給料激減で「副業させて」→会社「ダメ」4回申請もすべて“不許可”に 「生活が厳しい…」従業員の訴えに裁判所の判断は
社員
「副業したいのですが許可をいただけませんか」
会社
「ダメです」
社員のアルバイト申請を、会社がことごとく却下した事件を解説する。
「生活が厳しいのに...なぜバイトができないんだ」と社員が提訴。その結果、裁判所は「バイトをしても仕事に支障ない」として、会社に対して「社員に慰謝料30万円を払え」と命じた。
法律上、副業は「原則自由」であり、禁止できるのは「合理的理由があるときだけ」ということを押さえていただきたい。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
給料が下がる
関西地方の運輸会社に勤めていたXさんは「今の給料では生活が厳しい...」と悩んでいた。
というのも、Xさんの給料がダダ下がってしまったからだ。
Xさんの給料は、入社から約13年は手取りで約45万円あった。長距離の定期便を運行していたからだ。しかし、その後、特定のエリア(京阪神)だけを回る担当となり。手取りが約30万円に減ってしまった。
その約4年後、勤務日が少なくなり・・・手取りが約25万円になってしまった。
しかも、Xさんには「離婚した妻への養育費、生活費の支払い」「住宅ローン」「両親への仕送り」などの負担がのしかかっていた。
アルバイトの申請
そこで、Xさんは「アルバイトをしたい」と会社に申請した。勝手にバイトをしなかったのは、就業規則に「従業員は、会社の(中略)承認を受けないで(中略)他の事業に従事し(中略)てはならない」という規定があったからだ。
Xさんは約1年3か月にわたって合計4回、アルバイト申請をしている。
- 1回目の申請:運輸会社での構内仕分け作業(AM8:30〜PM12:00)
- 2回目の申請:同じく、運輸会社での構内仕分け(AM1:00〜AM5:00)
- 3回目の申請:同じく、運輸会社での構内仕分け(日曜だけ、AM10:00〜PM2:00)
- 4回目の申請:ラーメン屋(日曜だけ、PM6:00〜PM9:00)
しかし、会社は、これらの申請をすべて却下した。そして、Xさんは提訴に至る。
裁判所の判断
Xさんの勝訴である。
裁判所は「3回目と4回目(の申請)はバイトしても問題なし」「別に本業に支障ない」旨認定し、会社に対して慰謝料30万円の支払いを命じた。
▼ 副業は原則、自由
これが大原則である。裁判所は、下記のとおり述べている。
- 労働者は勤務時間以外は、事業場の外で自由に利用することができる
- 使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許さなければならない
基本、勤務時間外に何をしようが自由なのである。ただし、例外的に副業を禁止できる場合もある。
▼ 副業を禁止できるケース
今回の裁判や過去の裁判において、以下のようなケースは「副業を禁止されても仕方ない」と判示されている。
× 労務提供上の支障がある場合
× 業務上の秘密が漏えいする場合
× 競業により会社の利益が害される場合
× 会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
▼ Xさんの勤務先の就業規則について
前述のように、Xさんの勤務先の就業規則には、副業が許可制であるとの規定があった。
裁判所は「許可制自体は別に問題ない」とした上で、「合理的理由なき不許可は違法である」旨述べた。
▼さて、Xさんのバイト申請は?
Xさんのバイト申請の内容をふまえて、裁判所は下記のとおり判断した。
- 1回目と2回目の不許可は仕方ない。毎日、こんだけ働いたら危ない(過労防止)
- でも、3回目と4回目は許可すべきだった。週1で3〜4時間だから問題なし
そして、裁判所は「3回目の4回目の不許可は不法行為である。会社はXさんに慰謝料30万円を払え」と命じた。
最後に
副業は、生活を支えるため、あるいは自分のスキルを広げるためにするものでもあり、労働者の当然の自由である。
会社が副業を制限できるのは、あくまで合理的な理由がある場合に限られる。過労や情報漏洩、競業など、具体的なリスクがあるならともかく、単に「副業はダメ」という一律禁止は許されない。参考になれば幸いだ。
取材協力弁護士
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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