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アニマルカフェ「O-157」検出、WWF覆面調査で発覚 「インバウンド」「ロケ企画」でも人気だが…野生動物の危険性“軽視”に警鐘

アニマルカフェ「O-157」検出、WWF覆面調査で発覚 「インバウンド」「ロケ企画」でも人気だが…野生動物の危険性“軽視”に警鐘
カワウソは硬い物も噛み砕く歯を持っており“傷害リスク”の高い「野生動物」だ(taka / PIXTA)

サルやフクロウ、ヘビなどの野生動物(※)を利用する「アニマルカフェ」が、東京や大阪など都市圏を中心に人気を集めている。

※ 長年にわたって人に飼育・交配されてきた犬、猫、うさぎ、牛、豚などの動物以外の哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類のこと。

こうした「アニマルカフェ」は、2019年時点で国内100施設を超え、展示されている動物は400種類以上に上っていたという。

施設では、動物との触れ合いに加え、個体の販売、写真撮影サービス、さらには飲食物の提供が行われている場合もある。自国で飼育などが制限されている珍しい動物とも“触れ合い”ができるとあって、インバウンド客からの注目度も高い。

しかし今年10月、WWFジャパン(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン)は北海道大獣医学研究院と合同で実施した、野生動物を扱う「アニマルカフェ」の“リスク”について調査結果を公表した。

その中では、不適切な管理による野生動物の保全上のリスクのほか、人への傷害リスク、人獣共通感染症のリスク等が指摘される店舗が複数存在していることが明らかになった。

「保全リスク」「傷害リスク」など4項目を調査

WWFジャパンと北海道大は、今年6~7月にかけて、東京近郊で野生動物を扱う「アニマルカフェ」25施設で調査を実施。先月3日にその結果を公表した。

報告書によれば、主な調査項目は以下の4点。

①保全リスク(絶滅のおそれのある野生動物の展示・販売の有無など)
②傷害リスク(傷害事故防止のためのリスク説明の有無など)
③感染リスク(消毒液や手洗い場の設置状況、動物が保有する細菌の確認など)
④法律の遵守状況(動物愛護管理法・食品衛生法の遵守状況など)

このうち、③感染リスクの調査では、動物が保有する細菌の確認のため、覆面調査員が滅菌処理した布で動物の体の表面をなで、その布を用いて微生物学的解析を行ったという。

4項目すべてで“問題”発覚

調査の結果、各4項目それぞれで問題が浮き彫りになった。

①保全リスク
調査対象のアニマルカフェで展示されている動物個体のうち31種(15%)・459頭(27%)、販売されている動物個体のうち12種(12%)・308頭(39%)が、レッドリストに掲載されている絶滅危機種に該当していた。

②傷害リスク
接触には高い危険性が伴うと認識されている動物種を展示していた施設は23施設(92%)に上った。また、野生動物と接触するにあたり、接触方法と傷害リスクの説明を両方とも実施していなかった施設は11施設(44%)あった。

③感染リスク
24施設(96%)で消毒液が設置されていたが、手洗い場を設置していたのは14施設(56%)にとどまった。また、入店時に従業員が手指消毒を指導する割合は23施設(92%)と高かったが、退店時に手指消毒を指導するのは14施設(56%)だった。

調査員の観察により、13施設(52%)では、脱毛・脱羽、皮膚炎、爪の過長など動物の保健衛生状態に問題が認められた。獣医師による定期的な健康診断を実施していたのは、かかりつけ獣医がいると回答した施設23店舗のうちわずか3施設(17%)だった。

さらに、動物が保有する細菌の確認のため行った解析では、一部の施設の動物からO-157に代表される腸管出血性大腸菌(16%)や、サルモネラ属菌(8%)、薬剤耐性菌(28%)といった病原性細菌が検出された。

④法律の遵守状況
営利目的で動物の取り扱いを行うアニマルカフェは、第一種動物取扱業者に該当する。この第一種動物取扱業者には、事業者の登録情報を明示する標識の掲示義務が課されている(動物愛護法18条)。しかし、実際に標識の掲示をしていた施設は全体の約半数にとどまった。

また、販売個体には生産地等の表示義務がある(動物愛護法21条の4)が、89%の施設が販売個体の一部のみの表示、あるいはまったく表示していなかった。

さらに、食品衛生法(施行規則)においては、食品を取り扱う区域での動物の飼育を禁じており、衛生管理の徹底が求められている。しかし、今回の調査対象施設で、飲食物を提供する9施設のうち1施設(11%)において、食品を取り扱う区域に動物が存在していた事例が確認された。

人気根強い“動物との触れ合い”

一方で、野生動物を扱うアニマルカフェに対しては、好意的な声も少なくない。

SNSなどでは、アニマルカフェを訪れた人の「フクロウを腕に乗せてみた」「はじめてヘビ触った」といった写真付きの投稿も多く見受けられる。

また、YouTubeやテレビ番組のロケ企画などでもアニマルカフェを訪れるコンテンツは多く制作されている。冒頭でも紹介した通り、海外では動物と触れ合える店舗が珍しいことから、訪日外国人が「日本ならではの文化」としてカフェを訪れている現状もある。

このように動物が「癒しコンテンツ」として親しまれている風潮に対し、今回の調査を行ったWWFジャパン自然保護室野生生物グループ浅川陽子氏はこう問題を指摘する。

「『かわいい』『癒される』と人気を集める動物の中には、国外から違法に持ち込まれたとして空港で差し止めが横行している動物や、野生個体の乱獲が問題視されている動物が含まれています。

このように消費者が野生動物との触れ合いを求めることは、野生動物の絶滅の危機を高めるおそれがあります。アニマルカフェは野生動物と消費者の接点になっています。施設での触れ合い体験が、消費者の需要をさらに拡大させ、その危機を加速させることが心配されます」

そのうえで、アニマルカフェを利用したいと考える消費者に向け、「野生動物との触れ合いには、怪我をしたり、病原体に感染するといったリスクがあることを認識し、触れ合いに不向きな動物ついては、接触を避け、距離を保っていただきたいです」と呼び掛けた。

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

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