警察の「懲戒処分」“異性関係”がもっとも多いワケ 元警察官が指摘する不祥事の“裏事情”とは?

弁護士JP編集部

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警察の「懲戒処分」“異性関係”がもっとも多いワケ 元警察官が指摘する不祥事の“裏事情”とは?
警察の懲戒処分者数は“多い”…?(マハロ / PIXTA)

2022年中に全国で懲戒処分された警察官および警察職員は276人で、前年から72人増えたことが警察庁の発表で分かった。報道によれば、懲戒処分者数が増加するのは10年ぶり。同庁は一因として、新型コロナの行動制限緩和による外出増加を考えているという。

処分理由ダントツ1位は「異性関係」

※カッコ内の人数はいずれも前年比

公表された処分理由としてもっとも多かったのは「異性関係」で93人(34人増)、次いで「窃盗・詐欺・横領等」が40人(10人増)、「交通事故・違反」が29人(6人増)だった。異性関係には、盗撮やセクハラなども含まれているという。

処分の種類別では、重い順に免職27人(4人増)、停職47人(2人減)、減給125人(42人増)、戒告77人(28人増)。また、逮捕者は57人(16人増)だったそうだ。

警察庁「令和4年中の懲戒処分者数について」(https://www.npa.go.jp/news/release/2023/20230203003.html)より

なお業務中の行為によって処分されたのは87人(19人増)、プライベートの行為では189人(53人増)だった。

警察庁「令和4年中の懲戒処分者数について」(https://www.npa.go.jp/news/release/2023/20230203003.html)より

都道府県別では、トップが千葉県警で35人、次いで警視庁(東京都)31人、大阪府18人。一方、懲戒処分者数が0人だったのは山形県、福井県、高知県、佐賀県、大分県、宮崎県の6県だった。

警察で「不祥事」なぜ多い? 元警察官に聞くと…

警察官や警察職員の「異性関係」トラブルといえば「男女バディ体制から不倫関係に発展しやすい」「昔ながらの男尊女卑的な体質が残っている」といったイメージを抱く人も少なくないのではないだろうか。

「たしかに、一部でそういう人がいるのは残念なことです。しかし警察だから特別多いというよりは、不祥事がより表に出やすい立場にあるというのが大きいのかなと思います」

そう語るのは、警察官として交番勤務、刑事などを経験し、現在は病院で働きながら警察官志望者のための採用試験対策やユーチューバーとしての活動をするやまよしさん。

「民間企業であれば、異性関係の問題があったとしても当事者に処分を与えて、会社が公表するようなことはまれかもしれません。しかし警察は公的な立場で仕事をしている以上、組織として身内の処分を隠せば、さらに信用を失うことになってしまいます。

ちょっとしたことでも処分を与えて公表するという姿勢の根底には、一時的に信用を失うリスクがあったとしても、一般市民にとって身近な存在でありたいという思いがあるのではないでしょうか」(やまよしさん)

また、やまよしさんは不祥事が表に出やすい背景として、警察の「組織的な構造」についても指摘する。

「たとえば同僚の不倫関係を知ってしまった以上は、見過ごせば警察の信用失墜行為に加担したということで、自分も処分される可能性があります。もちろん、正義感から告発する人もいますが、実情としては、自分より上の立場の人に報告せざるを得ないのです」(やまよしさん)

全国の警察官「26万人」が意味すること

やまよしさんは「問題行動をするのはあくまで一部の人」としながらも、異性関係のトラブルが発生する背景として「職務上、他人のプライベートに踏み込まざるを得ない環境にある」ことを指摘する。

「たとえば相談を受理した場合、相手の名前はもちろん、何歳なのか、どこに住んでいるのか、どんな仕事をしているのかなど、プライベートな情報を聞くことになります。また、話を聞いているうちに相手の人柄も分かってきます。親身に相談に乗っているうちに好意を抱いてしまったら、“職務”と称して相手に会いに行くなど、職務上の立場を簡単に悪用できてしまうんです」(やまよしさん)

警察官は全国に約26万人おり(総務省「令和3年 地方公務員給与の実態」より)、民間企業最多のトヨタ自動車の従業員数が約7万人であることを考えれば、母数そのものが大きいことは一目瞭然だ。

「警察官という職業に就く以上、たとえプライベートの時間でも『自分は警察官なんだ』という自覚を持って生活しなければいけないということは、警察学校でもみっちり教え込まれます。しかし、全国にはこれだけ多くの警察官がいるわけですから、いつしかその心得が消えてしまう人も出てきてしまうのかもしれません。

ただ、ほとんどの警察官は、自分を律しながら一生懸命働いています。できれば一般市民の方には、不祥事ばかりではなく、そちらにも目を向けていただきたいです」(やまよしさん)

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