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「裁判所は勇気が足りない」弁護士らが7月の参院選「違憲・無効」と提訴した訴訟が結審…国会の“手続違反”も指摘

「裁判所は勇気が足りない」弁護士らが7月の参院選「違憲・無効」と提訴した訴訟が結審…国会の“手続違反”も指摘
会見する三竿径彦弁護士(10月8日 東京都内/弁護士JPニュース編集部)

今年7月20日に投開票された参議院議員選挙が議員定数配分の不均衡により「違憲・無効」であるとして、三竿径彦(みさお みちひこ)弁護士らのグループ(三竿グループ)が選挙無効の判決を求めた裁判の第1回口頭弁論が、8日、東京高裁で開かれた。

口頭弁論後の記者会見で、三竿弁護士は、「代表民主制の下、国民の権利義務に関するルールである法律を定める国会で、議論を尽くして最終的に多数決を行う際、国会議員の投じる一票一票の重みがバラバラであれば、国民の意思を正確に反映したことにはならない」と訴えた。

また、公選法の内容自体の違憲性だけでなく、立法の過程・手続きの違憲性を指摘し、裁判所の審理のあり方にも疑義を呈した。

本件訴訟は第1回期日限りで結審し、判決は11月12日に言い渡される。

最高裁は過去2回の選挙で「是正への取り組みが進展せず」と批判

原告ら「三竿グループ」は、東京都選挙区と、全国を対象とした比例代表選挙について、選挙無効の判決を求め、東京高裁に「選挙無効の訴え」を提起した(公職選挙法204条、205条参照)。

同グループは、越山康弁護士(故人)らが1960年代から始めた、参議院議員選挙が行われるたびに「定数是正訴訟」を起こす活動を引き継いできている。

これまで、裁判所は一貫して国会の裁量を広く認めるアプローチをとり、請求はすべて棄却されてきた。しかし、最高裁は判決理由中でしばしば問題点を指摘し、時には判決理由中で「違憲状態」「違法」との強い表現を用いて警告を行うなどし、それが国会に対するメッセージとなり、是正が行われてきたという実績がある。

現行の参議院の選挙制度は2018年に定められたものであり、過去2回(2019年、2022年)の参院選の際の定数是正訴訟で、最高裁はいずれも国会の「較差(こうさ)」の是正への取り組みが進展していないと指摘した。

そして、今回の参院選はその状況が変わらない中で、現行法に基づいて行われた。

三竿弁護士:「一票の価値の較差が『東京都:福井県=1:3.126』だから問題なのではなく、東京に本来配分されるべき議席数が配分されてないから問題なのだということを論述した。

今回の選挙は前回選挙とまったく同じ法律に基づいて行われ、その間、較差は拡大しているので、国会の不作為の程度はより大きくなったといわざるを得ない」

國部徹弁護士も、「参議院の選挙区選挙の148議席を各都道府県の人口に従って割り振れば、東京都に割り当てられるべき議席数は『16.2231』で、少なくとも16議席でなければならないはず」と指摘した。

國部徹弁護士(10月8日 東京都内/弁護士JPニュース編集部)

国側は「良識の府」「地域代表的性格」を主張するが…

被告である国側は、参議院が「良識の府」「再考の府」であり、「人口を基準とするのみでは適切に反映されない国民の意見を公正かつ効果的に国政に反映させるため、投票価値の平等の要請のみならず、それ以外の諸要素についても十分に考慮することを求めている」としている。

しかし、この点について、三竿弁護士は、憲法と最高裁の過去の判示内容を根拠として、「理由がない」と反論する。

三竿弁護士:「そもそも憲法は(衆議院と参議院について、任期・選出方法等で差をつけているにとどまり)地域代表や職能代表といった特別の意義を認めていない。

最高裁も、参議院だからと言って、衆議院よりも投票価値の平等を後退させる理由はないとの判断を示している。

参議院においても、人口に比例して定数を限りなく1:1で配分すべきであり、議員は等しい人口の選挙区から選ばれるべきだ」

「立法手続き」にも問題がある

原告らは、現行の公選法を制定する際の「立法手続きの過程での憲法違反」についての審理も求めている。訴状によれば以下の通り。

(1)国民の信託に対する違反(平成24年(2012年)改正法「附則」(※)の違反、平成27年(2015年)改正法の「附則」(※※)の違反、定数削減の約束の違反)
(2)国会が討論(憲法51条)を尽くしていない
(3)定数増員の立法目的は存在せず、動機が不当であること(埼玉県選挙区の定数2名の増員は、自民党と公明党の「党利党略」であること)

※「平成28年(2016年)の選挙までに抜本的見直しを検討し、結論を出す」と規定

※※「制度の抜本的見直しについては、平成31年(2019年)参院選までに必ず結論を得る」と規定

それに加え、國部弁護士は、参院での審理について、議論をリードする立場にあった参院議員に対する証人尋問の申し出が不採用となったことを批判した。

國部弁護士:「裁判では毎回、中央選管が『国会が改革の努力をしたこと』を主張し、裁判所も毎回それを理由の一つとして合憲判断をしている。

前回の2022年最高裁判決の後、参議院では『参議院改革協議会』の下に『選挙制度に関する専門委員会』が設置され、選挙制度についての協議が行われた。しかし、結果として『合区(※)の解消』だけでは一致したものの、議論がまとまらず、『今後も引き続き検討を続ける』という趣旨の結論で終わった。

そこで、我々は裁判所に『参議院改革協議会』座長の松山政司議員と、『選挙制度に関する専門委員会』委員長の牧野たかお議員への証人尋問を申請したが、採用されなかった。

国会に対し『どんな努力をしているのか』を聴取しないまま、中央選管の主張をそのまま採用して判決を出すことが妥当なのか、問題提起したい」

※参院選で、人口の少ない県どうしを一つの選挙区として統合する制度。較差(定数不均衡)是正のため2016年から導入され、現行法下では「鳥取県・島根県」と「徳島県・高知県」の2選挙区がおかれている。

非民主的な裁判所が“国民代表機関”の国会にモノを言うべき理由とは

わが国の統治機構は国会・内閣・裁判所の「三権分立」の制度をとっている。とはいえ、裁判所は、一貫して、国会の「立法裁量」を広く認めてきた。

その理由として、しばしば、裁判所が以下の2つの観点から「自制」をしていることが指摘される。

第一に、「民主的基盤の有無」については、国会が国民代表機関として民主的な基盤があり、内閣も国会に責任を負う立場にあるのに対し、裁判所を構成する裁判官は、国民の意思を直接反映しない法律の専門家にすぎないことが挙げられる。

第二に、「裁判所の審査能力」の点については、裁判所が判決の基礎とできる事実・証拠は当事者が収集・提出したものに限られるのに対し、国会は全国民の社会経済に関する資料を収集し、政策的見地から総合的な判断を行う責任と能力があるということが挙げられる。

しかし、三竿弁護士は、憲法学界の定説で判例も基本的に採用しているといわれる「二重の基準の理論」(※)に触れながら、選挙制度のような、議会制民主主義の根幹、前提条件を整えるルールについては、国民の人権を保障する見地から、裁判所がむしろ積極的に判断すべきだとする。

※精神的自由、参政権等の重要な人権を制限する立法は、それ以外の経済的自由権等を制限する立法より、厳格な基準によって審査されるべきとする理論(芦部信喜『憲法 第八版』(岩波書店)P.106等参照)

三竿弁護士:「裁判所だけが、憲法を解釈して法令等の憲法適合性を判断する権能を与えられている。

本件訴訟で問題になっているのは、国民一人一人が自分の政治に参加する権利と、議会制民主主義で、法の下の平等や個人の尊厳ともかかわっており、いずれも重要な問題だ。このような場面では、人権保障の見地から、裁判所には厳格な審査が求められる。

また、本件訴訟では、法律を定める過程・手続の適正性が重要だ。その点については、裁判所の判断能力に問題はない」

三竿弁護士はまた、株式会社の取締役が自分自身の報酬を決めてはならないという会社法の『お手盛り防止』のルール(会社法361条参照)を引き合いに出し、国会議員の選挙制度に関するルールを国会議員自身が法律で決めることの限界も指摘した。

三竿弁護士:「国会議員が、自分たちの身分にかかわることを、みずから広い裁量で決めていいというのは、どう考えてもおかしい。したがって、裁判所が厳格に判断することが求められるというべきだ」

また、國部弁護士も、「選挙制度は議会制民主主義の前提をなすものであり、一度誤ったルールが採用されたら民主主義の過程では修正が困難だ。したがって、裁判所こそが介入しなければならない」と補足した。

さらに、山口邦明弁護士は、較差是正のために導入された「合区」の制度について、全国の都道府県議会や市町村議会、一部の弁護士会等が「合区の解消」等の意見書を相次いで出していることを指摘し、「裁判所は被告側が資料として提出したぶ厚い意見書の束を見て、足踏みしているのではないか。勇気が足りない」と述べた。

山口邦明弁護士(10月8日 東京都内/弁護士JPニュース編集部)

前述の通り、現行法で行われた過去2回の参院選の際の定数是正訴訟では、判決理由中で、最高裁は国会の較差是正への取り組みが進展していないと、批判的な指摘を行っている。

その後、是正がなされないまま施行された今夏の参院選について、高裁判決(11月12日)、ひいては最高裁判決においてどのような指摘が行われるのか、注目される。

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