“撮り鉄”が駅員に罵声、近鉄・大和西大寺駅での動画が物議 「安月給」「ぶっ殺す」ひどすぎる暴言、罪に問える? 【弁護士解説】
奈良県にある近鉄・大和西大寺駅の構内で、電車を撮影しようと集まった「撮り鉄」とみられる男性らが駅員に罵声を浴びせる動画が、SNSに投稿され、拡散されている。
駅員が男性らに「危ないねん」と注意すると、男性らがその駅員と、少し離れた場所に立っている駅員に対し暴言を吐いた。
「社員の質もそんなに下がったんか」「難聴かよボケが」「安月給」「死ねや」「日本語分かんのか」「ぶっ殺す」
また、男性2名が駅員の方に走って向かっていく様子も撮影されている。
これらの行為がSNS上で大きな非難を浴びていることは言うまでもない。また、駅員ないしは鉄道会社、他の利用客らにとっても、迷惑でしかない。そこで、罵声を浴びせた「撮り鉄」らの刑事責任を追及することは考えられないか。成立し得る犯罪類型について、刑事事件の対応も多い荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に話を聞いた。
威力業務妨害罪の共同正犯が成立
まず、業務中の駅員らに対し罵声を浴びせる行為に、何らかの犯罪が成立し得るか。
荒川弁護士:「罵声を浴びせる行為や、駅員のところへ駆け寄っていく行為については、駅員と鉄道会社に対する威力業務妨害罪(刑法234条、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が成立します。
『威力』とは、相手の意思を制圧するに足りる勢力をいい、罵声を浴びせて威圧する行為や、走って向かっていく行為はこれにあたります。
また、『妨害』の点は、実際に業務が妨害されていなくても、その行為が妨害をするに足りるものであればこれに該当します。したがって、威力業務妨害罪が成立します。
なお、罵声を浴びせた者は複数おり、一人ではあそこまでエスカレートしなかったと考えられます。「他の人もやっているから」と強気になり、互いに心理的に影響を及ぼし合い、それによって結果を発生させたと評価できます。
したがって、自身が物理的に実行していない部分についても責任を負う『共同正犯』として罰せられると考えられます(刑法60条参照)」
発言内容によっては別途「脅迫罪」「侮辱罪」の可能性も
このように、罵声を浴びせる行為や駆け寄っていく行為自体には威力業務妨害罪の共同正犯が成立するが、荒川弁護士は、それに加え、個別の発言内容や行為態様に応じ、別途、駅員に対する「脅迫罪」「侮辱罪」が成立し得ると指摘する。
まず、「殺すぞ」「ぶっ殺す」など危害を予告する言葉については、脅迫罪(刑法222条1項、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)に該当するという。
荒川弁護士:「脅迫罪は、相手の生命・身体・自由・名誉・財産に対し害を加える旨を告知して脅迫した場合に成立する犯罪です。
まず、『殺すぞ』などの言葉が、相手の生命・身体に対し害を加える旨の告知であることは明らかです。
次に『脅迫』は、相手を畏怖させる程度のものであることが必要です。これは言葉自体だけでなく、その言葉が発せられた具体的状況から判断されます。
本件についてみると、多くの撮り鉄が罵声を浴びせている状況のなかで『殺すぞ』という強烈な言葉を発することは、駅員を畏怖させるに十分です。したがって、駅員に対する脅迫罪が成立し得ます」
次に、「社員の質もそんなに下がったんか」「難聴かよボケが」「安月給」「日本語分かんのか」等の罵倒については、駅員に対する侮辱罪(刑法231条、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留(※)もしくは科料(※※))が成立し得るという。
※刑事施設で1日以上30日未満の期間拘置されること(刑法16条)
※※1000円以上1万円未満の金額を支払うこと(刑法17条)
荒川弁護士:「侮辱罪は、公然と人を侮辱した場合に成立します。なお、似た犯罪に名誉毀損罪(刑法230条)がありますが、侮辱罪との違いは具体的な事実を摘示したか否かです。侮辱罪は、事実を摘示しない場合です。
駅は不特定または多数の人が利用する場であり、現場には罵声を浴びせた者以外の人もいたと考えられるので、公然性をみたします。
また、『社員の質もそんなに下がったんか』『難聴かよボケが』『安月給』『日本語分かんのか』といった言葉が侮辱にあたることは明らかです」
現場で駅員らに罵声を浴びせた「撮り鉄」たちは、その場の勢いに任せて、盛り上がって、つい乱暴な言葉を発した面もあるのかもしれない。
荒川弁護士が指摘したように、一人だけであればあそこまでエスカレートすることは考えにくく、「他の人もやっているから」という状況だからこそ強気になり、行動が過激化してしまう典型的なケースだったと考えられる。刑法が「共同正犯」を処罰している理由もそこにある。
しかし、そのような行為が犯罪に該当し得ること、場合によっては刑務所に入らなければならなくなることは厳然たる事実である。
「撮り鉄」に限らず、自分が趣味等にのめり込むあまり、反社会的な行動をとってしまうリスクは、どのような分野でも存在する。たえず自身の行動を顧みることが必要だろう。
取材協力弁護士
- この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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