長崎・女神大橋事故、死亡したトレーラー運転手に同情の声 “追突された車”は「無灯火」で駐停車禁止車線に…「過失運転致死罪」適用の可能性は?
長崎市の女神大橋(めがみおおはし)で起きたトレーラー追突事故。
各社の報道等によれば、今月13日未明、大型トレーラーが乗用車に追突し、トレーラーの運転手が橋から海に転落し死亡したほか、乗用車に乗っていた会社員も腰の骨を折る大けがを負った。
現場の防犯カメラ映像などから、追突された乗用車が当時「駐停車禁止の車線にライトを消して27分間に渡って停車し、運転手は交際相手と電話をしていた」ことが判明している。
事故の詳細が報道されると、SNSなどでは「トレーラーの運転手さんが不憫すぎる 」「女神大橋は完成してからずーっと『危ないから路上駐車すんな』って注意されてた」と乗用車側の行動を非難する声が多く上がった。
今回のように、“追突された側”が、夜間の公道(駐停車禁止車線)において無灯火で停車していた場合、事故の責任について、法的にはどう評価されるのか。
駐停車禁止区間に「無灯火」で停車…罪になる?
交通事故に多く対応する大黒凌弁護士は、「具体的な事実関係が明らかとなっていないため本件について明言はできない」と前置きした上で、今回追突された乗用車のように、駐停車が禁止されている車線に無灯火で停車することは、道路交通法上さまざまな問題をはらむと指摘する。
・駐停車禁止場所での停車・駐車の禁止
「女神大橋上には『駐停車禁止』の標識がありますので、そのような場所で停車・駐車をしていた場合、道路交通法44条に違反する行為となります」(大黒弁護士)
・灯火の点灯義務
「車両は、夜間(日没時から日出時までの時間)、道路にあるときは、前照灯・車幅灯・尾灯その他の灯火をつけなければなりませんので、無灯火であったということであれば道路交通法52条に違反する行為となります」(同上)
・安全運転義務・注意義務
「運転者には、常に道路・交通の状況を把握し、他の交通への危険を予見しそれを回避するために必要な措置をとる義務があります。夜間に駐停車禁止場所でライトを消して止まるという行為自体、他の車両にとって障害となりうるので、道路交通法70条に違反する可能性があります」(同上)
さらに、今回の事故では停車していた乗用車に衝突したトレーラーのドライバーが死亡しているため、これら道路交通法違反のほか、自動車で事故を起こし、人を死傷させた際に適用される「過失運転致死罪」(自動車運転処罰法5条)が成立する可能性もあるという。
「過失運転致死罪」成立のための要件は…
ただし、過失運転致死罪が成立するためには「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」という要件を満たす必要がある。
大黒弁護士は、「今回の事故で過失運転致死罪が適用されるかどうかには、『運転していたといえるか』が問題になりそうです」と述べる。
「ライトを消して駐停車禁止の場所で止めていた場合でも、エンジンがかかっていたかどうか、駐車状態か単なる一時的な停車か、ハンドル操作が可能な状態だったかなどの事情によって、『運転している状態にあった』と評価できれば、過失運転致死罪に問われる可能性が高いと考えられます。
なお仮に過失運転致死罪に問われなくても、過失もしくは重大な過失により人を死亡させたとして『過失致死罪』(刑法210条)もしくは『重過失致死罪』(刑法211条)には該当するものと思われます」
また、民事上の過失割合にも影響があると大黒弁護士は続ける。
「一般的に停車中の車両に後続車が追突した場合、民事上の後続車の過失は100%と見られることが多いです。
しかし、今回のように“追突された側”が、夜間に、駐停車禁止場所で、ライトを消して止まっていたのであれば、これらの要素によって、後続車に有利な形で過失割合が修正されることになろうかと思われます」
弁護士「長崎の観光名所で…」
長崎出身の大黒弁護士は「長崎の観光名所でこのような事故が起きてしまったことを大変痛ましく思う」として、ドライバーらに注意を呼びかけた。
「女神大橋に限らず、橋の上は周囲に街灯や照明設備が十分でないことが多く、また反射材やガードレールなど視界を補助する要素が少ないことがあります。夜間にライトを消して止まると、後続車がその車の存在を認識するのに時間を要するでしょう。
また駐停車禁止の場所ということになると、運転者としては『駐停車禁止の場所で車が止まっている』という事態は通常予想できず、さらに対応が遅れがちにならざるを得ず、今回のような痛ましい事故につながる可能性が高くなります。
もし事故が起きてしまえば、当事者は、行政上・刑事上・民事上の責任を問われる可能性が高く、社会的な非難も予想されます。
ドライバーの方には、車両を駐停車させる場合、駐停車禁止の場所でないか確認し、駐停車が可能であっても、非常灯(ハザード)、駐車灯・尾灯の点灯、反射材の設置、可能なら交通車線から退出するなど、交通の安全確保のための措置を講じることを心掛けてほしいと思います」
取材協力弁護士
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