働く親が支払う「保育料」なぜ“必要経費”と認めない? 国は“法律にないルール”を裁判で主張…税法の専門家2名が批判【第6回口頭弁論】
個人事業主である弁護士らが国を相手取り、保育料を所得税の必要経費と認めるよう求めている訴訟で、6月8日、東京地方裁判所で第6回口頭弁論が開かれた。
本訴訟は、原告らが行った2023年度分の確定申告において、保育料を必要経費として認めなかった税務署の判断は違法であるとして、その取り消しを求め、2025年2月25日に提訴したものである。
従来の課税実務では、保育料は事業と無関係な「家事費」(所得税法45条1項1号)と解釈され、事業所得の計算上、必要経費(同法37条1項)への算入が認められてこなかった。その理由は、必要経費の要件として事業との「直接」の関連性が必要であり、保育料は「育児のための支出」なのでこの要件をみたさないというものである。
これに対し原告側は、保育料は「子の親が就労時間を確保するための対価」であり、事業を行う上で不可欠な「必要経費」にあたると主張し争っている。
今回の期日において、原告側は、税法学者2名(三木義一・青山学院大学名誉教授、藤間大順・神奈川大学准教授)の意見書を提出し、保育料を経費と認めない現在の税務実務は、所得税法の条文や立法趣旨に反するとの主張を行った。
専門家(税法学者)2名の意見書を提出し反論
両意見書に共通する重要な指摘として、「弁護士会懇親会費事件」東京高裁判決(平成24年(2012年)9月19日)が挙げられた。
同判決は、弁護士会の役員が支出した懇親会費の一部について、必要経費への算入を認めたものである。
その判決理由において、「直接」という要件について、法律の条文から読み取ることはできず、その意味も不明確であるとして明確に否定された。なお、最高裁は被告国側の上告を不受理とし(平成26年(2014年)1月17日決定)、判決は確定している。
その他、両意見書の要点はそれぞれ以下の通り。
【三木義一・青山学院大学名誉教授の意見書】
- 所得税法に「直接」の要件なし:所得税法の条文は、売上原価には「直接要した費用」とあるが、販管費にはその限定がない。法律にない「直接関連性」という要件を付け加えて経費を認めない実務は、租税法律主義(※1)に反する。
- 保育料は「家事費」ではない:子育て自体は私的生活だが、「保育料」は親が働くために子どもを預けることで初めて発生する費用。業務を行わなければ生じない支出であり、単なる家事費とは性質が異なる。
- 認可保育園制度の前提:認可保育園の利用には、就労などを理由とする行政の「保育の必要性」認定が必要。この制度自体が、保育料が事業(就労)について生じる費用であることを前提としており、「必要経費性の調査済みの支出」と評価できる。
※1:国民に税金を課すには、国民代表機関である国会が制定する法律の根拠がなければならないという原則(憲法84条)
【藤間大順・神奈川大学准教授の意見書(要点)】
- 立法趣旨と裁判例の動向:現行法の基礎となった1963年の税制調査会答申は、所得形成に直接寄与しない経費も広く認める方針を示していた。また、「弁護士会懇親会費事件」東京高裁判決(上述)以後、近年の裁判例(※2)においては「直接の関連性」要件を維持するものもあるが、実際にはその重要性がやや薄れ、「必要性」「関連性」について個別具体的な事情に即した判断を行うように推移してきたと理解できる。
- 抽象論による判断の誤り:「育児費用だから家事費」という国の主張は抽象的すぎる。経費にあたるかは、納税者の業務内容、支出の目的、収入獲得への寄与などを具体的に認定して判断すべきであり、一般論だけでは業務との関連性を否定できない。
※2:長野地裁平成30年(2018年)9月7日判決(ロータリークラブ事件)、大阪地裁令和3年(2021年)3月4日判決、大阪地裁令和6年(2024年)3月13日判決など
原告は保育料の性質について実態に即した判断を求める
原告は、これら専門家の意見書の内容を敷衍(ふえん)し、以下の通り主張した。
①所得税法の条文には、販売費や一般管理費などの経費について「直接」という要件は書かれていない。法律にない要件を付け加えて経費算入を認めないことは、租税法律主義に反する。
②現行の所得税法が制定される前提となった1963年の税制調査会答申では、所得の形成に直接寄与しない経費であっても「できるだけ広く」経費として認めるべきという考え方が示されている。現在の実務は、この立法趣旨以上に必要経費の範囲を狭く解釈している。
③「保育料は育児費用だから家事費である」という国の主張は抽象的すぎる。支出が必要経費にあたるか否かは、その支出がどのような目的で行われ、収入獲得にどう寄与したかといった個別具体的な事情を総合的に考慮して判断すべきである。
④認可保育園の制度自体が、親の就労などを理由とする「保育の必要性」の認定を受けることを前提としている。特に就労を理由とする場合、子どもを家庭で保育しているだけでは保育料は発生しない。保育料は仕事をするために初めて発生する費用であり、単なる家事費とは異なる。
原告は次のように訴える。
「『育児だから経費にならない』という抽象論ではなく、実際にその支出がどのような目的で行われ、どのような役割を果たしているのかを見て判断してほしい」
次回期日は9月以降に開かれ、原告2名に対する本人尋問が行われる予定である。
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