16億円詐欺容疑…テレビ出演映像で信用獲得か 医療ベンチャー元社長を待ち受ける“量刑だけではない”重すぎる法的責任
医療系スタートアップ企業の元社長が、実際には稼働していない医療系オンラインセキュリティサービスについて虚偽の説明を行い、投資ファンドから約16億3000万円をだまし取ったとして詐欺の疑いで13日、逮捕された。
報道によると、逮捕されたのは医療関連会社「MTU」の元社長、原拓也容疑者(38)。元社長は、実際は売り上げ0円だったサービスについて「年間売り上げ8億円」「50の医療施設で導入」などと虚偽の説明を行い、投資会社「J-STAR」傘下のファンドに自社株式を購入させたという。
元社長はサービスに関する偽の概要説明書を提出したほか、自身が出演したテレビ番組の映像を見せるなどしてファンドの担当者を信用させていたとみられる。取り調べに対しては「詐欺と言われるようなことはしていません」と容疑を否認しているという。
今後、刑事裁判に発展した場合、巨額の被害額と計画的にも思える手口は量刑にどのような影響を与えるのか。また、だまし取られた16億円超をファンドが取り戻すことはできるのだろうか。
被害額「16億円超」刑事裁判での影響は
企業法務や刑事事件を多く担当する椎名英之弁護士は、今後元社長が起訴された場合には「被害額の大きさや犯行の計画性が、量刑を左右する重要な要素となる」と指摘する。
「量刑の基礎となる『情状』には、犯罪に至った動機、手段、結果、計画性などの諸要素が含まれています。
中でも、結果の重大性は、犯罪の客観的重さを判断する中心的な要素として考慮されますので、量刑に極めて大きな影響を及ぼします」
今回の事件は被害額が16億円超と巨額であり、犯罪の結果として重く評価される可能性があるという。
さらに偽の概要説明書を作成したり、自身の出演するテレビ番組の映像を利用したりといった「犯行の計画性」についても、椎名弁護士は「量刑を左右し得る」と説明する。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑(刑法246条)」であり、罰金刑は規定されていない。起訴され有罪になれば、執行猶予がつかない限り実刑となる。
16億円超は取り戻せるのか? 被害回復の行方
一方で被害者、そして読者の多くにとっても最大の関心は、元社長の処遇よりも16億円超を取り戻せるかではないだろうか。
J-STARおよび傘下のファンドは、だまし取られた16億円超を取り戻すためにどのような手段を講じることができるのか。
椎名弁護士は、まず「元社長個人に対する損害賠償請求」が考えられるという。
「交渉がまとまれば示談に基づき被害弁償が行われることになりますが、交渉で合意に至らない場合は民事訴訟を提起することになります。判決等が出たにもかかわらず、その内容に従った支払いが行われない場合、強制執行を行うことができます」
しかし、椎名弁護士は「被害額が16億円超だとすると、元社長個人から回収することは難しいかもしれません」と現実的な可能性について言及する。
そこで次にファンドが取りうる対応としては、MTU社に対する損害賠償請求が考えられるという。代表取締役が職務上、他人に損害を与えた場合、会社もその責任を負うためだ。ただし、これもMTUに十分な資力がなければ回収は難しい。
元社長は詐取した金の一部を自身の借金の返済に充てていたと報道されており、被害額をどこまで回収できるかは不透明だ。結局のところ、16億円超を取り戻せるかどうかは、元社長やMTUにどの程度の資力があるかにかかっている。
元社長を待ち受ける厳しい責任
元社長は逮捕以前の4月9日付で、MTUの代表取締役および取締役から解任されている。MTUは解任の理由を「業務執行について、重大な疑義が生じた」と説明していた。
前述した通りMTUはファンドから損害賠償を求められる可能性もあるが、「MTUが元社長に対して損害賠償を請求する可能性もある」と椎名弁護士は話す。
「架空の売上を計上し、虚偽の説明書類を提出してファンド会社に自社を売却した行為は、取締役としての善管注意義務および忠実義務に違反する行為であると考えられます。
MTUは、この不正行為の調査に要した費用や、不適切な会計処理によって会社が被った具体的な損害について、損害賠償を請求することが可能ですので、元社長がMTUから訴訟を提起される可能性は十分に考えられると思います」
元社長は今後、刑事責任だけでなく、投資ファンドや古巣の会社から民事責任を追及される可能性もある。16億円超の行方とともに、その責任の所在が厳しく問われることになりそうだ。
取材協力弁護士
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