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「私の時給は最低賃金以下」医師らが診療報酬“10%以上”の大幅引き上げ求め集会 経営難による地域医療“崩壊”の危機を訴える

「私の時給は最低賃金以下」医師らが診療報酬“10%以上”の大幅引き上げ求め集会 経営難による地域医療“崩壊”の危機を訴える
この日集会に参加した国会議員や医療従事者ら(10月30日 都内/弁護士JPニュース編集部)

10月30日、東京都内で「地域医療をまもろう!診療報酬の大幅引き上げを求める大集会」が開催された。

全国保険医団体連合会(保団連)が主催したこの集会には、全国から医師や歯科医師、医療従事者ら530人が参加(主催者発表。現地とオンラインの合計)。診療報酬の大幅な引き上げを訴えた。

集会で配布された資料には、医療機関の深刻な経営状況を示すデータと、全国の医療現場から「このままでは地域の医療機関がつぶれてしまう」「安全・安心の医療提供体制が維持できない」といった悲痛な声が並んだ。

危機的状況、このままでは地域医療が崩壊

医療法人の経営状況は深刻化の一途をたどっている。

厚生労働省が所管する医療法人経営情報データベースの2023~24年度データ分析では、病院の経常利益率(平均値)はマイナス0.2%と赤字に転落。医科の無床診療所も9.3%から6.2%へと大幅に低下した。

病院の経常収支の赤字割合は41.5%から49.4%に増加し、約半数が赤字経営に陥っており、一般病院に限れば、赤字割合は50.8%にまで上昇。

保団連の竹田智雄会長は「多くの医療機関で経営危機が起きている。この危機的状況が続けば地域の医療提供体制は崩壊する」として緊急財政措置と診療報酬の大幅引き上げが必要だと訴えた。

「私の時給は最低賃金以下だ」

集会資料には、「地域の医療機関を守るため、緊急財政措置と診療報酬の大幅引き上げを求める医師・歯科医師要請署名」に寄せられた現場の声が多数掲載された。

千葉県の医師は「今年8月31日に倒産閉院しました。コロナ前より30%以上の減収で、小児科閉鎖、内科外科眼科も縮小しましたが、それでもダメでした」と訴える。新潟県の医師は「コロナ禍で、コロナ患者を1200人治療した。発熱外来で外来と在宅を担ってきたがもうもたない。次のパンデミックに協力できる体力がない」と窮状を吐露した。

東京都の歯科医師からは「私の時給は最低賃金以下だ」との意見が寄せられ、同じく東京の医師は「近年の保険点数の引き下げと物価上昇の中、職員の給与も上げなければ他産業へ流れてしまうため、自分の給与を削っている」と明かした。

また、岡山県の医師も「固定費は日々確実に上昇している。検査試薬から洗剤、ペーパータオル、注射針、採血管も複数回値上がりしている。一方で診療報酬は全く上がらず、医療DXという名のもと、機器の購入費、固定費、機器の保守料などで固定費が急増し、消費税も負担させられている。国は本気で診療所を潰す気なのだろうか」と怒りをあらわにした。

与野党の国会議員が出席

集会には自民党、立憲民主党、国民民主党、無所属の国会議員も出席。自民党の瀬戸隆一(せと・たかかず)衆議院議員は「今回の診療報酬改定は非常に重要になる。公定価格をしっかりと引き上げるために頑張りたい」と述べた。

また、芳賀道也参議院議員(無所属、国民民主党・新緑風会)は「与党系野党系問わず、医療系の団体からは『12月の資金繰りに苦しんでいてボーナスが出せない』との声が聞こえてくる」として、「やはり、大幅な報酬引き上げ以外に、この状況を解決する方法はない」と断言した。

共産党の小池晃参議院議員は、高市早苗首相が10月24日の所信表明演説で「診療報酬・介護報酬については、賃上げ・物価高を適切に反映させていきますが、報酬改定の時期を待たず、経営の改善及び従業者の処遇改善につながる補助金を措置して、効果を前倒しします」と述べたことを受けて次のようにコメントした。

「総理大臣が所信表明演説で、処遇改善を明言したのは、私は初めてだと思いますし、(医療介護分野で働く人にとって)チャンスではないでしょうか」(小池参議院議員)

「10%以上の引き上げ」政治に要求

集会の終盤には参加者からアピール案が提出され、採択された。

アピール文では「急激な物価高騰のもと、医療機関の経営の安定化や医療従事者の賃上げによる生活保障と人材確保、これらを前提とした地域医療提供に大きな困難が生じている」「公定価格である診療報酬の大幅な引き上げが行われない中で、民間の賃上げの動向とは対照的に、医療現場で働く人の賃上げは置き去りになっている」と現場の声を改めて指摘。

「安心して暮らせる地域をまもるために、地域の医療機関をまもり、医療現場で働くすべての人が、人間らしく、誇りをもって働ける環境に改善することが必要不可欠」として、政治の責任で次の2点を実現するよう訴えた。

①臨時国会ですべての医療機関経営を支える財政措置を行うこと
②2026年診療報酬改定で、基本診療料を中心に少なくとも10%以上の引き上げを行うこと

アピールの採択後、参加者らが「診療報酬を大幅に引き上げよう」「すべての医療従事者の賃上げを」「すべての医療機関に財政措置を」といったシュプレヒコールをあげ、集会は締めくくられた。

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