産経新聞の「名誉棄損」にジャーナリスト勝訴 弁護士「Twitterのケンカレベル」と痛烈批判

弁護士JP編集部

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産経新聞の「名誉棄損」にジャーナリスト勝訴 弁護士「Twitterのケンカレベル」と痛烈批判
記者会見を終えた「大袈裟太郎」こと猪股東吾さん(12月8日 霞が関/弁護士JP編集部)

ジャーナリスト、ラッパーとして活躍する「大袈裟太郎(※1)」こと猪股東吾さん(40)が名誉棄損などで産経新聞社を訴えた裁判の判決が12月8日に東京地裁で言い渡され、産経新聞社に22万円(弁護士費用2万円を含む。請求額は110万円)の支払いが命じられた。

(※1)1982年東京生まれ。音楽家・アーティストとして活動するほか、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』や園子温監督映画『TOKYO TRIBE』などにも出演。2016年ごろから政治活動を開始し、現在は沖縄を拠点にジャーナリストとして活動している。

那覇支局長の署名入り記事が発端

裁判の発端となったのは、2017年11月10日に産経新聞社がインターネットで公開した「辺野古で逮捕された『大袈裟太郎』容疑者、基地容認派も知る“有名人”だった」と題する記事。

記事公開の前日、猪股さんは名護市辺野古で行われた基地反対運動の抗議行動中に逮捕されている(翌日に釈放され不起訴処分)。記事では、当時の産経新聞社 那覇支局長の署名入りで、猪股さんについて「いわくつきの人物」と報道。基地容認派の評判として、猪股さんが「暴力の限りを尽くしている」「社会を荒らしている」などと、ネットに上がった県民の声として「(猪股さんの逮捕が)朗報」「天誅が下った」「沖縄から追放、強制送還すべき」などと紹介した。

誹謗中傷に対する「裁判官の感度のなさ」に疑問

8日の判決では、「暴力の限りを尽くしている」「社会を荒らしている」といった内容に対する名誉棄損について「(猪股さんが)粗暴な人物であるなどの否定的評価がされるに足りるものであることは明らか」など認められた。

一方「朗報」「天誅が下った」「沖縄から追放、強制送還すべき」という内容については、名誉棄損のほか侮辱罪にもあたるかが争われており、名誉棄損は認められたものの、侮辱罪については「政治的・社会的活動に関連して述べられた評価であり、原告(猪股さん)の人格や個人的属性に対して直接否定的評価をするものとは解し難い」として認められなかった。

これについて、代理人の神原元弁護士は「基本的人権について裁判官の認識の低さをまざまざと見せつけられた。(産経新聞社に支払いが命じられた)22万円という賠償額もあまりに少なく、裁判官の誹謗中傷に対する感度のなさを指摘せざるを得ない。高裁で引き続き争っていきたい」と述べた。

記者会見に臨む猪股さんと神原弁護士(12月8日 霞が関/弁護士JP編集部)

産経新聞の記事は「Twitterのケンカレベル」と痛烈批判

判決後、記者会見に臨んだ猪股さんは「記事が出て以降、いろんな攻撃が明確に私に対して向いてきた」と述べた。ネットの誹謗中傷はもちろん、実生活でもスーパーで買い物をしている最中に見知らぬ人から胸ぐらをつかまれ「殺すぞ」と言われたり、街を歩いているだけで罵声を浴びせられたりするなど、「ひとりの人間の生活を破壊するようなものだった」(猪股さん)という。

また、代理人の神原弁護士は産経新聞社の報道体制にも疑問を示した。

「猪股さんが『暴力の限りを尽くしている』とした根拠として、記事では第三者のFacebookをほぼそのまま掲載していた。本来は裁判で執筆者(元那覇支局長)が証言しなければならないが、退職したという理由で法廷には現われなかった」(神原弁護士)

産経新聞社が代わりの根拠として提出したのは「よく分からない報道機関でもないようなところが作っている動画」だったという。

このような事態に対し、神原弁護士は「もし誰かを非難するような記事を書くのであれば、きちんと取材の過程を残していただいて、掲載に耐えうるようなものにしていただかないと裁判にすらならない。Twitterのケンカレベルでしかない」と痛烈に批判した。

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