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部下が2分遅刻、“みんなの前で”叱ったら「パワハラ」? どこまでが“指導”か…3つの「判断基準」とは

部下が2分遅刻、“みんなの前で”叱ったら「パワハラ」? どこまでが“指導”か…3つの「判断基準」とは
みんなの前で叱ったらパワハラで、個室で叱れば指導なのか?(teresa / PIXTA)

職場で部下を叱るとき、「これはパワハラになるのでは?」と自分の言動に不安を覚えた経験はないだろうか。

一方、叱られた部下も「自分はパワハラを受けている」と感じることがあるだろう。しかし、パワハラは部下側の主観だけで成立するわけではない。

判断のカギとなるのは、法律に基づく「3つの要素」だ。部下への「正しい叱り方」について、実例を踏まえて紹介する。

※この記事は公認心理師の宮本剛志氏による著作『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社、2024年)より一部抜粋・再構成しています。

商社に勤務しているAさん(20代半ば)。月曜日の9時には朝のミーティングがあります。

Aさんはいつも9時オンタイムで会社に到着しますが、その日は2分遅れてしまいました。しかし、ミーティングは始まったばかり。本題には入っていなかったので「間に合った」と思ったものの、上司の課長から皆の前で「遅刻するな」と叱られてしまいます。

課長は落ち着いたトーンで冷静に叱りました。しかしAさんは、皆の前で叱られて、とても不愉快でした。「こんな恥ずかしい思いをさせなくてもいいじゃないか」「まだ本題にも入っていないのに。これはパワハラだ」と不満を抱きました。

翌月の月曜日、Aさんはまた遅刻してしまいます。

今度は、課長に会議室に呼び出されました。課長はため息を何度もつきながら、「やる気あるの?仕事をなめているってことでしょ」「よくお前みたいないい加減な性格のやつがこの仕事を続けられるな。日頃からお客様との簡単なことすらできないんだから、もううちの会社にいらないよ!」と言い続けました。

さて、これはパワーハラスメントでしょうか?

部下が「パワハラだ」と感じたらパワハラ?

カウンセリングをしていると、「部下がパワハラと感じたらパワハラですよね?」とよく質問されます。世間にもこのように思い込んでいる人が少なくありません。

はたして、本当にそうなのでしょうか?

パワハラか否かを判断するためには、パワハラに該当する「3要素」を知っておくことが大切です。3要素とは法律上の定義にある以下の①~③のことです。

「①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」(改正労働施策総合推進法[通称:パワハラ防止法]より)

①~③のすべてに当てはまるものがパワーハラスメントとなります。

つまり、部下(相手)がパワハラと感じたからといって、パワハラであるとは限らないのです。

イラスト:髙栁浩太郎(宮本剛志『「ハラスメント」の解剖図鑑』誠文堂新光社より)

では、これを誰が判断するのでしょうか?

それは第三者です。相談があった場合、お互いの言い分を聞き、時には周囲の同僚にも話を聞いた上で判断されます。第三者によって、パワハラなのか指導なのか線引きする必要があるのです。

法律上、パワハラには主に以下の6類型があります(6類型以外でもパワハラになることがあります)。

1、身体的な攻撃:暴行・傷害
2、精神的な攻撃:脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
3、人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
4、過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害
5、過小な要求:業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないこと
6、個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること

「皆の前で叱る=パワハラ」とは限らない

朝のミーティングに遅刻してきた部下を叱った課長は、パワハラ6類型の「精神的な攻撃」に当てはまってしまうかもしれません。ため息を何度もつき、「いい加減な性格のやつ」と人格否定をしています。

実は、ため息のような非言語の行為もパワハラに該当する可能性があります。誰かが発言するたびに舌打ちをする、嘲笑する、書類に八つ当たりするなどです。ため息を何度もつくのは威圧的であり、Aさんは怖くなってしまうでしょう。

ただし、一定程度強く叱ることはやむを得ない部分もあり、Aさんにも改善を求める必要があるでしょう。

叱り方で悩む管理職が多いと思います。下段の「パワハラにならない叱り方」を参考に、叱る時には正しく叱れる管理職を目指しましょう。

なお、Aさんが1回目に遅刻した際に、課長は皆の前で叱りました。よくある勘違いが「皆の前で叱る=パワハラ」です。皆の前で叱ったら必ずパワハラになるわけではありません。

今回のケースで言えば、皆が集まっている朝のミーティングに無断で遅れて来た場合は、叱る必要があります。そうしなければ、同僚が「Aさんは遅れて来たのに、なんで課長は注意しないの?」と課長に不信感を抱くでしょう。課長のように冷静にひと言叱ることは大切です。

パワハラにならない叱り方

「パワハラにならない叱り方」のポイントは、「あ・れ・ぐ・み・か」です。

以下の5つを、叱るときに意識しましょう。

あ:I(あい:私)メッセージ
主語を「私」にしたメッセージにすると、部下が受け止めやすくなります。例えば、期日までに提出物を出せなかった部下に対して、「(私は)期日までに提出してほしい」と叱ります。

れ:冷静に
ぐ:具体的に
み:短く一つだけ
か:変えられること(言動)に焦点を当てる

変えられないことを叱ってしまうとパワハラになりがちです。例えば、人格や性格など、変えられないことを叱っても何の生産性もありません。

  • この記事は、書籍発刊時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
書籍画像

「ハラスメント」の解剖図鑑

宮本剛志
誠文堂新光社

2022年4月に中小企業でもパワハラ防止対策を実施することが義務付けられました(大企業は2020年から)。
職場でも、ハラスメントはパワハラだけでなく、マタハラ、セクハラ、モラハラ、アルコールハラスメントなど、多岐に渡ることが周知されてきています。
それにも関わらず、労働局などに寄せられる労働相談のトップはいまだに「いじめ、嫌がらせ」で、大企業では法律施行後も年間1万8千件以上のパワハラ相談が寄せられています。
研修などで社員教育を進める企業も多くありますが、担当者でさえ、「何がハラスメントにあたるのか」「どうしたら防げるのか」を理解していない場合が多いのが実情です。
本書は、企業や官公庁、学校にて年間150回程度のセミナーを行い、年間300人以上から個別の相談を受け、さまざまなハラスメントを解決に導いてきた著者が、職場で起きやすい全48種のハラスメントを解説します。