戦後初の「死後再審」が認められた理由 弁護士が指摘する司法の“異常事態”とは?

弁護士JP編集部

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戦後初の「死後再審」が認められた理由 弁護士が指摘する司法の“異常事態”とは?
死後再審を認めた大阪高裁。検察の特別抗告により、再審開始は最高裁の判断に委ねられた(LOCO/PIXTA)

滋賀県蒲生郡日野町で1984年に起きた強盗殺人事件「日野町事件」で無期懲役刑が言い渡され、服役中に死亡した元被告に対する「死後再審」が2月27日、大阪高等裁判所で認められた。

検察は3月6日に特別抗告し、再審の判断は最高裁判所に委ねられることになったが、元被告の死亡後に裁判がやり直される「死後再審」が高裁によって認められたのは戦後初となり、衝撃的なニュースとして新聞各社が大きく取り上げた。

しかし、そもそもなぜ「死後再審」は珍しいのか。また、なぜ大きな話題になっているのだろうか。刑事事件に多く対応する杉山大介弁護士に話を聞いた。

「死後再審」の意義

――通常の再審請求も“開かずの扉”や“針の穴にラクダを通すより難しい”などと言われることがあります。それと比べても「死後再審」は難しいものでしょうか。

杉山弁護士:基本的に再審が認められない理由は、3回の裁判で審理が尽くされており、その間に証拠も調べつくされていて、もう新しい事情なんてないだろうとみなしているからです。当事者が亡くなったら、余計その状況は深まるため、さらに難しいと思います。

――「被告が亡くなっているのに再審をする意味があるのか」という意見もあると思います。今回の決定に関わらず「死後再審」にはどのような意義がありますか。

杉山弁護士:司法の不正義の是正です。間違った裁判があった疑いがあり、当事者の生きている間にそれが正されなかったなんて、司法の信頼そのものを損なう重大事案です。死後再審が必要になった時点で、過去の裁判に関わった人間全員が恥じ入るべき異常事態です。

もし「冤罪」だった場合…

――再審が認められると、一般的にその後の裁判で「無罪」となる可能性が高いと聞きます。過去の冤罪事件では、元被告らに対して刑事補償法に基づいて国家賠償がなされていますが、元被告が亡くなっている場合は、遺族に対して国家賠償がなされるのでしょうか。

杉山弁護士:刑事訴訟法で手続きが定められてもいない手続きを例外的に認め「再審」を行うくらいなので、無罪としてのかなり確かな証拠が出ているのだとは、一般的にも言えますね。

刑事補償法は相続人についても規定が設けられており、当然に補償を請求できます。しかし、(元被告が)死亡している場合は、補償の期間がこれ以上増えないことになるから、補償の額は少なくなります。

――名誉回復がかなわぬまま亡くなったということにおいて、賠償内容や賠償額に何らかの影響がおよぼされる可能性はあるのでしょうか。

杉山弁護士:補償以上の慰謝料を求めるなら、国家賠償法になるのでしょうが、検察官・裁判官の違法行為・故意過失まで立証するのは容易ではないでしょう。

特別抗告は「犯罪者に裁判の開催可否を委ねる」ようなもの?

――今回、「死後再審」が大阪高裁によって認められたこと、またその後検察が特別抗告を行ったことについて、杉山弁護士はどのように感じましたか?

杉山弁護士:「死後再審」に限らず、再審が認められることは、当時の裁判が機能していなかったということで国全体の恥だと思います。検察庁は実体の議論に入らせないというくだらない妨害をやめて、問題に真摯(しんし)に向き合うべきです。

捜査機関である検察が、裁判官や弁護士に証拠を見せていなかったことで事実が正しく審理されなかったという問題が起きているのに、その原因を作った側が手続きを妨害できてしまう。これは、犯罪者に裁判の開催可否を委ねるようなバカげた話だと思います。

検察が見せなかった「新証拠」

日野町事件をめぐる公判では、殺害を裏付ける直接証拠がなく、元被告が捜査段階で関与を認めた「自白」が確定判決の決め手となった。しかし公判で、元被告は警察官から暴行や暴言を受けたために虚偽の自白をしたとして、一貫して無罪を主張していた。

大阪高裁は、再審請求後に初めて開示された「引き当て捜査」(※)の様子を撮影した写真のネガフィルムに不自然な点があるとする弁護側の訴えを認め、「誘導の可能性も含めて疑問が生じた」と指摘。さらに、元被告のアリバイを裏付ける知人の新たな証言などを「無罪を言い渡すべき新証拠」と判断した。

(※)被告人が事件現場などを案内し、捜査員らに事件当時の状況を説明する捜査のこと。

ネガフィルムには、元被告が人形を使って死体遺棄当時の状況を再現する場面で、スムーズに再現できず何度も繰り返し行っていることが伺われる様子が映されていた。

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