神奈川県警巡査の拳銃自死、2審で遺族逆転敗訴 「安全管理上の責任」最高裁で判断へ

弁護士JP編集部

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神奈川県警巡査の拳銃自死、2審で遺族逆転敗訴 「安全管理上の責任」最高裁で判断へ
2審の判決後、記者会見に臨む古関さんの両親(3月7日 霞が関/弁護士JP編集部)

2016年に神奈川県警の巡査、古関耕成さん(当時25歳)が拳銃を使い自死した事件を巡り、古関さんの遺族が神奈川県に賠償を求めた裁判で、東京高裁は遺族側の訴えを認めた1審判決を取り消した。

遺族側は判決を「不当」とし、最高裁に上告する意向を示している。

争点は「上司らが古関さんの精神不調を把握し得たか」

事件が起きたのは2016年3月12日。古関さんは日常的にパワハラを受け、事件発生当時は精神的に追い詰められた状態だったという。

裁判の争点になったのは「古関さんが精神に不調をきたしていたことを上司らが把握し得たかどうか」。

遺族側は、本来であれば古関さんが勤務していた泉警察署長および管理監督者らは、神奈川県が制定した「精神に不調を来たしている等の警察官に係る拳銃等取扱要綱」などのルールに基づき、古関さんの精神状態について把握し、状況によっては拳銃を携帯させないよう判断する義務があったのにもかかわらず「漫然と拳銃を携帯させた」として、上司らに安全配慮義務違反があったと主張している。

一方で県側は、事件直前に古関さんを叱責した警察官が「(古関さんは)落ち着きを取り戻している状況にあった」、事件当日の朝に拳銃を渡した警察官が「(古関さんは)非常に元気な姿だった」などと証言していることから、上司らが古関さんの精神状態について認識していなかったとして、安全配慮義務違反とは言えないと主張。

1審の横浜地裁では遺族側の主張が認められ、県側に約5500万円の支払いを命じる判決が言い渡されたものの、2審の東京高裁は県側の主張を認め、遺族側の逆転敗訴となった。

2審判決に遺族代理人は「全面的に警察官たちの証言に依存」と批判

この結果を受け、遺族側は最高裁へ上告する予定。遺族の代理人を務める笹山尚人弁護士は、上司らが古関さんの精神状態を把握していた根拠として、事件直前の3月6日から7日にかけて起こった以下の事実を改めて強調した。

  • 交番で先輩が古関さんを叱責した
  • 古関さんを交番に放置した
  • 警察署に連れ帰られた古関さんに上司が叱責した
  • 上司らが古関さんの家族に対しては取り繕う発言をして自分たちには責任がないかのように振る舞った
  • 夕刻の時間帯に秋田県にいる母親に対し迎えに来てもらいたいと上司が連絡した
  • 翌7日に上司が面会の上姉に対し古関さんを引き渡した
  • その際にカウンセリングカードを渡した

また笹山弁護士は、2審の東京高裁が上司らの証言を認めたことについて「全面的に警察官たちの証言に依存するかたちで判断している」と批判した。

相次ぐ警察官の拳銃による自死事件

判決後、記者会見に臨んだ古関さんの母親は「この裁判によって組織の改革がなされることを願っていましたが、(今回の判決は)有事のときの組織としての対応の改革も何らなされないのではという印象でした」と涙ながらに語った。

また父親は「言語道断の不当な判決。あまりにも息子の自死を軽く見た裁判に憤りを感じる」と沈痛な面持ちを浮かべた。

警察官による拳銃を使った自死事件は本件だけではなく、今年に入ってからも、1月16日に警視庁高島平署内で男性巡査部長(40歳)、1月27日に東京・永田町のビル内で警視庁機動隊員(39歳)、2月8日に三重県警四日市北署内で巡査(20代)が自殺を図るなど相次いで発生しており、警察の拳銃取り扱いに対する社会的関心は高まっている。

笹山弁護士は「警察官に拳銃を携行させる際の安全管理上の責任について判断を求める事例としては、おそらく本件が最初の事例になるだろうと考えられる。裁判所としても厳密に審査してほしい」と語った。

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