
大学縮小時代へ待ったなし? 「筑波大学」学部再編報道も真っ向反論…OBは「そもそも統合の必要性なし」と疑問符

難関公立高校の定員割れ、大手予備校のスト、女子大の閉学、大学の過半数が定員割れ…昨今の教育関連のこうした話題の先にあるのは、大学志願者の更なる減少と経営難という険しい未来だ。
根底に少子高齢化があることは明白だろう。大学受験者数は、1991年の18歳人口ピーク時の半分近くとなり、高等教育機関のだぶつき感は年々増加している。
特に私大では顕著で、2024年度は入学定員充足率100%未満の大学が約59%となった。加えて、人気は上位大学に集中し、下位大学には志願者が集まりづらい傾向が強い。選ばれない大学はその存在意義自体が問われかねない状況だ。
今後こうした傾向はさらに強まる見込みで、文科省の推計では大学進学者は2035年に59万人、2040年には46万人にまで減少する。
中教審が示した、縮小・廃止への生々しい内容
こうした状況に文科省も切り込み、2024年12月に諮問機関の中央教育審議会(中教審)が特別部会で「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(答申案)」をまとめている。その中で、具体策として挙げられているのは次の3つだ。
(1)質の更なる高度化
(2)規模の適正化
(3)アクセスの確保
大学進学者減少が不可避というネガティブな状況の中で、いかに質を維持し、教育環境を進化させるかに腐心している内容だ。
一方で、(2)は、学校関係者にとってシビアな提言といえる。
ズバリ、経営状況に関する要件の厳格化など、縮小・撤退により踏み込んだ内容であるからだ。
具体的には、「一定の規模縮小しつつ、質向上、大学院へのシフト、留学生・社会人増を行う大学等への支援」「設置計画の履行が不十分な場合の私学助成減額・不交付等」「定員未充足や財務状況が厳しい大学等を統合した場合のペナルティー措置緩和」「早期の経営判断を促す指導の強化」「在学生の卒業までの学修環境確保」「卒業生の学籍情報の管理方策の構築」などが挙げられ、生々しささえ漂う。
(3)についても、実質は大学縮小後における大学過疎地域への「アクセス」であり、もはや大学縮小は不可避といえる内容だ。
答申案を受け、東京私大教連中央執行委員会と日本私大教連中央執行委員会は「廃止を求めてきた定員減を促進させる制裁措置(私大助成の減額・不交付、新学部・新学科申請での制限、修学支援制度からの除外)についてなんら改善されていないばかりか、再編・統合の推進や縮小・撤退の促進策がいっそう強調されている」などと意見し、強く反発。
2025年2月に公表された同答申についても、日本私大教は「規模の適正化、つまり大学数を減らすという淘汰(とうた)促進の政策を中心に置いている。その対象は私立大学のみである」として、改めて強い不信感を示した。
筑波大学の学部統合・再編が一部メディアで報道も大学は‟否定”
そうした中、6月上旬、筑波大学が水面下で文系複数学部の統合・再編を進めていると一部メディアで報道された。
その内容は人文・文化学群の下にある人文、比較文化、日本語・日本文化の3学類を統合し、人文学専門学群に改組するというもの。こうした動きを上層部が主導している旨も記された。
同大はこの報道を受け、すぐに反論。「内容が極めて不正確である」と当該メディアに即日申し入れたとし、公式HPで報道を否定した。

まず、統合する方針については「このような方針が決定された事実はない」と否定。方針を上層部が示したとする点については「学群長、学類長が示したもので、大学執行部は関与せず」と説明。人文系軽視の懸念についても「文系教員の問題意識と未来像に文系軽視という視点はない」と全面否定した。
一方で、人文・文化学群について、その将来像を「現在も同学群が各学類の意見を聴取しながら議論を続けている」とし、環境変化に合わせたシフトを模索していること自体は否定しなかった。
内部資料で判明した筑波大学の学部統合・再編の動き
弁護士JPニュース編集部は一連の動きに関する内部資料を入手。そこにはかなり踏み込んだ筑波大学人文・文化学群の再編案が記されていた。
これが「議論を続けている」という同大の将来像の複数案のひとつだとしても、かなり練り込まれた内容だ。
たとえば、学群設置の必要性については次のように記載されている。
<今日の地球規模課題の解決に人文学が果たす役割が大きいことは社会で広く認知されているところである。地球規模課題の解決につながるような人文学の知の活用とはどのようなものなのか、また深刻に進む少子化のなかで、それができる人材を育成するにはどうすればよいのかという社会的課題に対して、研究型大学で人文学の教育を担う組織は応答しなければならない。そのためには、人文・文化学群を再編して、人文学の教育を担う教育組織を新設する必要がある>
具体的な教育方針も示されている。
<"Beyond the borders"をスローガンにして分野の壁を越えた研究の強化と人材育成を進めてきた筑波大学は、以前よりこうした問題に取り組み、学際的な教育を展開してきた。この大学の方針を踏まえ、新学群では1、2年次においてチュートリアル教育を積極的に取り入れ、語学やデータサイエンス、さらに他学群の科目も加えた幅広い学問分野に触れ、自らの関心を見いだすことのできる教育を行う。
そのうえで3、4年次に専門教育を実施する(Late(r) Specialization)。そこでは専門領域をユニット(仮称)に分け、各ユニットに複数の専門分野(メジャー)を設置する。学生は自ら選んだメジャー以外にも、自身の関心に沿ってまとまって学ぶことができる研究分野をマイナーとして選択することもできる>
議論中とはいえ、その内容はかなり煮詰まっている印象だ。
教職員関係者からは不信と憤りの声も
大学関係者に近いA氏が明かす。
「実は一部情報が外部に漏れ、大学関係者らが団体交渉を行いました。その場では『決定事項ではない』と述べられましたが、その後も3学類では決定事項としての扱いが続いています。団体交渉での発言はその場限りの取り繕いだったのです」
もはや既定路線のように進められる同大の学群再編。それはまさに前述の中教審「少子化答申」に即した動きといえ、少子化時代における、大学が置かれた厳しい環境下での険しい未来を乗り越えるためのアクションということになるのだろう。
同大比較文化学類OBの指宿昭一弁護士は、こうした母校の動きに疑問を呈する。
「そもそも、この3学類を廃止し、統合する必要があるかが疑問です。3学類の教員数は大きく減少しており、まずはこれを食い止めることが優先されるべきでしょう。減少を前提とした廃止・統合方針を打ち出すのは不健全です。
しかも、学生、教職員の意見を聞かず、学群長と学類長だけで方針を決めるのもおかしい。議論はボトムアップで行われているというなら、学群長・学類長からではなく、3学類の学生、教職員からのボトムアップで方針は決めるべきです」
同大が一連の大学改革に積極的に取り組んでいる点も見過ごせない。今回の動きの最終形が他の国立大学のモデルケースとなる可能性もあるからだ。
それだけに、同大がこれからどのように全方位との調和を図りながら、統合も見据えた人文・文化学群の将来像を描き、示すのかはしっかりと注視しておく必要がありそうだ。
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