、人材育成を図る観点から、基本給に相違を設けることは適切なものと認められる。
■ ボーナス
Aさんのボーナスが、正社員のボーナスの37%〜43.3%となっている点については、裁判所は「70%を下回る限度で違法」と判断した。理由の概要は以下のとおりだ。
- Aさんと正社員との間で、ボーナスにある程度の相違を設けるのは、「将来に向けての労働意欲の向上」や「人材育成」等の側面があり、適切である。
- しかし、ボーナスには、企業の業績等を踏まえた「労務の対価の後払い」や「功労報奨」としての性質もあり、Aさんのような無期契約社員についても同様である。
■ 家族手当
家族手当については、上述の通り、Aさんには支給がなく、正社員には配偶者につき1万3000円、子ども1人につき7000円が支給されていた。
この差異について裁判所は「違法」と判断し、X社は正社員と同等の家族手当を支給しなければならないとした。理由の概要は以下のとおりだ。
- X社での家族手当は、扶養親族の有無・属性・人数に着目して金額が定められていることからすると「生活費の補助」としての性質がある。
- Aさんは無期契約社員であり、長期雇用を前提として人材の確保・定着を期待していたというべきなので、正社員と同等の家族手当を支給しないのは不合理。
■ 住宅手当
住宅手当は扶養親族がいる場合に支給され、Aさんは1万円、正社員は2万円だった。
この差異についても裁判所は、上記の家族手当と同様、「生活費の補助」としての性質がある以上、Aさんに正社員と同等の家族手当を支給しないことは不合理であり、違法と判断した。
最後に
正社員と契約社員との間に待遇差があっても、直ちに違法となるわけではない。重要なのは、それぞれの待遇が設けられた目的が合理的といえるかどうかだ。
会社は「契約社員だから」という理由だけで差を設けるのではなく、待遇ごとに合理的な理由があることを説明できなければならない。
従業員は、給与や手当等の待遇の格差に疑問を感じたときは、「雇用形態の違いがあるから」というだけで諦めず、その待遇差に合理的な根拠があるかを確認し、納得いかないようであれば弁護士に相談してほしい。参考になれば幸いだ。
取材協力弁護士
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