“パワハラ”認定の横浜・山中市長なぜ“続投”? 「市議らの弱み見透かしての計算」“元首長”が指摘
「ポンコツ」「人間のクズ」――第三者調査委員会から7項目ものパワハラがあったと認定された横浜市の山中竹春市長が、続投の意向を示している。前回の市長選挙(2025年8月)で山中氏を支援した市議会の主要3会派が辞職要求を突きつけ、神奈川県の黒岩祐治知事でさえ「本当にショッキングな内容だ」と述べた職員へのハラスメント。
果たして山中市長はこのまま市長の座に居続けられるのか…。5期約19年にわたり千葉県鎌ケ谷市長を務めた清水聖士(きよし)氏に、首長としての経験を踏まえた見解を聞いた。
7項目のパワハラが認定された山中市長をめぐる問題の実態
問題が表面化したのは2026年1月。市の幹部職員が実名で山中市長のハラスメント行為を告発した。山中市長は当初、「今回、事実関係として私として承知していない、また認識のない発言を一方的に公表されたことは極めて残念です」とコメントし、報道内容を強く否定した。
しかしその後、約4か月半にわたる第三者調査委員会の調査が実施された。委員会は57名にのぼる職員へのヒアリングやアンケート調査を経て、報告書を取りまとめる。認定されたパワハラは、人事権を背景にした「飛ばす」などの言動、市長室への「出禁」、職員に対する「銃撃」のポーズなど、7項目に及んだ。
報告書の公表を受けた記者対応において、山中市長は一転して謝罪。「当該幹部職員の方に対し、私自身の言葉遣いや配慮が十分ではなく、大変重いご負担をおかけしまったことについて、深く反省するとともに、心からお詫び申し上げます」と語り、今後の改善策として以下の3点を表明した。
1. 緊急性のない時間外や休日の業務連絡は行わない
2. 市長室への「出禁」と評価されることのないよう、説明の同席者については担当部局の意向を尊重する
3. 人事については客観的な評価基準に基づく公平・公正な運用を徹底する
加えて、自らを含む特別職を対象とした「ハラスメント防止条例」の制定を議会に提案する方針も示した。ただし、続投の意向は崩していない。
過去のパワハラ首長はどうなった?
地方首長によるハラスメント問題は、過去にもある。
2019年、元兵庫県明石市長の泉房穂氏は道路工事をめぐる部下へのパワハラ発言が明らかになり辞職。その後、市民団体の要請を受けて出直し選挙に出馬し圧勝、2023年4月まで市長を務めた。
泉氏は自らの経験を振り返り、「私が辞めないと市民が困る、市民が困ることをしてはいけないから、辞めないといけないと思った」と述べている。また、批判を受けても辞職しない首長の姿勢を念頭に、「政治家たる者、市民や県民、国民のために、自らを律するものだ」とも主張している。
2024年に大きく注目を集めた兵庫県の斎藤元彦知事のケースでは、泉氏が「ここまで開き直られてしまうと、法的にはリコールか不信任決議案しかない」と指摘しつつ、いずれも実現のハードルが高い現実を明かした。
なぜパワハラに走る首長がいるのか
鎌ケ谷市で約19年にわたって市長を務めた清水氏は、首長がパワハラに走る構造的背景について、次のように語る。
「職員に関する人事権を持っているのが首長だからということに尽きると思います。法律的、制度的には、どの職員をどの部署に異動させようが、飛ばそうが、最終的権限は市長にあるので、職員に対して市長は何でもできると思ってしまいがちです」
清水氏自身も、職員への苛立ちを覚えた経験があることを認める。
「こちらが真剣に文句を言っているのにずっとニヤニヤしている職員とか、こちらの質問に率直に答えず、まずはくどくどと理由を説明してからやっと結論を言う職員とか、私がいら立つこともありました。
ただし、そういう場合でも、怒鳴るとか、モノを投げつけるとかはしませんでした」
また清水氏は、今回の問題が表面化した経緯の特異性にも言及する。
「今回の横浜市のように、一人の部長級職員が公に市長のハラスメントを告発するというパターンは極めて珍しく、いかに横浜の市長が度を超えていたかということを示す証左であろうかと思います」
「改心」は制度的にあり得るが、現実的には不可能
調査を受け、山中市長は謝罪と再発防止策を表明した。しかし、清水氏はその実効性に懐疑的だ。
「たしかに、市長が『心を入れ替えた』と表明して、それに対して市議会も『了承した』と言えば、制度的には市長を辞めなくて済みます。また、その後、本当に心を入れ替えて頑張れば、信頼回復が100%無理とまでは言えないかもしれません。
しかし、現実問題として、謝罪の言葉や再発防止策の表明がいかに丁寧なものであっても、一度失われた信頼は容易に取り戻せません。
また、市議会との関係を考えても、市議会は自民党の市議会議員も含めて、現市長に対しては厳しく対応せざるを得ないと思います。
なぜなら、選挙民から『こんなとんでもない市長を許してしまう市議会議員だ』と思われれば、次の選挙が危なくなるからです」
山中市長はどうすべきなのか
では、山中市長はいま何をすべきなのか。清水氏はこう語る。
「常識のある市長であれば、現在の辞職勧告決議案が可決されている状況では、行政の停滞と混乱を招くことは避けられないので、さくっと身を引く方が潔いと思います」
一方で、山中市長が続投を選んだ内面の論理についても、清水氏は冷静に分析する。
「山中市長は『ここで辞めてしまうと、そこでもう政治生命は一生終わりだ』と考えていると思われます。
恥をしのんで残り3年の任期を頑張って、心を入れ替えて、素晴らしい市政を行ったと評価されれば、もしかすると3年後の選挙で再選される可能性もゼロではない。
他方で、市議会には市長に対する不信任決議という伝家の宝刀があります。しかし、実際に不信任決議を行った場合、市長が対抗措置として議会を解散すれば、議員の地位を失うことになります。したがって、市議会はおいそれとは不信任決議のカードを切れないでしょう。
山中市長は、これらの事情をすべて十分に考慮したうえで、続投を選んだ可能性が考えられます。つまり、市議らの弱みを見透かしての計算だと思います」
リコールか、不信任決議か
仮に山中市長が続投した場合、住民にはどのような手段が残されているのか。
地方自治法上、住民は首長の「解職」を求めるリコール制度を利用できる。しかし横浜市においては、そのハードルは極めて高い。
横浜市の有権者の数(選挙人名簿登録者数)は約313万2582人(6月1日現在)。地方自治法の規定によれば、約49万人の署名が必要とされる(※)。
※40万人×3分の1+40万人×6分の1+(残余の有権者数)×8分の1
「前市長の林文子氏をリコールしようとしたときも、9万筆しか集まらなかったという例があります。49万人の署名を集めることは、実際上極めて厳しいと思います」
もう一つの手段は、市議会による不信任決議だ。不信任決議が可決されれば、首長は辞職か議会解散を選択しなければならない。ただし、この決議には総議員の3分の2以上が出席し、さらに出席議員の4分の3以上の賛成が必要という厳格な要件がある。
加えて、清水氏が上記に指摘したように、2024年に静岡・伊東市の田久保前市長が不信任決議に対し議会を解散したという前例が生じており、議会側にも踏み切りづらい事情がある。
それでも清水氏は、市民が議員に働きかけることに意味があると述べる。
「たとえば、横浜市民がそれぞれの地域やそれぞれの支持政党の中での市議会議員に対して、『不信任決議を出さないと、次の市議会議員選挙で投票しないぞ』などと市議会議員に働きかけて、不信任決議を出させるという方法が考えられます」
なお清水氏は、地方自治法を改正し、長の解散権に一定の制限を加えることも選択肢となりうると提言する。
「私は、たとえば、首長の非違行為や犯罪行為等、一定の不祥事が原因で議会が不信任決議を可決した場合などについて、首長の議会解散権を認めないという法改正も、検討の余地があると思っています」
結局のところ、清水氏の見立てによれば、山中市長が自ら辞職しない限り、現実的な解決策は限られている。市民にとっては、リコール、不信任決議への働きかけ、あるいは3年後の市長選挙を待つという選択肢しかない。山中市長の“最終決断”が注目される。
<清水聖士(しみず・きよし)>
1960年、広島県生まれ。麗澤大学客員教授。早稲田大学卒業後、伊藤忠商事、米ウォートンスクールMBAを経て、外務省へ。2002年、前市長逮捕により行われた鎌ケ谷市長選挙に選挙権もないままインドから落下傘候補として出馬。763票差という大激戦を制し、市長に就任。以来、5期19年にわたって同市市長、千葉県市長会会長も務める。2021年、任期途中で市長を辞し、衆院選に出馬するものの…。著書には市長時代をつづった「市長たじたじ日記」(三五館シンシャ)がある。
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