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ヒグマ人身被害、「ほぼ半数がハンター」で“民間人頼み”限界に…プロ公務員「捕獲官」確保が急務なワケ

ヒグマ人身被害、「ほぼ半数がハンター」で“民間人頼み”限界に…プロ公務員「捕獲官」確保が急務なワケ
捕獲技術を有しているわけではない「ハンター」にクマ撃退は大きな負担(MASATOSHI / PIXTA)※写真はイメージ

昨今、市街地などでのクマの出没が相次ぐ中、緊急銃猟(※)を含むクマの捕獲体制を地元のハンター(狩猟者)に依存している現状がある。一定の成果は期待できるものの、こうした状況に専門家からは限界を指摘する声も上がる。

※クマやイノシシの出没があった際、条件を満たした場合に限り、市町村長の判断により、銃器を使用した捕獲等が可能になる制度

環境省も、「通常の狩猟は山野で行われるため、その経験はクマの緊急銃猟とは場の条件が異なる」と認識し、将来的には専門性を備えた、よりプロフェッショナルな「捕獲者」の必要性を示している。実際に環境省による「緊急銃猟ガイドライン」も、「趣味で狩猟を行う者との区別」を理由に、担い手(射手)のことをハンターや狩猟者とは呼んでいない。

クマ問題が深刻化する中で、大きく遅れている捕獲のプロ育成も含む抜本的なクマ対策。制度が整備されたとしても実行する人材が不足していては、それは絵に描いた餅に終わる…。

■ 限界を迎える「狩猟者依存」のクマ対策

現在のクマ捕獲体制は、猟友会などの一般狩猟者に大きく依存している。しかし、人口減少や農山村の高齢化、ハンターの高齢化を踏まえれば、中長期的には地域にクマ捕獲従事者が不在となる可能性が高い。

クマが年率15%ほどで増加する可能性を考え合わせれば、狩猟者に頼った対策はすでに実効性と持続性を欠いていると判断すべきであろう。

「数々の公的なデータなどから、『地域によっては、人間社会がクマ側に圧倒されている』 との認識が欠かせないかもしれない」

こう指摘するのはエゾシカ協会代表理事で岐阜大学の鈴木正嗣(まさつぐ)名誉教授。すでにクマの勢力が人間側の管理体制を超えており、危機的状況にあるというワケだ。

そもそも、狩猟免許はリクリエーションとして行われる狩猟を念頭におく制度であり、試験問題の構成からも「公的な目的を有する捕獲」のウエイトは低い。多くのハンターにとっては、クマは本来のターゲットではなかったため、その対策への協力は心身ともに大きな負担にもなる。所持している銃や弾薬の性能が、クマには不向きな場合も少なくない。

実際、北海道ではヒグマによる人身事故の被害者の多くが逆襲などにあったハンターである。今年に入って発生した2件は、まさにそのケースだ。鈴木名誉教授ら専門家は、地域の要請に応えることは必要だが、全面的・無期限な協力体制は自治体の覚悟や決断を先送りさせるリスクがあると指摘している。

■ 「ガバメントハンター」から「捕獲官」や「鳥獣対策専門官」へ

環境省による「緊急銃猟ガイドライン」は、「人の日常生活圏に出没したクマ等の対応は人の生命・身体に関わる公共の安全に必要な行為であり、本来ならば公的な存在により対応されるような性質を有する」と明記している。命の危険すらあるクマ捕獲を、経験も装備も不十分な可能性があり、あくまでも民間人であるハンターに任せる状況が健全でないことは明白だ。

市民を守る捕獲者となれば、系統的なトレーニングを受けた者が本来業務として対応するのが適切。そのことは環境省も認識しており、「狩猟免許をもつ公務員」として「ガバメントハンター」という言葉も使われるようになった。

だが、鈴木名誉教授はこの呼び名は誤解を生む可能性があるとして、公的な捕獲に従事する者の育成へと踏み出す前に改めるべきと力を込める。

その理由として、「現在の狩猟免許は、クマの緊急銃猟に必要な技能を保証するものではないという点。もう一つは、『ハンター』という語には『リクリエーションとして狩猟を行う私人』というニュアンスがあるため、『私人への依存からの脱却』という発想が曖昧となる点」を挙げる。

そのため、専門的な捕獲技術を有する正規の行政職員(公務員)の人物像をより明確にするためには、むしろ『捕獲官』という日本語の方が適切とする。クマ以外の野生鳥獣の問題も深刻化しており、対策は捕獲のみに限定されないことを考えれば、ザックリと「鳥獣対策専門官」とよぶのも一案という。

これまでの報道では、「緊急銃猟でハンターがクマを撃った」や「ハンターが緊急銃猟の訓練を行った」などと、当たり前のように「ハンター」という言葉が使われている。そうした状況も踏まえ、鈴木名誉教授は、「ほとんどのメディアが、『ハンター』という用語の使用を意識的に避けている緊急銃猟ガイドラインを入念に読み込むことなく、表面的な報道を続けている可能性がある」といぶかしむ。結果的に、狩猟免許や狩猟経験を過信する風潮が社会に広まってしまった…。

「クマが出れば『ハンター』に依頼すれば何とかなるというイメージの定着は、ハンターに大きな負担をかけることにもなる。少なからぬハンターが人身被害に遭っているという現実に加え、地域社会からの要望に応えるための体力的・心理的・時間的な負担も計り知れない。民間人であり、本業や私生活もあるハンターに、一過性・短時間の訓練を行ったとしても、その成果は限定的であろう。

確実にクマを撃退するための保証を受けた人員が対応する状況を整備するための第一歩として、『ガバメントハンター』という名称を変えることは重要だ」(鈴木名誉教授)。

そして呼び名を変えた上で、その名に相応しい人材育成を目指す必要があると力説する。

■ 急がれる国の「質保証システム」の創設

前述のとおり、今の狩猟免許制度は、実質的には「リクリエーションとしての狩猟を安全かつ適法に楽しむ」ためのもの。認定鳥獣捕獲等事業者制度も、客観的な考査プロセスを欠くという点で、捕獲能力の保証としては不十分である。すなわち、緊急銃猟に限らず、一般的な有害鳥獣捕獲を含め「公的な目的を有する捕獲」を担う人材の知識や技能を客観的に保証するしくみが、今の日本には存在しない。

今後、自治体が安心して「捕獲官」や「鳥獣対策専門官」を採用するためには、その知識や技能を保証する教育カリキュラムや認証システムの構築が欠かせない。鈴木名誉教授は、「このような教育カリキュラムや認証システムの整備は国の役割」と指摘する。

国内では、一般社団法人エゾシカ協会が、英国の制度を参考に「シカ捕獲認証」を運用している。この「シカ捕獲認証」をモデルとした英国の認証制度は、他獣種(イノシシやアザラシ)の資格との連携のもと、 シカに対する認証が基礎的な資格として位置付けられている。クマに特化したものではないが、複数の大学が協定を結び、野生動物管理の担い手を教育する制度も始まっている(※※)。

クマに対する教育カリキュラムや認証システムの整備には、このような先行制度との連動が、迅速性と効率性を確保する上で有効と考えられる。
※※ https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs8/docs8.html
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_adviser/core_curriculum.html

最後に鈴木名誉教授は、次のように訴えた。

「国は、狩猟免許を実質的に『リクリエーションの狩猟を安全・適法に楽しむ』ための制度に据え置いたまま、許可捕獲、指定管理鳥獣捕獲等事業、緊急銃猟と『公的な目的を有する捕獲』の枠を拡大させてきた。

シカやイノシシでは、すでに 8割以上が『公的な目的を有する捕獲』の枠組みで捕獲されているという現実もある。有害鳥獣捕獲等の際に発生した人身事故や物損事故も決して少なくはない。国として、『公的な目的を有する捕獲』を念頭におく免許や資格の創設を急がねば、この国の鳥獣対策は破綻する」

日本の鳥獣対策の課題はクマだけではない。社会的な関心度が高いクマ問題を契機とし、鳥獣対策全般に関わる抜本的な意識改革と制度改正の進展につなげられるかが、そこに迫る危機への懸念を回避できるかのターニングポイントとなりそうだ。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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